離党・辞職を否定した小沢氏の”無実”はほぼ確実。 それでもやはり、自ら離党すべきだった
(DIAMOND online :上杉隆 2010年10月7日) http://p.tl/sC6t


たったいま、小沢一郎元幹事長の記者会見が終わった。


 衆院本会議開始直前のわずか10分前から議員会館で行われた「ぶら下がり会見」は、結論から言えば、期待はずれであった。


 筆者が事前に期待したのは、小沢氏の自発的な「離党」である。

 しかし、小沢氏は「会見」で真っ向からその可能性を否定した。現場からUst中継をしていたフリーライターの畠山理仁氏のツイッターから引用する。


「今、話した通り、国の正式な捜査機関である検察当局の一年余に及ぶ強制捜査の中で、えー、起訴するような不正な事実はないと、こう、いうことが明らかになったわけでありますので、私としては、そのような(離党)意思は持っておりません。淡々として政治活動は、私が必要とされる限り、続けてまいります。今、言ったように、検察当局で不起訴となった、ことでありますので、えー、同志の皆さんも、党のみなさんも、そのことは十分、理解していただけると信じております。(略)んー、ただ、あの、皆さんも、ちょっと考えていただければおわかりのとおり、いー、検察審査会で、裁判の場で、法廷で、法廷で、えー、事実関係を改めて明らかにしろということで、司法の場に移っておりますので、その意味では、あのー、その場で、えー、きちんと、おー、事実関係を明らかにして、えー、なんの不正な、問題もないと、いう結論を、おー、得るように、全力を尽くしたいと思います」


 これらの言葉だけを聞けば、確かに納得できるものだと思う。

 しかも、今回、検察審査会が起訴相当とした根拠である「調書」は、検察庁自らが事実上否定したのみならず、作成した人物自体に大いなる問題を抱えている代物なのである。

 話は逸れるが、その問題について、なぜか新聞・テレビの記者クラブメディアは、ほとんど報じることをしない。

これまでとは手のひらを返したような、怒涛の検察批判報道が溢れる中、その部分だけ報じないのはいかにも不自然である。

 その理由は、郵便不正割引事件で証拠のFD(フロッピーディスク)を改竄したとして逮捕された大阪地検特捜部の前田恒彦検事、彼の存在にある。


■FD改竄の前田元検事が「陸山会」事件も担当していた!

 じつは、驚くべきことに、当の前田検事は、「陸山会」事件も担当していたのだ。とりわけ、小沢事務所の金庫番である大久保公設秘書の取調べ主任検事こそが、前田容疑者その人である。

 ということは、次のようなことがいえるだろう。

 仮に「陸山会」事件関連の「調書」が捏造されたとものだしたら、その途端、小沢一郎氏の一連の「政治と金」の問題に決着がついてしまう。

 つまり、記者クラブメディアにしてみれば、小沢氏の「政治とカネ」の問題について、1年余にわたって「誤報の山」を築いたことが決定してしまうのである。

「陸山会」事件の「調書」が、「捏造犯」によって同じく偽造された可能性は否定できない。この点を踏まえても、小沢氏の「無実」は確実なように思える。


 にもかかわらず、筆者は小沢氏は離党すべきだと考えている。

 かように問題の多い検察審査会といえども、それは法律で定められたシステムであることに違いない。そして、それを作ったのは他ならぬ国会議員自身である。他の職業ならばまだしも、立法府の一員がそれを批判できるものではないのである。

 そして、なんといっても小沢氏には拭えない「過去」がある。

 昨年の西松建設事件で、小沢元秘書で、民主党所属だった国会議員・石川ともひろ氏は、「党に迷惑をかけたくない」として離党している。表向きは自主的な離党ではあったものの、それは「起訴されれば、離党勧告」という民主党の「暗黙のルール」に従ったものであった。

 実はその際、離党を促した民主党の代表こそが、小沢一郎氏だったのである。


■小沢氏は自らの起訴だけを「例外」とすべきではない

 また、その後、同じく党所属の小林千代美議員が、運動員の公選法違反による連座制の対象となった際も、同様に、民主党は離党を促している。

 当時、党代表であった鳩山由紀夫首相は、その辞任会見の中で、小沢幹事長の「解任」とともに、小林議員の離党勧告を公言している。

 少なくとも代表、幹事長として、起訴された二人の党所属議員の「離党」を認めた小沢氏が、自らの「起訴」の場合だけを例外とすることは難しいだろう。

 小沢氏の「過去」が自らの離党を促しているとはこのことなのである。

 だが、デメリットだけではない。政治的に小沢氏は、自ら「離党」することで、優位に立つ可能性もあるのである。


 たとえば、ロッキード事件の際、起訴された田中角栄元首相は自民党を離党したが、それによって政治生命が絶たれるということはなかった。

 無所属議員として、二権力構造と批判されながらも、自民党に残してきた「旧田中派」の議員軍団を操って、〝闇将軍〟として永田町に君臨し続けることに成功したのだ。

 だが、田中氏はその後、有罪判決を受ける。その結果、派閥の分裂を招き、政治権力を失っていく。

これを小沢氏と置き換えてみれば、一目瞭然だろう。


 今回の裁判の結果、小沢氏が有罪判決を受ける可能性は限りなく低い。となれば、その時、民主党は小沢氏への「離党」を取り消さなければならない。そればかりではなく、小沢氏を「無実の被害者」として救済し、相応の地位で迎え入れなければならなくなるだろう。


 それは、厚生労働省の村木厚子局長のケースを考えてみればわかりやすい。

小沢氏は、自らの言を矛盾させないためにも離党すべきだ。それこそ、ブレない政治家として最後に果たすべき、政治的使命だと考える。