どんどん”中身”がなくなっている特捜事件。その究極が小沢事件


[特捜検察負の歴史─ロッキードから小沢事件まで  魚住昭]  (日刊ゲンダイ2010/10/13)

最近、「昔の特捜は良かったが、いつからかダメになった」という声をよく聞きます。これは、半分当たっているが、半分は違う。郵便不正事件で村木厚子・厚労省元局長の無罪判決を勝ち取った弘中惇一郎弁護士の言葉を借りれば、「昔は悪質・巧妙だったのが、今は悪質・ズサンになった」というのが真相だと思います。
戦後、特捜部が手がけ、政治の大きな節目になった事件は4つあります。「ロッキード事件」「金丸脱税事件」「ムネオ事件」「小沢事件」です。

まず、76年のロッキード事件。ロ社の新型旅客機の選定をめぐり、丸紅経由で田中角栄元首相に5億円のワイロが渡ったとされる事件です。93年には、自民党の金丸信・元副総裁の巨額脱税事件が発覚。これが自民党分裂のきっかけになりました。
ロ事件では、検察が特定した現金授受の日時や場所などは矛盾だらけでしたが、5億円のカネの流れがあったこと自体は間違いないでしょう。金丸氏の金庫からも10億円単位のワリシンが出てきた。彼が巨額の資産をため込んでいたことは事実です。

ところが、02年のムネオ事件になると、事件の規模が一気に小さくなる。受託収賄・あっせん収賄罪に問われたカネは500万円と600万円。特捜部が扱う案件にしては、あまりにショボイ。
国会議員を起訴するには巨額のカネの流れがあることが暗黙の前提だったのに、立件のハードルを下げて、無理やり事件をつくりあげたのです。ムネオ事件以降、特捜部が手がける事件は、どんどん中身がなくなっていきますが、その究極が09~10年の小沢事件です。

西松建設事件で問題にされたのは、収支報告書にしっかり記載された「表」のカネ。ヤミ献金でも裏金でもないのです。陸山会事件にいたっては、04年分に記載すべきものを05年分にしたという形式的なもの。従来なら報告書の修正で済ませてきた話で、そもそも事件自体が存在していない。小沢事件は壮大な虚構なのです。
村木さんの事件にも同じことが言えます。「議員案件」というだけで、カネの流れは一切ない。そもそも事件の構図に無理があり、特捜部の捜査能力の劣化は歴然としています。

立件のハードルを下げることと、捜査能力の劣化は、ほぼ同時に進行し、検察という組織をむしばんできた。それはちょうど、戦前の陸軍が暴走し、日本を破滅させた過程に似ています。