無実の小沢リンチに加担する国会の怪  (日刊ゲンダイ2010/10/15)

デタラメ検察審査会の審査こそ先決

─国会は「小沢一郎の証人喚問」などとバカ騒ぎだが、デッチ上げ捜査の特捜検察と検察審査会の奇怪な正体の疑惑解明にはなぜ動かないのか

─強制起訴というけれど小沢裁判など初めからメチャクチャな政治謀略。寄ってたかって犯人に仕立てて抹殺しようという意図は何なのか

自民党の国会議員は、ほかに質問するテーマがないのだろうか。この国会で取り上げられるのは、民主党・小沢一郎元代表の国会招致の問題ばかりである。
きのう(14日)も、テレビ出演好きで目立ちたがり屋の山本一太議員が「小沢元代表は証人喚問に応じるべきではないか」とキャンキャン吠えた。よく分からない理由で菅首相に「失礼だ」と食ってかかった西田昌司議員も「小沢さんを証人喚問に呼ぶように」とわめいていた。舞台が衆院から参院に移っても、国民がうんざりさせられるのは同じである。

自民党は大マスコミと一緒になって小沢を犯罪者に仕立てようとしている。それには小沢を国会に引っ張り出して血祭りに上げるのが一番。旧体制を維持したい官僚組織も彼らの味方だ。みんなでグルになって小沢を抹殺したいのだ。しかし、陸山会の法律違反は、「04年10月の土地取引について、05年の政治資金報告書に記載した」という一点である。この程度の「期ズレ」は本来、修正申告してチョンだが、小沢の場合、会計責任者だった元秘書らが逮捕され本人の共犯まで法廷で争われようとしている。これは異常というほかない。小沢が行政訴訟で反撃するのも当然である。


◆ストーリー崩壊の検察に残された「期ズレ」

「検察は、小沢氏がヤミ献金で私腹を肥やしたとのストーリーを描き捜査を始めた。西松建設からの政治献金をめぐり大久保元秘書を逮捕し、水谷建設から5000万円入りの紙袋を受け取ったという元秘書の石川議員も別件で逮捕。ゼネコンだって片っ端から捜査した。しかし、小沢氏が犯罪に手を染めたという証拠は何ひとつ出ませんでした」(司法事情通)

シナリオが崩壊した結果、検察に残ったのは「期ズレ」の問題だけ。
捜査は完全に見込み違いだったのである。しかも、小沢が会計責任者に対して、時期をずらすよう働きかけたり指示したりした証拠すらなかった。だから、検察は起訴できなかったのだ。それでも小沢は検察審査会によってお白州に送られる。犯罪者のようにみなされ、国会でさらし者にされようとしている。これはもうリンチというほかない。恐ろしい事態である。

国会で小沢関連問題を取り上げるのなら、招致ウンヌンよりも先にやらなければならないことがあるだろう。ありもしない犯罪をでっち上げた東京地検特捜部の捜査手法と、証拠もないのに起訴できる巨大な権力を与えられた検察審査会のあり方について、じっくり検証することだ。
ありもしない疑惑に基づいた不毛のキャッチボールを続けるよりも、よほど建設的である。


─審査員がホントにいたのかどうかも分からない異常

とりわけ問題なのが、「民意」を隠れみのにやりたい放題が許されている秘密組織の検察審だ。小沢の強制起訴を受け、法曹関係者からも重大な欠陥を指摘する声が上がっている。
そりゃそうだろう。何度も審査員の平均年齢を訂正する事務局などまったく信頼できないし、審査会議でどんなやりとりがあったのかも分からない。ある弁護士は「これだけ訂正を繰り返すとなると、本当に審査員がいたのかどうかも怪しくなる」と言った。まさかとは思うが、それを否定できるだけの材料は示されないのだから、「審査員は幽霊じゃなかった」とも言い切れない。

元検事で名城大教授の郷原信郎氏が言う。
「検察審査会の“会議”は法律で非公開とされています。しかし、“会議録”は公開すべきです。プライバシーへの配慮が必要というのなら氏名を伏せることもできます。最低でも審査補助員に選ばれた弁護士の発言は開示できるはず。弁護士は、氏名も明らかになっているし、記者クラブで会見もしている。ためらう理由はありません。読売新聞(10月6日朝刊)によると、審査補助員を務めた吉田繁実弁護士は、暴力団の共謀が争点となった判例などを持ち出して、暴力団や政治家という違いは考えずに上下関係で判断を、と迫ったそうです。これが事実なら、審査員の自主的な判断を妨げてはならないとする検察審査会法に違反しています。審査補助員が判断に影響を与えたかどうかを検証するためにも、会議録はオープンにしなければダメです」
審査員はシロウトである。証拠や供述の扱いに詳しい人は、まずいない。専門家の審査補助員が言葉巧みに誘導すれば、イチコロだ。

クセ者は補助員だけではない。検察官だって直接、審査員に説明することができるのだ。しかも、どんな手練手管を使ったとしても、密室の出来事だから公表されない。被疑者には審査員に弁明できる機会は与えられていない。
それなのに、捜査側は「善良な市民」を籠絡できるのだ。


◆「小沢問題」は北海道補選敗北の「保険」

そんな検察審に「国民の判断」とか「市民目線」があるなんて幻想である。
「検察審査会に強制起訴の権限を与える法改正は、国会議員が国会で決めたのです。これだけ欠陥が見つかっているのだから、国会には現行法を検証する責任がある。小沢氏を追い込む材料に使えるからなどと放置しておくのは許されません。民主党も真っ正面から取り組むべきです。反小沢で支持を集めてきた菅首相は、野党や世論の小沢叩きを歓迎しているフシもありますが、姑息な人気取りだけの政権運営では、いずれ行き詰まります」(政治評論家・山口朝雄氏)

それでなくても永田町では、菅政権が「小沢起訴」を尖閣問題の目くらましに利用した疑惑がささやかれている。9月14日の議決から10月4日の公表まで20日間も遅らせることで、始まったばかりの臨時国会を小沢問題一色にし、自分たちの不手際を目立たせないように画策したとみられているのだ。
「菅さんたちは、小沢さんの国会招致問題を24日の北海道5区補選まで引っ張り、敗戦の“保険”に使いたいようです。普通に負ければ、大敗した参院選の二の舞いと批判されます。しかし、事態を長引かせておき、『政治とカネの問題が……』と弁明すれば、負けは小沢さんのせいにできる。執行部は責任追及をかわせます」(民主党事情通)

こんなセコイ理由で小沢のリンチを続ける連中のために、国民は政権交代を選択したのではない。ワーワーと騒ぐことしか能のない与野党の議員は、政治も国会も国民もなめている。