検察審査会は信用できない?(週刊現代 2010/10/30号)

「衆愚の時代」を考える
鳥越俊太郎

「私は小沢氏の事件に対する検察審査会の議決文を読みましたが、『なるほど』と納得できる文章ではない。非常に感情的で、論理の飛躍が目立つ一方で、はっきりとした根拠は何もありませんでした。検察審査会は、市民という名の素人集団。ステレオタイプのマスコミ報道に、悪い影響を受けてしまっているんです」
こう語るのは、ジャーナリストの鳥越俊太郎氏だ。

鳥越氏はいま、朝日新聞と激しい論戦を繰り広げている。
発端は、先月6日に鳥越氏が毎日新聞「ニュースの匠」に寄稿した文章だった。小沢一郎氏の「政治とカネ」問題をめぐって、<検察審査会は〝市民目線〟と新聞では持ち上げられてはいますが、しょせん素人の集団>とバッサリ。プロである東京地検特捜部が不起訴と判断した以上、事件は<虚構>だとする意見を表明した。
これに対して、朝日新聞は鳥越氏の発言を引き合いに出しながら、<市民の力を信じる>という趣旨の社説を掲載(同月19日付)。元俳優・押尾学被告の裁判員裁判で有罪判決が出されたことを受けて、<責任感をもって事件に向き合った裁判員が、この日の判決を導き出した>と市民の力を賞賛した。応じるように鳥越氏は今月4日に毎日新聞に再び寄稿。朝日新聞の記事に対して、メディア関係者とはいえ民間人の自分の名前を実名で出されたことに驚いたとした上で、<私は市民の力を信じてはいない>と改めて主張したのだ。
一連の応酬について、鳥越氏はこう語る。
「朝日新聞の論調は『市民=正義』。これはとんでもない考え方ですよ。犯罪者だって市民、市民にはいい市民もいれば悪い市民もいる、これが現実なんです。それに日本という国はもともと、一つの方向に国民全体が流れやすい。言語は一つ、読んでいる新聞・雑誌、観てるテレビはほとんど同じだから、誰かが一方向へスイッチを押すとそっちへ一斉に流れちゃう。小沢氏を特捜部が狙っているとなれば、マスコミが一斉に小沢批判を始める。それが拡声器のようになり、市民全体は『小沢=悪いやつ』だと思ってしまうんです。これが検審の判断では、モロに出てしまったということでしょう」