●検事総長は今後に道筋をつけ引責を
(日経新聞:社説 2010/10/22付) http://s.nikkei.com/9w9MB1


 大阪地検特捜部による証拠改ざん・隠ぺい事件で法務・検察当局は前特捜部長と前副部長の起訴と、8件の人事処分を発表した。

 前部長、前副部長は懲戒免職。大阪地検の現・前検事正、前次席検事の3検察官は減給処分を受け、辞職する。前部長らはともに起訴内容を全面否認し、懲戒処分についても争うとみられる。

 改ざん・隠ぺい事件の起訴状と人事処分の理由に照らすと、最高検は、証拠改ざんを隠ぺいしたのは、組織ぐるみではなく、前部長ら2人だと判断している。2人は上司の次席検事、検事正に「証拠品の電磁データが過誤により改変された可能性があるが確認できない」などと事実をまげた説明をし、検事正らが大阪高検、最高検に報告を上げないように仕向けたというのだ。

 証拠改ざん・隠ぺいの背後に検察組織の機能不全、腐敗があったのが明らかな以上、事件の真相解明は本来、法務・検察当局以外の機関に委ねるのが筋だったはずだ。しかし刑事責任の追及は、犯罪を捜査し起訴か不起訴かを決める権限をもつ検察に任せざるを得ない。

 捜査は前部長らの起訴で終わったのだから、今後は、犯罪ではなくても職責に背いた個人の行為や組織の動きの洗い出しに主眼をおき、改ざん・隠ぺいの経緯を事細かに明かす調査に移るべきだ。公正さと透明性を確保するには、調査チームに法務・検察の外部の人を入れる必要がある。さもなければ、法務・検察当局は「事態の矮小(わいしょう)化」「さらなる隠ぺい」を疑われても仕方がない。

 改ざん・隠ぺいの舞台になった郵便料金不正事件の捜査や公判全般の検証は、改ざん・隠ぺいの捜査とは別に、最高検検事らが進めている。この作業にも、当然、第三者を加えるべきだ。

 捜査、取り調べから、集めた証拠の価値評価、起訴判断までを一貫して自ら担う特捜部のあり方への疑問や不信、果ては特捜部解体論までが、事件を機に弁護士や刑事法学者などから続出している。取り調べの状況を録音録画する「可視化」は、もはや待ったなしだとの意見も説得力を増している。

 事件発覚後初めて記者会見した大林宏検事総長は謝罪したうえで「信頼を回復するのが責務」と述べた。法務・検察当局に向けられた、真相の公正な解明と、徹底した組織改革の要請にこたえる道筋をつけ、速やかに自己の責任の取り方を表明するのが信頼回復への道ではないか。




●検察の犯罪 果断な大改革で出直せ
(東京新聞 2010年10月22日) http://bit.ly/9V9c6G


 証拠改ざん事件で、大阪地検特捜部の前特捜部長らが起訴され、上司の検事正らも辞職する。前代未聞の不祥事の処分は、これで幕引きなのか。検察の出直しにはもっと果断な対応をするべきだ。

 浮かび上がった検察の病理は数々ある。最大の問題は、検察が描いた郵便不正事件の構図が、文書の「日付」という客観的な証拠で崩れていることを知りつつ、捜査と公判を続行したことだ。

 厚生労働省元局長の村木厚子さんは無罪となったが、証拠上の矛盾が、それ以前から明らかだった。特捜部だけでなく公判部も、暴走を止める自制が働かなかったことは極めて深刻だ。職権乱用罪だとの批判も出ているほどである。

 証拠改ざん事件で起訴された元検事や前特捜部長、元副部長の三人の犯罪だと矮小(わいしょう)化してはならない。郵便不正事件は、検察権力による組織ぐるみの“犯罪”なのである。

 村木さんの保釈を長く認めなかった裁判所も問題だ。罪を認めないと拘置が続く「人質司法」を放置していては、冤罪(えんざい)はこれからも起こるのは明白だ。

 可視化へ向けた論議に拍車がかかるのも必至だ。元副部長が最高検に「全面可視化」を求めたからだ。経験豊富な敏腕検事だっただけに、検察の取り調べの強引さや危うさを認めた言動と受け止められてもやむを得まい。

 チェック機能が働かなかったことも看過できない。隠蔽(いんぺい)したとされる前特捜部長らは言語道断だが、「問題ない」と報告を受けた検事正らもチェックの目を持たなかったわけで、辞職は当然だ。

 正義を実現する資格のない特捜部に対し、解体論さえ問われている。近年は巨悪とはいえない不正を無理して事件化していないか。検事が点数稼ぎで事件を手掛けているのなら、本末転倒である。

 柳田稔法相は「検察の在り方検討会議」を設置するという。組織の病理の解明と改善は当然として、捜査段階から第三者の目でチェックする仕組みなど大胆な改革が提案されてもよい。

 検事総長は処分の対象からはずれた。事件当時は監督できる地位になかったからだという。だが、信用を重んずる民間企業なら容赦なく進退を問われるケースだ。検察の信頼回復には、真っ白なスタートラインから地道に成果を挙げていくしかない。トップは役所の論理を捨て、自ら身を引く決意を持った方がよかろう。



●「改ざん」検察処分 権力犯罪への認識甘い
(毎日新聞:社説 2010年10月22日 2時31分)  http://bit.ly/bbWijz


 「前代未聞の事態に至ったことを国民の皆様におわびする」

 大阪地検特捜部の証拠改ざん事件で、大林宏検事総長が会見して頭を下げた。無罪が確定した厚生労働省元局長の村木厚子さんにもおわびした。トップとして当然だろう。

 一方、既に懲戒免職処分になった元主任検事の証拠改ざんを隠ぺいしたとして、法務省は大坪弘道・前特捜部長と、佐賀元明・元副部長を懲戒免職処分とした。

 処分対象は、2人の上司にも広がった。小林敬検事正と玉井英章前次席検事は減給、太田茂前大阪高検次席検事は戒告だ。また、改ざんが行われた当時、大阪地検検事正だった三浦正晴・福岡高検検事長も減給処分となる。三浦、小林、玉井の3氏は、引責辞職する。

 3人の検事が刑事訴追されるという前例のない事態を踏まえた処分である。だが、これで国民の納得が得られたとは到底、言えまい。

 検察という権力が、作り上げたストーリーに沿って組織ぐるみで無罪の人を犯罪者に仕立て上げようとしたのが、この事件の本質である。

 特に、今年2月の時点で大坪前部長らから報告を受けた小林、玉井両氏の責任は重大だ。

 最高検によると、2人は「元主任検事により証拠品のフロッピーディスクの文書データが書き換えられたと公判担当検事が騒いでいるが、言いがかりにすぎない」などと報告を受けたが、放置したのだという。

 これで証拠書き換えの可能性に思い至らないとすれば、神経を疑う。組織のトップとして失格というだけでは済まない。この時点で事実関係の調査をしていれば、村木さんの公判を続ける結論にはなっていなかった可能性が高い。

 その意味で、この不作為は、真実の究明よりも公判の維持を優先し、組織ぐるみの隠ぺい工作の片棒を担いだと評価されても仕方ないものだ。辞職するにしろ、減給処分は生ぬるいと言わざるを得ない。

 一方、大坪、佐賀両被告は「(元主任検事による)故意の改ざんとの認識はなかった」と完全否認のまま検察と対決することになる。

 刑事責任の有無は、法廷で争われる。だが、少なくとも部下の証拠品データの書き換えという重大な行為に対して、組織防衛に走った責任の重大性は否定できまい。

 今後、手を緩めずに自らに厳しく検証できるのか、検察の真価が問われる。佐賀被告は「密室の取り調べは真相解明にならない」として、取り調べの録音・録画を求めた。捜査の最前線にいた元検事の発言である。可視化も含め一切のタブーを排し、組織全体のうみを出すべきだ。



●大阪地検前特捜部長と元副部長起訴 一貫して容疑否認
(朝日新聞:社説 2010年10月22日3時4分)  http://bit.ly/S4hmI


 最高検は21日、元主任検事による証拠改ざんを隠した疑いで逮捕した大阪地検特捜部の前部長・大坪弘道容疑者(57)と元副部長・佐賀元明容疑者(49)を、犯人隠避の罪で大阪地裁に起訴した。2人は「元主任検事からは過失と聞いた」と一貫して容疑を否定している。起訴に先立ち法務省は、同日付で2人を懲戒免職処分とした。検察トップの大林宏・検事総長が記者会見で陳謝するとともに、「失われた国民の信頼を一刻も早く回復することが私の責務」と引責辞任は否定した。

 就任時などを除き、検事総長が会見に出るのは異例のこと。大林総長は「前代未聞の事態に至ったことを国民の皆様に深くおわびしたい」と述べる一方、「徹底した検証を行い、抜本的な改革案を講じたい」と組織改革に意欲を示した。

 また、会見に先立ち、柳田稔法相が大林総長を大臣室に呼び、「検察の信頼は地に落ちた。先ほど総理の指示も受けてきたが、信頼回復のため、強いリーダーシップをお願いする」と指示。大林総長は「検察を代表して深くおわびする」と謝罪した。

 起訴状によると、大坪前部長と佐賀元副部長は、元主任検事・前田恒彦被告(43)=証拠隠滅罪で起訴=が郵便不正事件の証拠品であるフロッピーディスク(FD)内のデータを意図的に改ざんしたと知りながら、今年2月1日にまず、事実を知る同僚検事らに口止めして隠蔽(いんぺい)したとされる。

 前田元検事は東京地検特捜部の捜査の応援中だったため、元検事本人には同2日に電話で「過失と説明するように」と伝え、同8日に過失の弁解を考えるよう指示した。これを受けて前田元検事は同10日、「確認作業中にデータが過誤で改変された可能性があるが、FDは返却済みで改変の有無は確定できない」とする虚偽の上申書を提出。大坪前部長らは了承し、より合理的な説明になるよう修正を指示したという。

 また、大坪前部長らは2月2日に地検次席検事に「公判担当検事が、前田元検事のデータ確認作業を『書き換えだ』と問題視しているが、言いがかりに過ぎない。FDは返却済みで確認できないうえ、改変があっても過誤に過ぎない」と虚偽の報告をした。同3日には検事正に「公判担当検事が騒いでいるが、言いがかりで問題はない」と報告。捜査は不要だと思わせて、前田元検事が証拠隠滅罪で刑事罰を問われないようにしたとして起訴された。

 一方、大坪前部長と佐賀元副部長は「前田元検事からは過失と聞いたため、上にも過失と報告した」と容疑を全面否認しているという。

 前田元検事は昨年7月、実態のない障害者団体が郵便料金を不正に免れるために発行された偽の証明書の文書データの更新日時を、「2004年6月1日未明」から「04年6月8日夜」に改ざん。村木厚子・厚生労働省元局長(現・内閣府政策統括官)が「04年6月上旬」に作成を指示したとの見立てに合わせるためだったとされる。

 今回の起訴で一連の証拠改ざんと犯人隠避の捜査は終結したが、最高検は、村木元局長の無罪が確定した郵便不正事件全体については検証を続け、年内に結果を公表する。さらに、第三者による諮問機関として柳田法相が設置した「検討会議」が、特捜部のあり方や取り調べの可視化など、検察制度の見直しを検討する。




●前特捜部長起訴 幕引きではなく改革の一歩に

(読売新聞:社説2010年10月22日01時13分) http://bit.ly/awQnfT


 検察はこれを幕引きとしてはなるまい。地に落ちた信頼を回復するには外部の声を入れた組織や人事の改革と、検察捜査の見直しが必要だ。

 大阪地検特捜部の元主任検事による証拠品の改ざん事件を巡り、最高検は大坪弘道・前部長ら元特捜幹部2人を、事件を隠蔽(いんぺい)しようとした罪で起訴した。

 検察トップの大林宏・検事総長は、記者会見で「検察幹部まで逮捕、起訴する前代未聞の事態に至ったことを国民の皆様におわびする」と謝罪した。

 一方、法務省は大坪前部長ら2人を懲戒免職にしたほか、大阪地検の検事正らを国家公務員法に基づく減給、前大阪高検次席検事を戒告処分とした。最高検次長検事も内部規則上の処分を受けた。

 改ざん疑惑について事実関係を調査しなかった責任や、監督責任を問われたものだ。処分は当然だ。検察は不祥事を生んだ組織の欠陥について検証を続け、改革につなげなければならない。

 「身内」の元幹部2人を起訴したものの、今後の公判は難航が予想される。大坪前部長らが一貫して容疑を否認しているからだ。

 最高検は、改ざんの隠蔽を大坪前部長らから指示された、とする元主任検事の供述などを支えにしている。しかし、供述に頼る危うさは、厚生労働省元局長の村木厚子さんの無罪が確定した郵便不正事件で明らかになっている。

 公判では、できる限り裏付けとなる物証を示し、丁寧な立証を心がけるべきだろう。

 郵便不正事件の捜査では、元主任検事が、押収品のフロッピーディスクに自ら描いた事件の構図と矛盾する日付の記録があることを知りながら、村木さんの逮捕を強行した。上級庁の高検、最高検はそれを見抜けなかった。

 今年1~2月には、地検内の一部に改ざん疑惑を指摘する声が上がっていたが、公判では、村木さんを有罪にしようという立証が続けられた。

 物的証拠の軽視、組織内でのチェック機能のなさ、ひとたび事件に着手すると軌道修正しにくい体質。いずれも特捜部だけでなく検察全体に共通する問題である。

 検察の組織は閉鎖的で、情報開示にも極めて後ろ向きだった。

 組織改革を議論する第三者機関が、近く法相の下に設置される。民間企業の社外監査役のように、外部から恒常的にチェックする仕組みなども検討してはどうか。

 検察の動静を国民が注視していることを肝に銘じるべきだ。