最悪となった菅政権のやっていること  (日刊ゲンダイ2010/10/26)


そもそも国会で小沢一郎に何を聞くのか

─政治とカネの疑惑解明というけれど検察が年月をかけて調べて何も出てこない不正な事実をどうやって調べることができるのか

─小沢一郎を調べないと補正予算を通さないという野党も予算に賛成してもらうために小沢のクビを差し出すという民主党も国民のための国会審議を一体何と考えているのか


◆[政治][経済][軍事][外交][国民生活]どれをとってもメチャクチャでアメリカと官僚のいいなりが自民党時代より酷くなっている

なんとも滑稽な姿だった。重要閣僚を歴任した派閥の領袖が、だ~れも知らない若造に勝って大喜びしたのである。
町村元官房長官ほどの大ベテランが、この程度の補選で何をトボケているのかという感じだが、選挙戦で主張したのは「クリーンな政治の実現」だからガックリだ。新人議員じゃあるまいし、訴えるべき実績はなかったのか。おかげで選挙はドッチラケ。投票率は、昨年の衆院選に比べ20ポイント以上も下落した。
だが、有権者にそっぽを向かれた選挙でも、勝った自民党は勢いづいている。「補欠選挙は政治とカネの問題が最大の焦点だった」(石原幹事長)、「政治とカネの問題をおろそかにするなという民意だ」(谷垣総裁)と大合唱。公明党と連携し、小沢一郎元代表の証人喚問を実現しようと意気込んでいる。
まったく冗談ではない。小沢の「政治とカネ」の疑惑なんてオバケや幽霊のたぐいと同じである。「知ってる」とか「見たことがある」とかヒステリックにわめく連中はいても、存在が証明されることは永遠にない。想像の産物なのである。
小沢の資金管理団体「陸山会」で問題にされているのは、04年10月の不動産取引を翌年分の政治資金収支報告書に記載したこと。普通なら、この手の「期ズレ」は修正申告して終わりになる。
小沢の場合は違った。本人を捕まえようとした検察は、会計責任者だった当時の秘書たちを次々に引っ張って、ネチネチと取り調べた。それでも小沢の不正を示す証拠は見つからず、捜査は不発に終わったのだ。



◆小沢喚問の茶番に乗っかる菅政権の悪巧み

そんな「存在しない疑惑」について「ある、ある」と大騒ぎし、証人喚問で解明しようという状況は、どう考えたっておかしい。「喚問しろ」と叫んでいる連中は、一体、小沢に何を聞きたいのか。それによって何を解明できるというのか。
政治評論家の有馬晴海氏が言う。
「小沢氏を証人喚問したところで、新しい事実が出てくる可能性はありません。検察は証拠不十分で捜査を打ち止めにしたのです。調査能力で劣る国会が一夜漬けで調べても、小沢氏の無罪がひっくり返ることはないでしょう。喚問には偽証罪があり、それがプレッシャーになるという人もいますが、検察だって本人を事情聴取しているのです。偽証せざるを得ないようなウイークポイントがあるのなら、とっくに逮捕されていますよ。小沢喚問は、野党が民主党を追い込むための材料に過ぎません。小沢氏をつるし上げれば、民主党にダメージを与えられる。国民の支持はハゲ落ちるし、民主党内の亀裂を広げることもできる。それが狙いなのです」
ところが、菅政権は、野党の茶番に乗っかる構えだ。岡田幹事長は小沢の意向を確認するという。喚問要求を無視すれば補正予算が危ういということもあるが、小沢のクビを差し出して反小沢をアピールした方がトクと判断しているのだ。
まったくふざけた話である。国民のための国会審議をなんだと考えているのか。ムチャクチャなのは、恫喝やはぐらかしでケムに巻く仙谷官房長官の答弁だけではないのである。

─唐突に明らかになったTPP参加のいかがわしさ
こんな政権だから、やることなすこと、すべてお粗末。足踏みの景気や進行する円高・ドル安に打つ手はなく、国民の暮らしはフラフラだ。外国人トレーダーの間では、「NODA(野田=財務相)とは、『NO Decisive Action(決断力のある行動がとれない)』の略」とのジョークまで広まっている。
唐突に明らかになったTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への参加検討も、国民を困惑させている。同志社大教授の浜矩子氏(国際経済学)が言う。
「これまで聞いたこともなかった言葉が突如注目されたことには、えたいの知れなさ、いかがわしさを感じます。菅首相は、どんな構想やビジョンに基づき押っ取り刀で飛びついたのか。それがまったく見えないのに、参加の流れだけが一気につくられようとしています。これは危うい。そもそも、域内の関税を完全撤廃するTPPは、経済のブロック化を進める保護主義政策。WTOの基本理念『自由、無差別、多角、互恵』との整合性は取れないのに、それに対する説明もないのだからデタラメです」
TPP参加に節度や思想性がないのも当然だ。こんなものに組み込まれれば、800%近い関税に守られているコメを筆頭に、日本の農業は壊滅する。自給率のアップも食の安全もへったくれもない。国民は闇鍋の前に座り、何を食わされるか分からない状況に追いやられる。いくら菅でも、さすがにまずいと思うだろう。
「それでも菅首相が参加に前向きなのは、来月、横浜でAPECを開くからです。米国はTPPをテコに農産物の輸出を拡大したい。外務省は、米国の機嫌を取って、基地問題で溝ができた日米関係を修復したい。この両者のシナリオに、議長国の目玉が欲しかった菅首相が乗った格好です」(民主党関係者)


◆無用の緊張を招く幼稚な外交
菅は、自らのパフォーマンスのために、国民の安全をないがしろにするわけだ。
「菅政権の政治は、自民党政権時代よりも酷(ひど)くなっています。自民党政権の最後は、偏狭なナショナリズムを吹き上げる危険な発想で国民生活を不安に陥れた。それでも自制は利いていました。菅政権には、それがありません。中国に対する姿勢を見ても、前原外相や枝野幹事長代理が挑戦的な態度で刺激し、無用の緊張を招いている。ワシントンべったりのアジア軽視は珍しくありませんが、あまりに幼稚。新しい時代にふさわしい外交戦略は見えてこないのです」(政治評論家・本澤二郎氏)
国民は政権交代に期待した。自民党よりマシな政治になると思い込んだ。予想を裏切る菅政権の惨状は、日本の未来を暗くしている。



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