民主政権崩壊は年末か来春か (日刊ゲンダイ2010/10/27)


無党派層はなぜ民主党を見放したか


─1年前、政権交代の原動力となった彼らは今菅と仙谷の民主党に愛想をつかし自民支持に回帰しているこの国の混沌たる政情


─ここまで来ると小沢一郎を潰した菅と仙谷一派の罪は重大。民主もダメ、自民もダメ、その他は少数政党のこの国の政治は無政府状態となっている菅民主党がなす術(すべ)もなく惨敗した北海道5区補選で、いちばん驚かされたのは、無党派層の投票行動だ。

読売新聞の出口調査によると、無党派層の45%が自民党の町村信孝(66)に投票。38歳で元国交省職員の民主党新人は33%だった。菅首相や仙谷官房長官が言う通り「政治とカネの問題が響いた」ならともかく、読売の調べでは、補選で選挙民が重視した問題のトップは「景気・雇用対策」、次が「年金など社会保障」で、「政治とカネ」は9%に過ぎない。つまり、無党派層までが「生活」を考え、自民党支持に回帰しているのだから深刻だ。ある民主党幹部が嘆いた。

「無党派層の支持は民主党の専売特許みたいなもので、昨年の政権交代の原動力になった。北海道は特にそうでした。その無党派層が民主党を見限り、よりによって自民党政治の腐敗・堕落の“象徴”のような嫌みで上がり目もない町村に流れたのだからイヤになります」
無党派層が民主党に愛想を尽かした理由は言うまでもない。「国民の生活が第一」の理念は捨てられ、菅政権が官僚の言いなりになっているからだ。労組以外にこれといった既得権益集団と縁がないのが民主党の良さでもあったのに、今や官僚組織ばかりか、大マスコミや経団連をはじめとする旧勢力のご機嫌伺いをしている。やっていることは自民党政権と同じなのだ。だったら、アマチュアの民主党よりも、経験だけはある自民党の方がマシとなっておかしくないのである。

この4カ月間で菅・仙谷コンビがやってきたことといえば、支持率狙いの小沢潰しだけ。この国をどうしたいのか、何をやりたい内閣なのか。ビジョンがさっぱり見えないから、参院選で大敗し、補選でも劣勢を覆せない。おまけに「脱小沢」だけで稼いできた支持率もどんどん下がっている。時事通信の調査では、もう「不支持」と同率だ。最大の支持基盤だった無党派層に見放された菅民主党政権の寿命がハッキリしてきた。



◆公明党に協力を期待しても無理

補選惨敗を知って国民新党の亀井静香が「このままじゃ政権は溶解する。自公政権と同じになる」と言ったが、当たっている。崩壊危機は年末にもやってくる。
「ねじれ国会の中で、菅内閣は公明党に媚(こび)を売り抱き込む計算でいる。補正予算を5兆900億円に膨らませ、公明向けに3500億円の地域振興を盛り込んだ。菅首相は東京富士美術館を突然見学し、創価学会との関係修復にも動いた。しかし、その一方で、学会と関係が悪化している元公明党委員長の矢野絢也氏への秋の叙勲を決めたり、官邸はやることが支離滅裂なのです。叙勲問題が大ごとになれば、公明党は意地でも菅政権と対決姿勢にならざるを得ません」(永田町関係者)

補正は自然成立でしのげても、問題はその後だ。政治評論家の浅川博忠氏が言う。
「永田町の議員たちの話を聞くと、税収の極端な落ち込みで年末に11年度の本予算は組めないのではないかと口をそろえるのです。そんな前代未聞の事態になったら、菅内閣は即ギブアップです。仮に赤字国債だらけの超緊縮予算を組んだとしても、党内外から袋だたきに遭い、予算審議が進むかどうか分かりません。自民党はもちろん、来年春の統一地方選を控える公明党も欠陥予算に協力する義理はないから、遅くとも来年3月に菅内閣は完全に行き詰まりですよ」
世論にも見捨てられた菅政権が、野党の猛攻に耐えるのは無理。バンザイするしかないのだ。


─前原をトップにしようが“政権不在”の国になる

その日暮らしの何もできない菅内閣が潰れるのは自業自得だ。民主党研究で知られる評論家の塩田潮氏は、「民主党政権が続く条件は安定と改革」と言った。つまり、国民が不安を感じない政権運営と、それに加えてマニフェストで約束した改革を着実に実行することだという。
菅政権はその両方ができないのだからご臨終は当然だが、国民の不幸は、その先の政権が見えないことだ。
「仙谷官房長官は菅首相を捨て、前原外相をトップにして来春解散に踏み切るが、総選挙で大敗し、民主党も自民党も過半数を取れない事態に突入する」と、前出の浅川博忠氏は予想した。だが、菅よりも、さらにエキセントリックで視野が狭い前原に、この国の政権運営など100%不可能。
それでは自民・公明党の政権に逆戻りかというと、そっちも国民は望んでいない。菅政権以上に愛想を尽かされ、毛嫌いされ、政党支持率はずっと民主党の半分に落ち込んだままだ。といって、残りはみんなの党とか少数政党しかない。それが烏合の衆のごとく合従連衡したところで、政治が機能するはずもない。
どう考えてもこの国の政情は、大不況到来の中で、混沌たる無政府状態になっていくしかないのだから、背筋が寒くなる。


◆これも小沢を抹殺した報いだ

それだけに、「小沢排除」だけに血道を上げてきた菅と仙谷一派の罪は重大なのだ。
菅と戦った代表選で、小沢は「できないことはできないと言うが、約束したことは必ず守る」と宣言した。官僚機構を打破するために、今日まで政治家を続けてきたとも言った。政治経験が豊富でツボを心得た小沢だったら、あらゆる面で民主党は力強い政党になっていた。補正の中身も、官僚をドヤしつけてでも、内需拡大と円高ストップでメリハリをつけたはずである。尖閣問題でも、中国と独自ルートがあるから、検察に責任を押し付けるような幼稚なことはしなかった。政権交代のダイナミズムを見せてくれたのは間違いない。
法大教授の五十嵐仁氏(政治学)がこう言う。
「政権交代に夢を託した有権者は、今の民主党を見て“こんなはずじゃなかった”と感じています。特に無党派層は、自民党とは違う方向性を打ち出すことを期待したからこそ、昨年の総選挙で民主党に一票を投じた。それが、菅政権にはことごとく裏切られてしまった。本来なら与党が圧倒的に有利な補選で負けたのも、ひとえに菅政権が政権を託した国民の期待に何ひとつ応えようとせず、失望させる一方だからです。きのう(26日)も、民主党は自粛していた企業・団体献金の受け入れ再開を決めた。マニフェストに掲げてきた『企業・団体献金の禁止』をあっさり反故(ほご)にするなんて、何を考えているのか。権力の座に就けば何でもアリなのかと見られたら、国民からますます見放されます。もしもの話をしても仕方がありませんが、小沢氏が代表になり、これまでとは違う新しい政治を始めていれば、こうはなっていなかったでしょう」

しかし、菅や仙谷は、そんな小沢の力を活用するどころか抹殺して喜んでいる。狂気の沙汰だ。その揚げ句、せっかくの政権交代の期待を潰し、自分たちの党まで崩壊させ、政権不在を招こうとしているのだ。その罪は、万死に値する。



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