衆院補選の最大敗因は「政治とカネ」なのか?これからの菅首相は“進むも地獄、退くも地獄”だ


田中秀征 政権ウォッチ
(DIAMOND online 2010年10月28日) http://p.tl/sIzm


■民主党の補選敗北は、菅政権支持率低下の一里塚

 注目された衆院北海道5区補欠選挙は、自民党の町村信孝元外相が、約3万票差で民主党新人の中前茂之氏を振り切って圧勝した。

 民主党の敗因については、自民、民主の両党はじめ報道機関も総じて「政治とカネ」にあるとしている。

 果たしてそうだろうか。

 輿石東民主党参院議員会長は、ちょっと違う見方をしている。

「菅内閣発足以来の実績が問われているのは確かだ」

 民主党の渡邉周選対委員長も、「『政治とカネ』の問題も敗北の要因の中に当然ある」としつつも、「政権交代の成果をしっかり見せていかなければならない」とつけ加えている。

 私は今回の補選結果を、菅直人政権の支持率低下傾向の一里塚と見ている。すなわち、政権の支持率低下の傾向が、補選によって顕在化したに過ぎない。

 確かに『政治とカネ』は無視できない敗因だが、基本的には輿石氏の指摘が正しいと思っている。


■自民、民主共にハンディを抱えた選挙戦 投票率は前回より20%以上も低下

 今回の補選では、自民、民主両陣営が共に不利な要素を抱えていた。

 町村氏側は、良くも悪くも彼が自民党の古い体質を象徴する人と見られていたこと。加えて、前回総選挙で比例区当選を果たしているのに、あえて辞職して立候補した。法的に許されるとしても、もうひとつしっくりいかないものがある。

 民主党の中前候補の側を見ると、そもそも補欠選挙を施行しなければならなくなった原因が民主党にあったことは軽視できない。

補欠選挙は、国会議員の死去や、他の選挙(たとえば知事選など)への立候補によって欠員になった場合がほとんど。今回は、民主党の小林千代美前衆院議員が金銭スキャンダルによって辞職したことによるもの。本来ならば民主党が立候補を見送ってもよいものと言える。

 双方ともにハンディを抱えていると、「どちらにも投票したくない」という人が多くなるのも当然だ。

 投票率は何と53.48%。2009年総選挙(同区)の76.62%を20%以上も下回った。あれほど全国的な関心を集めたのに、である。

 また、共同通信の出口調査によると、『政治とカネ』を「投票の判断材料にした」人は58.5%もあるのに、その人たちの約半分(57.7%)が町村氏に投票したに過ぎない。もしもこの問題が本当の争点なら、8割以上の人が町村氏に投票してもよいはずだ。


■補選からも逃げた菅首相を待ち受ける 小沢氏証人喚問を巡る“地獄”

 菅首相はまたもこの選挙から逃げてしまった。「私自身のことは幹事長に判断を任せている」と言って応援に行かなかったのだ。現職首相が補選の応援をしなかったのは、森喜朗元首相以来だと言われる。「首相が行ったのに負けた」、「行ったから負けた」と言われるのが嫌だったのか。岡田克也幹事長の責任にして済む話ではない。

 これで自民党はじめ野党は、小沢一郎氏の証人喚問への要求を一段と強めるだろう。首相はこの件の最終判断から逃げることはできない。

 首相が証人喚問を是とすれば、党内の亀裂を深め、否とすれば世論の猛反発を受ける。「進むも地獄、引くも地獄」である。

 小沢人気と小沢不人気を巧妙に利用してきた首相が、これを乗り切れるだろうか。