[緊急寄稿]「尖閣ビデオを見て…」 [田中康夫 にっぽん改国] (日刊ゲンダイ2010/11/1)

期待はずれだった これが「衝突」なのか

「見れば一目瞭然」と前原誠司外務大臣が、海上保安庁を所管する国土交通大臣時代に豪語していたヴィデオが、遂に公開されました。本日11月1日午前8時から衆議院第一議員会館地下1階の特別室で開催された、衆参両院予算委員会理事等懇談会の場で。
限定29名の中の1人として、海上保安庁の鈴木久泰長官の説明と共に、9月7日午前10時15分からの3分20秒、同10時56分からの3分30秒、都合6分50秒のヴィデオを視聴した限りに於いては、豈図(あにはか)らんや、「う~む、この程度だったのか」が偽らざる印象です。
前編は、巡視船「よなくに」の左船尾に中国漁船の左船首がぶつかった前後。後編は、その約40分後に巡視船「みずき」の右舷中央部に中国漁船の船首がぶつかった前後。が、それを「衝突」「追突」「接触」の何(いず)れと捉えるか、批判を恐れず申し上げれば主観の問題ではないか、と思われる程度の「衝撃」なのです。出席していた複数の議員も、同様の見解を僕に呟きました。
鈴木長官の説明に拠(よ)れば、2度目の衝突から2時間後の午後零時56分、「領海外」で2隻の巡視艇が中国漁船を挟む形で拿捕(だほ)。然(さ)したる抵抗も無く、船長以下の乗組員は任意の事情聴取に応じます。公務執行妨害での逮捕は、その14時間後の8日午前2時3分です。
既に9月30日の予算委員会でも指摘した様に、領海侵犯や違法操業、入管法違反という「王道」ではなく、公務執行妨害という「覇道」で逮捕に至った判断ミスを下したのは、「逮捕を決めたのは俺だ」と周囲に語っていた前原氏。然(しか)るに釈放後には一転、「国交相だった自分に逮捕権はない。逮捕したのは海上保安庁」と“口先番長”振りを露呈しました。
斯(か)くなる“お子ちゃま大臣”を糾(ただ)した所で詮方ないので話を先に進めれば、反政府デモが禁じられている鬱憤を、反日デモの形で発散している可哀相な存在が中国国民。それと同じ土俵で日本も激高した所で問題は解決不可能です。
貪欲に国益を追求するナショナリズムの大国が中国。が、アメリカとて同じく、貪欲に国益を追求するデモクラシーの大国なのです。とするなら、こちらが成熟した国家として、笑顔で握手しながら机の下では“急所”を握る、大人の外交戦略を打ち立てるべき。が、不幸にも、理念も哲学も覚悟もなき日本政府は、上げ潮路線ならぬ“下げ潮路線”で、内外から押し切られるばかりなのです。う~む。



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