景気は低迷 国力は低下 生活はお先真っ暗  (日刊ゲンダイ2010/11/1)

─小沢一郎が政治生命を失い、仙谷由人が威張りくさることだったのか

─それにしても情けない、政権を獲得して1年以上も経って民主党がやってきた試行錯誤といういいわけの何ひとつ実行していない反国民的な哀れきわまる国情
─菅政権はこのまま存続していていいのか、疑問だ
第3弾の前半戦が終了した政府の事業仕分けが冴えない。
今回は一般会計と別の財布で巨額の事業をやっている特別会計が対象である。自民党の塩川元財務相も「離れですき焼きを食べている」と批判したムダ遣いの温床だ。いよいよ本丸に切り込み、巨額の埋蔵金を掘り当てる。そんな成果が期待されたが、肩透かしに終わることがハッキリしてきた。
18特会の48事業のうち、廃止が決まったのは4特会の8事業。削減可能な金額は、たった250億円である。
民主党は昨年の衆院選で「特別会計の埋蔵金4兆3000億円を活用する」と訴えた。一般会計と特別会計を合わせた総予算207兆円を全面的に組み替え、16・8兆円の財源を生み出す、と鼻息が荒かった。
しかし、これまで2回の仕分けで削減できたのは、第1弾の7000億円だけ。なんとか捻出した埋蔵金を合わせても1・7兆円だった。そこに250億円を足したところで、焼け石に水である。むろん、1円のムダも許されるものではない。250億円も大切な国民のカネだが、ムダの巣窟に手を突っ込んでいながら、あまりにショボイではないか。
民主党政権の発足から1年あまり。試行錯誤を言い訳に公約を実行しない民主党が、なんとか国民に政権交代を実感させたのが事業仕分けだった。民主党議員を中心とした仕分け人が官僚機構にズバズバと切り込む姿は、見せ物としてもウケた。自民党の長老議員は「なんでウチがあれをやらなんだんや」と地団駄踏んで悔しがり、テレビのワイドショーは新しい政治パフォーマンスに飛びついた。それが3回目にして、大した成果が出ないことがばれてしまったのだ。



◆財源探し=埋蔵金探しをやらないピンボケ仕分け

特会の闇に詳しい経済アナリストの菊池英博氏が言う。
「こんな結果になったのは、蓮舫大臣以下の民主党議員が勉強不足とやる気なしで、財務省のシナリオ通りに仕分けをやっているからです。財務官僚は、自分たちの財布に手を突っ込まれたくない。だから、他省庁のムダな事業をちょっと選んで民主党に投げ与え、枝葉のことだけやらせて蓮舫大臣の顔を立ててやった。それだけのことだから、成果が上がらないのは当然です。そうじゃなくて、民主党は、特会を全面的に見直して16・8兆円の財源をひねり出すと公約してきたのだから、事業仕分けでなく、財源探し=埋蔵金探しから入るべきだったのです」
安倍政権で行革担当大臣を経験したみんなの党の渡辺喜美代表も、民主党の事業仕分けを「ピント外れ。最も効果が出るところを通り過ごし、細かいところにスポットを当てている」と批判している。狙いを変えて取り組めば、カネはどんどん出てくるのだ。
「私が調べただけでも、財務省の隠しガネは70兆円から80兆円はあります。すぐに取り崩せないものもあるが、鳩山政権は今年度予算のために10兆円を出させたし、09年度決算をみると、特会の剰余金は29・5兆円ありますから、菅首相にリーダーシップがあれば、10兆円や15兆円を財務省に差し出させるのは簡単なのです。蓮舫大臣たちがなぜこの埋蔵金にメスを入れようとしないのか本当に不思議だし、疑惑ですよ。特会にムダはありませんでした。これでは予算が組めないので、ついては増税をという流れに持っていこうとしているのなら、とんでもない欺瞞政治。政権から退き、小沢さんのようなもっと力のある人に代われと言いたいですよ」(菊池英博氏=前出)
朝日新聞は、きのう(31日)の1面で「民主党が総選挙のマニフェストで掲げた諸政策を行うための財源16・8兆円の確保はほぼ不可能」と報じた。で、毎日新聞は「増税地ならしの側面も」、産経新聞も「やっぱり増税?」と書いている。マスコミは「はい、もう特会をいくら洗っても何も出ないですよ」「あとは増税しかありませんね」と財務省の手先かグルになっているが、そうじゃないのだ。


◆政局にうつつを抜かし公約反故のオンパレード

国民が歓迎し期待した事業仕分けでさえ、大増税の“前奏曲”に使うような連中に、国政を担う資格はない。子ども手当は月額2万6000円の半額が精いっぱいだし、高速道路の無料化は全体の18%の実験でお茶を濁している。公約という公約が反故(ほご)にされ、民主党ならではの政策も影を潜めた。その揚げ句、負担の増大を強いるような政権を、国民は望んでいないのだ。
菅政権の欠陥はそれだけではない。問題が発生するとうろたえるばかりで、機能不全になるのだ。尖閣問題をめぐり、日中関係がギクシャクしても打つ手なし。前原外相は同じ土俵に上がってケンカ腰になり、相手をカリカリさせている。それで何らかの譲歩を引き出すような高度なテクニックがあるのなら頼もしいが、自ら逮捕を指示した中国人船長の解放にも知らんぷりでも分かるように、行き当たりばったりだからアタマが痛い。
円高・ドル安の為替相場に加え、エコポイントなどの補助金打ち切りで、景気に急ブレーキがかかっても、景気対策に取り組む姿勢は全然見られない。菅首相は「一に雇用、二に雇用、三に雇用」と言っていたが、政権発足から4カ月たっても、雇用が改善するムードはゼロ。「国民の生活が第一」のはずなのに、暮らしの先行きは真っ暗である。
政治評論家の山口朝雄氏が言う。
「反小沢一本で国民の支持を集めてきた菅政権は、政局ごっこにうつつを抜かし、肝心の政策はそっちのけです。これほどひどい政権は自民党時代にもありませんでした。景気が冷え込み、国民の不安が増大しているというのに、経済問題に取り組もうという積極性やスピード感がないのだから致命的です。それどころか、菅首相が最高政策責任者として何をやりたいのか、依然として見えてこないのですから呆れてしまいます。公明党を取り込み延命することだけが目的の政権には、お引き取り願うしかない」
結局、昨年の政権交代は、小沢一郎元代表の政治生命を奪い、仙谷由人官房長官にフリーハンドを与えることだったとすれば、国民は最悪の選択をしたことになる。




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