●「日本警察の浄化をめざして」仙波敏郎氏講演(上)
警察組織を告発することの難しさ、ユーモアまじえ訴え
(JANJAN:三上英次 2009/08/14) http://bit.ly/9gSoM6
09年7月31日、群馬県弁護士会館で、『日本警察の浄化をめざして』という題で、愛媛県警元巡査部長・仙波敏郎氏(現「警察見張番・愛媛」代表)が講演をした。講演の中で、仙波氏は、やはり警察の裏金問題を究明する元警部補大河原氏の裁判について意義を説明するとともに、最近の仙波氏ドキュメンタリー番組放映に当たり、「放映をやめろ」「放映をするつもりなら出来なくする」という旨の“圧力”がかかったこと、そのために番組放映10分前まで仙波氏の安否を尋ねる電話がテレビ関係者からかかって来ていたこと等も明らかにした。
講演開始前に会場後ろに控える仙波氏。仙波氏は「もうアラカンですよ(アラウンド還暦)」と言うが、声には張りもあり、身のこなしは颯爽としている。(撮影・三上英次 以下同じ)〈大河原裁判〉とは何か?
みなさん、こんにちは、愛媛県警元巡査部長の仙波敏郎です。
群馬県警警部補であった大河原さん(注・前橋地裁で係争中)へのでっちあげ逮捕は、96年に彼がニセ領収書と知らずにそういった書類を書かされたことに抗議したことが発端です。
彼はその裏金についてテレビ局の取材も受けていますが、その後04年3月に懲戒免職処分を受けています。私は05年1月に現職警察官として初めて実名で警察の裏金について告発をしましたが、私もいつ何時、大河原さんのような立場になっていたか、わかりません。
私が今年3月に定年退職を迎えられたのも、ある意味では私の告発の前に、彼のような正義を貫こうとする警察官がいたからだとも言えます。
今の警察組織のトップは、暴力団以下です。自分たちの組織を守るためには「何でもあり」です。
群馬県警は、大河原さんへの懲戒の理由として「不倫」を挙げています。私は、その“不倫”相手とされる○○さんに会って確かめましたが、彼女は笑って言うのです。「どうして、私が大河原さんと不倫しなくてはいけないのか?」と。私が「自分ら同性から見ても、大河原さんは魅力的な人間ですけどね…」と言っても、○○さんは、次のように言うわけです。
「私は好きではありません」
「不倫」と聞けば、知らない人は「…そうなのか」とも思ってしまいます。と言って、それを直接相手にも確かめにくい。だから、大河原さん本人を知らない人は、「県警の発表したことだから…事実なのだろう」と何となく思いがちです。それが、警察発表のこわいところです。
私に言わせれば多くの人が「明日はわが身」ということがわかっていません。大河原さんの提訴した「復職」を求める裁判(注・08年10月提訴)は、決して、「大河原さん個人の問題ではない」ということをわかって頂きたいのです。
〈「警察管理職は犯罪者」と言っておとがめなし〉
群馬県警には3300人がいます。県内20の警察署と警察本部に約100人の管理職がいます。現場の警察官は雨風をいとわず、連日一生懸命働いています。
しかし、その100人の管理職は・・・・・・全員が〈犯罪者〉です。
世の中には多くの団体や企業で成り立っています。しかし、日常の業務の中で、犯罪行為をしているのは、警察とヤクザだけです。
私はこれまで64回の講演をして来ました。裁判所での陳述まであわせると、約70回、その中枢の人間が日々裏金作りに励んでいるという意味で「警察は〈犯罪者〉集団だ」と言って来ました。誤解の無いように言っておきますが、私は、日本の警察官すべてが犯罪者だと言っているのではありません。まだ警察官になったばかりで、ニセ領収書を書かされていなかったり、その存在を知らなかったりする者もいます。また、大河原さんのように、そのからくりを知らずに、文字通り書かされてしまった、つまりうまく利用された警官もいるでしょう。私が言うのは、その組織(警察)の管理職以上が、日常的に犯罪行為(裏金つくり)に精励しているということです。
しかも、私は「警察は〈犯罪者〉集団だ」ということを、在職中から言って来ました。そんな私が、在職中、一度も訓戒や注意などの処分を受けていません――。みなさん、これは変だとは思いませんか。
自分の属している組織や会社を、行く先々で「犯罪者」呼ばわりですからね。それでどうして、何のおとがめも無いのか――。それは、私の言うことが事実だからです。
今日は、群馬県警の関係者の方は来ていらっしゃいますか。
現職の時は、地方で講演をする時は、愛媛県警に届けを出すのです。県外にでかける時は、届けを出すのがきまりです。私も、そのきまりを守って届けを出します。そうすると、必ず、例えば、群馬県に行って講演をすれば、会場のどこかに警察関係者が来ているわけです。そして、じっと私の発言を聞いている――、それでも、これまで何のおとがめなしです。どうしてかと言えば、「警察は〈犯罪者〉集団だ」という私の発言を懲戒処分の対象にしようとすれば、私から逆に処分取り消しを求められるのがこわくて、何もできないのです。
余談ですが、警察関係者が座る席は、だいたい決まっていましてね……、ほら、あそこの後ろの席です、ちょうどあの辺が警察関係の人間が座る場所です(笑)。私は長い講演だから、面白いことを言って、笑わそうと思って、それで冗談を言ったり、警察幹部は○○だ…なんて言ったりします、一同どっと笑うのですが、彼ら(警察関係者)は笑わないんですよ。だから話をしていても、だいたい誰が警察関係者かはわかります。
当日のスタッフの皆さん。講演会の運営に当たっては、会場の設営、資料印刷など多くの大河原さんを支援する人たちが集まった。〈警察組織を告発することの難しさ〉
北海道警のトップにいた原田(宏二)さん、最初、私は原田さんからの手紙を読まなかったのです。
警察署長で家を持っていない人はいない――、みんな裏金で家を建てるわけです。管理職にいた人間は、裏金を湯水のように使えるのです。原田さんは、そういう立場にいた人です。だから、原田さんが北海道から私に会いにやって来た時、私は「会わない」と言ったのです。
私には弁護士85人がついてくれています。彼らは全部手弁当です。その彼らが「会ったらどうですか?」と言いました。東君も「会えや」と言います。特派員をやっていたオランダ人のハンスもきれいな日本語で言うのです。「アナタハ、会ウベキデス」
それで会いました(注・05年2月22日)。会った時に、私はまっさきに原田さんに言いました。
「なぜあなたは裏金に手を染めて、それを退職してから口にするのか。現場の多くの警察官が、上からの指示のためにどれだけ苦しんでいるのか、わかっているのですか」と。
すると原田さんは言いました。
「私は犯罪者です。あなたは本当のヒーローです」と。そして、次のように続けました。「このこと(裏金)を口にするのには、時機(注・タイミング)が必要でした。10年前に、私がそのことを口にしていたら、今の大河原さんのようになっていたでしょう」
講演中の仙波氏。深刻な警察の現状を語りつつ、仙波氏のジョークに会場は笑いが絶えない。 それは、決して誇張ではないのです……。私は原田さんの胸中を察し、「会いたくない」と言ったことを恥ずかしく思いました。
原田さんの言う、「今の大河原さんのように…」というのは大げさではありません。1984年に、警視監であった松橋忠光さんが『わが罪は、つねにわが前にあり』という本を書き、警察の裏金を問題にしました。その本は大きな反響を呼び、そのことは国会でも取り上げられましたが、警察当局は「独自の思い込みや妄想としか言いようがない」のひとことでかたづけてしまったのです。
その後、私は原田さんとの親交を深め、今は私にとって父親のような存在で接してくれています。私は何でも思ったことをずけずけと言ってしまうほうなのですが、あとで東君が原田さんにお詫びを兼ねた電話をしてくれました。そうしたら、「いいんだよ、そういう強い精神力、正義感の持ち主でなければ、ああいうこと(05年1月の、仙波氏による〈裏金〉の告発)は出来ないよ…」と言って下さいました。
松橋さんのケースや、原田さんの言われる「10年前に発言していたら…」の発言を思い起こすと、大河原さんが一警察官として、上司に裏金のことを抗議したことがいかに大変なことであるか、わかって頂けると思います。
(「中」に続く)
●「日本警察の浄化をめざして」仙波敏郎氏講演(中)
裏金をはびこらせている原因のひとつは社会の「無関心」
(JANJAN:三上英次 2009/08/15) http://bit.ly/c2Nrm2
〈警察のおごり〉
警察は、自ら法を守って、法を犯す者を取り締まるのが仕事です。ところが、自分はもちろん、交通安全協会の職員や警察学校の給食のおばさんにまで、ニセ領収書を書かせています。国民の税金をだましとって、飲み食いに使うわけです。
私が告発した当時、私の計算では警察の裏金は年間400億円ありました。日本の警察予算は3兆円です。3兆円にとっての1パーセント程度、「微々たるもの」という意識が警察幹部にはあるのです。
だから警察の幹部は国民に対して「おまえたちの安全は、警察が守っとんのや。だから、それぐらいの金はネコババしてもええやろ」ということになる。
「困ったら、一般の人たちは警察に相談に来る、それは、警察こそが問題を解決してくれると思って、つまり警察を信頼して人々は警察署を訪ねるのではないですか!」と私が詰め寄ると、ある幹部は、「仙波君、きみは青いな…」と言うのです。みなさん、私は見ての通り色黒ですが、言っていることはそんなに青いですか?
講演中の仙波氏。氏によれば「講演中は原稿も時計も見ない」とのこと。右は、大河原宗平氏(撮影すべて筆者) 問題は、3兆円のうち400億円だからどうこうということではありません。それは金額の問題ではないのです。警察官である以上、〈法〉を犯してはならないのです。
ところが、警察官は全員若い頃から(ニセ領収書を)書かされているのです。そうやって全員が犯罪に加担させられるのです。しかし、みなさん、たかがニセ領収書と言いますが、私文書の偽造は、3ヶ月以上5年以下の懲役です。そのニセ領収書を使って公的な書類を作れば1年以上10年以下の罪です。
5分前にそういう犯罪をおこなった人間が、1000円の万引きをした人を取り締まるわけです。
「おまえ、よう、そんなことできるな」と言うと、「仙波さん、あれとこれとは別でしょ」というわけです。みなさん、本当に「あれとこれとは別」と言って済ませていいものでしょうか。
〈どんな人間も3日で「落ちる」〉
大河原さんは27歳で警部補になっています。
それは優秀だからです。彼はやがて自分がだまされてニセ領収書を書かされていたことに気づきます。悪しき慣習をやめさせようとして、テレビに出た。そしたら、あれこれと理由をこじつけられて逮捕です。みなさん、明日はわが身です。
足利事件の菅家さんは、17年半もの間、刑務所などで自由を奪われた生活を送りました。多くの人は「やっていなかったら認めるものか」という感覚でいます。
そうではありません。3日もあれば、どんな人間も必ず「やった」と言うのです。例えば「この人から痴漢をされた」との訴えを受けて、ある人が逮捕されたとしましょう。まず警察はマスコミに対する「警察発表」という形で、逮捕事実を公表します。その段階では、本人はまだ「やっていない」と言うでしょう。
そこで警察はこう言うわけです。
「新聞に出とるで。『やってません』を言い続ければ、『反省の色なし』で、実刑は確実や。逮捕記事は1段だったが、実刑ともなれば、4段の新聞記事で顔写真は出る、親や親族にも迷惑かかるでぇ。『やった』と言って必要な書類に名前を書けば、5万円で何も無しや。どうだ?」
〈警察署に常備してある数百本もの印鑑〉
そして、警察にとって1人逮捕できるということは、どれだけ嬉しいことか、わかりますか。「○○の事件で逮捕したから、△◇さんに捜査協力費3万円支払いました」と、お金を払ったことにできるのです。
警察署には、そういうニセ領収書つくりのための印鑑が数百本もあるのです。
私も24歳で巡査部長になった時、ニセ領収書を書けと言われました。
「これを書かせて、仙波に赤信号を渡らせよう」ということです。そのことはあらかじめ聞いて知っていましたから、私は書きませんでした。書くことを拒否すると転勤、また転勤…と、本当に厳しい報復がありました。
巡査部長に昇進してから後、警部補になるための試験には通りませんでした。なぜか――。ニセ領収書を書いていないからです。
そこで私は考えました。
〈犯罪者〉になって、警察署長になるのがいいのか――。それとも
〈正義の警察官〉として駐在所勤務がいいのか――。
私は駐在所勤務であっても〈正義の警察官〉であることを選びました。
仙波氏の著作。仙波氏が定年退職した3月31日の翌日に書籍が店頭に並んだ。白(い表紙)をめくると黒というのは、警察の体質を象徴する装丁者のウィットらしい。〈当たり前のこと〉
私のことを「ヒーロー」だとか高知県に近いので「平成の坂本龍馬だ」とか言って下さる人がいます。
しかし、それは私に言わせると違うのです。まちがっていることを「まちがっている」と言う、「裏金に手を染めない」というのは、警察官として当然のことなのです。
それがどうして、当たり前のことをして「ヒーロー」なのでしょうか。
どうして、そういう「当たり前のこと」が当たり前でなくなってしまったのか――。その原因のひとつは私たちの無関心にもあると思います。
今日この会場においでのみなさんは、とても素晴らしい表情をしています。どなたも、大河原さんの無実をよくわかっており、一連の処分のおかしさを理解しているからです。私も同感です。どうして、彼が今の状態(注・ありもしない理由で懲戒免職処分を受け、その取り消しを求めて係争中であること)にあるのか、わかりません。
今日、この会場にいらっしゃる人たちのように、警察の現状を危惧し、正義を求める人たちがどんどん増えて行けば、警察だってニセ領収書を偽造しにくくなるはずです。
本来は自分たちの安全安心を守るのは警察です。その警察に対して、私たちはあまりにも無関心です。無関心でいるから、裏金が続くのではないでしょうか。
当日の聴衆は約90名、翌日には仙波氏は300名の聴衆を前に講演を行なった。〈検事や裁判官のこと〉
今日の裁判(注・前橋地裁での、大河原氏の提起した訴訟)ですが、私は、こう……警察関係者をぐっと見すえるのです。そうすると、見られた関係者が全員、目をそらすんですね。裁判終了後、私の横に女性検事が来たから、「検察官がまともな捜査能力が無いから困る」と言いました。そしたら、逃げて行くのです。本当に自分たちのやっていることについて自信があったら、「ちょっと待って、仙波さん。今の言葉、聞き捨てならないですね」と言って反論して来ると思うのです。
たしかに頭はいいのでしょう。司法試験に受かっているのですから。
でも、まともな犯罪捜査ができないのです。すべて警察の作った書類に従って、被疑者を有罪にするべく、取り調べるわけです。警察から「(警察の捜査結果を尊重しないのなら)、あなたたちで独自にやって…」と言われたら困るからです。
裁判官ほど新聞を気にする人種はいません。国や県が負けるような判決を書く裁判官は、左遷される。裁判官の人事権は、最高裁が握っているのです。それが、上の意向ばかり気にする「ヒラメ裁判官」を生みやすい制度上の問題点だと思います。
しかし、そういう問題を含んだ検察や司法の制度であっても、大河原さんについては、正しい判決をもらわないといけません。彼が復職できないのなら、私が警察官として42年間何のため頑張って来たか、わかりません。私は大河原さんが群馬県警に復職するまで群馬県に来続けます。
〈驚くべき警察署長〉
「少年よ、大志を抱け――」、これは有名なクラーク博士の言葉です。
実は、あまり知られていませんが、そのあとに、こういうフレーズが続いているのです。
「少年よ、大志を抱け――、金のためでなく、名声のためでなく、権力のためでなく。」
今の警察幹部も、みんな大志を抱いています。金のため、名声のため、権力のため…というわけです。
日本の警察は、25万人のノンキャリアを、500人のキャリアが支配しています。そのキャリアと呼ばれる人は、例えば、27、8歳で、警察署長として赴任して来ます。
ある時、警察本部の所属長官舎にひとりの女性が来て、「○○ちゃん」「○○ちゃん」と呼んでいます。当初、私は、どこかに子どもでもいるのかと思って見回しましたが、小さな子は見当たりません。何と、その女性は、署長として赴任したわが子を「○○ちゃん」と呼んでいたのでした。
そして、「お箸はここ、お茶碗はここ・・・」とやっているうちに「○○ちゃんがお布団を忘れてきた」ことに気がつきます。そこで、職員に対して「お布団買ってきてちょうだい」ということになります。その布団代は、裏金から出るのです。
そういう人間も、2年経つと胸を張って帰るわけです。
昔は、「うそをつくと、ドロボウになるよ」と言われました。今は、「うそばかりついていると、おまわりさんになるよ」と愛媛では言われるほどです。それほど警察官の信用は地に堕ちているのです。
(「下」に続く)
●「日本警察の浄化をめざして」仙波敏郎氏講演(下)
裏金を失くすことが検挙率アップや冤罪をなくすことにつながる
(JANJAN:三上英次 2009/08/17) http://bit.ly/b7UanQ
〈検挙率の低下〉
私が42年前に警察官になった頃、刑法犯の検挙率は60%を超えていました。今は30パーセント台です。やがて、警察の裏金について知ることになり「こんなことをしていたら大変なことになる」と思いました。ところが、上からは「組織を維持するにはお金がいる。君は組織の敵か?」と言われました。
警察用語で、「てんぷら」という言葉があります。世間で言う「下駄をはかせる」わけです。からくりは簡単です。犯罪発生件数を下げて、検挙数を水増しするのです。
例えば、被害届の代わりに「現場臨場簿」を作る手法があります。これで書類を作れば、事件は犯罪認知件数にカウントされないのです。でも、そういうことは、警察署を訪れて書類を書かされる人にはわかりません。被害届を出そうと思って警察署を訪れ、「○△◇△簿」と書かれた書類を差し出されて「これに記入して下さい」と言われれば、それが被害届に関係する書類と思って、そのまま何の疑いも無く書類に記入するはずです。
そうやって、被害届とは異なる書類へ記入させ、犯人が捕まった時点で、被害届を作り直して、事件を処理するのです。そうすれば、必然的に検挙率はアップします。
もう一つは、一人の犯人を捕まえたら、それに類似した事件も、みんなその人間がやったことにしてしまうという方法もあります。
例えば、ある警察署で、犯罪に対する検挙数が4万件あったとします。検挙者数を見ると1万人になっているわけです。そうすると、検挙者が平均して、ひとり4件ずつやっていたということになります。しかし、実際にそんなことはあると思いますか。100の犯罪が起きたら、ふつう、犯人は100人、それぞれの事件ごとにいるのが自然ではないでしょうか。
そもそも、こうやって顔を出して、今言ったようなことを堂々と言えるのが私ひとりなのです。これがおかしい。但し、大河原さんも言える立場です。けれども、今、大河原さんは裁判で戦っています。もし大河原さんが裁判で勝って、警察官として復職したら、その時は、野人(である私)と美男子(の大河原さん)とで、全国を行脚できるのです――。
参加者からの質問に熱心に耳を傾ける。右は、元群馬県警警部補・大河原宗平氏(撮影筆者)〈選挙に出ませんか?〉
衆議院選(注・09年8月投票)にオファーがありました。「必ず当選できるポジションを用意する…」というわけです。
でも、私が出れば、「何だ、仙波は政治屋になったのか」と言われるでしょう。私には(大河原さんのことをはじめ)やらなくてはいけないことが、たくさんあります。ですから、ことわりました。
先日のテレビ放映(注・09年5月)を見て、80いくつのおばあさんが「財産を贈与したい」と言ってきました。3日後にもまた電話があり、「私には身寄りがいないから、残ったお金を有意義に使って欲しい」とのことでした。ありがたいお話ですが、私はおことわりしました。
警察の裏金もそうですが、私たちの生活で〈お金〉は非常に大きな意味を持っています。〈お金〉は、人間社会に無くてはならないものですが、〈お金〉に自分の生き方をしばられてはいけません。〈お金〉に自分の倫理観が曇らされてはいけません。
『謝れない県警』(桂書房)を書いた松永定夫氏も富山県から応援に駆けつけた。〈ドキュメンタリー番組放映をめぐって〉
私のことを取り上げたドキュメンタリー番組がありました。実は、あの番組が放映される3日前にテレビ関係者から電話があったのです。
「仙波さん、身を隠して下さい。(あなたを逮捕することで)あの番組を放映させないようにする動きがあります」
圧力をかけてくる団体と言えば――、みなさん、もちろんおわかりですね。
「番組を放映するな。もし、どうしても放映するなら、放映できなくするぞ」と。要は、そういうことです。番組放映前にその番組に出演している者を逮捕すれば、当然その人の出る番組は放送できなくなります。テレビ関係者にとっては大変なことです。何年間も、東京と松山の間を何十回と往復して、ようやく1本の番組に結実させたのですから。
だから、「(逮捕されないように)身を隠してくれ」というわけです。
放映予定日は、月曜日でした。
それで、私は3日前の金曜日に愛媛県警本部に出向きました。現職の時は、すぐ庁舎内に入れるのですが、今は退職していますから、受付で来訪の目的を言うのです。
「本部長に会いたい」―――私は用件を言いました。
すると、受付は本部長室に電話をつないで何か話しています。向こうは「ことわれ」と言ったようでした。
「じゃあ…No2でいい」
「…それもだめです」
仕方なく「何か、私に用はありませんか?」と昔のセクションに行きました。「何か用事はありませんか?」つまり「私を逮捕するような用事はあるのでしょうか?」ということです。みんな「…ありません」と言います。「じゃあ、帰りますが、いいですか」ということで、家に帰りました。
「あの番組を放映されたらまずい」ということで、そういう手を使うのです。
「いつでも来んかい」―――私自身はそういう気持ちでいました。
実際には、テレビ放映の10分前まで、「仙波さん、今どこですか!」「仙波さん、大丈夫ですか!(逮捕されていませんか)」…という具合に、安否を確かめる電話が入り続けて、ようやく放映となった次第です。
松永氏お手製の宣伝カー。松永氏は数日前から群馬入りし、講演会をPRした。その甲斐もあって、会場は立ち見も出るほどの盛況であった。〈「警察見張番・愛媛」の立ち上げと冤罪の多さ〉
退職後に、私は「警察見張番・愛媛」を立ち上げました。「警察見張番」は、いちばん初めに立ち上げた、生田さんという方がいらっしゃいます、あ…、生田さん、ちょっとよろしいですか、今日も神奈川からはるばるこの会場に来て下さいました。
それで、生田さんに許可を頂いて「警察見張番・愛媛」が誕生したのですが、活動を始めてみると、全国からものすごい数の冤罪に関する相談が寄せられています。個々のケースに関する対応で、私は年内休みが無いほどです。
冤罪は、最近では「足利事件」がマスコミを通じて注目を集めていますが、それだけではありません。今日の大河原さんの「復職」をめぐる裁判も冤罪事件です。
高知県では、いわゆる「高知・白バイ事件」(注・06年3月)がありました。
警察用語では、「第1当事者」「第2当事者」という言葉があります。簡単に言えば「第1当事者…加害者」、「第2当事者…被害者」です。事故で言えば、「警察官が第1当事者となって起こした事故」は、幹部が責任を取らされるのです。
それを自分の任期中に起こしたら、次の異動時に、もうひとつ上のポストには昇進できない。だから指示が出るわけです。
「白バイを第2当事者(=被害者)にしろ」
バスの中にいた生徒たちは「バスは止まっていた。そこに白バイが高速でぶつかってきた」という内容のことをはっきり証言しています。
それらの証言を、裁判所は採用しませんでした。片岡さんは「自分に非がある」と認めていれば、執行猶予がついたでしょう。
「罪を認めていない(反省していない)」という理由で、片岡さんは刑務所に収監されました。これなども、さきほど痴漢事件で話した「認めれば、釈放してやる」と同じロジックなのです。
〈捜査費用800万円が…〉
先日も、千葉県で殺人事件がありました(09年7月、犯人は5日後に沖縄県内で逮捕された)。どこでもそうですが、捜査本部が設けられた場合、県警からの捜査費用は、次のようにして管理職のポケットに入ります。
まず警察署の会計課長が800万円を現金で下ろして来ます。400万円は、県警本部にキャッシュバックされます。
残り400万円です。そのうちの100万円を警察署長が取ります。以下、副署長らが順に「わしも50万円」「私は30万円」…と取っていきます。
だから、800万円の捜査費用が支払われても、結局使えるのは、150万円、200万円程度しか残らないのです。それで仕方なく、捜査員はガソリン代、携帯電話代…と自腹を切るわけです。あるいは、そうやって地道に捜査するのが馬鹿らしくなって、勤務時間中に駅前のパチンコ屋に行って時間をつぶすようにもなっていくのです。
以上のことから、警察の裏金を失くしていくことと、私たちの生活とが直結していることがおわかり頂けるのではないでしょうか。裏金をなくすことが、第一線で懸命に働く警察官に報いることになりますし、裏金を失くすことが検挙率アップにもつながります。裏金を失くすことが、私たちの生活を安全にし、また冤罪をなくすことにもなるのです。
※
今日はいろいろとお話しましたが、今述べたように、ここにいる大河原さんの支援をすることが、めぐりめぐって、私たちの子どもの世代、孫の世代の社会をよくしていくことにつながります。冒頭に紹介した、大河原さんに対する卑劣なやり方は、大河原さん個人の問題ではありません。多くの人が大河原さんの裁判に関心を持つことで、今日のテーマである『日本警察の浄化』がはじめて可能になると確信しています。
ご清聴ありがとうございました。
(了)
〔後記〕
本稿は、7月31日の講演内容をベースに、事実関係やデータなど、後日仙波氏本人に電話取材し、適宜加筆して文章にしたものである。