明らかに質が違う菅内閣の支持率急落 [斎藤貴男「二極化・格差社会の真相」]

(日刊ゲンダイ 2010/11/9)

読売新聞社が今月5日から7日にかけて実施した全国世論調査で、菅内閣の支持率は35%。前回調査(10月初旬)の53%に比べて18ポイントも低下したという。

とりわけ尖閣諸島に関わる対中外交の弱腰が不人気の原因らしいと、調査結果を報じた同紙(8日付朝刊)は示唆している。漁船衝突事件をめぐる菅内閣の対応を「評価しない」が82%を占めたというのだからすさまじい。
何だかなあ、とつくづく思う。内閣支持率はもとより、消費税でも中国の好き嫌いでも臓器移植でも、この種の世論調査の類が幅を利かせすぎてはいないか。

ほとんど毎日のように見せつけられている感じだ。少し前から繰り返されている批判ではあるけれど、近頃はさらに加速し始めたように思われる。
さまざまな議論があり得よう。素人の意見を大々的に伝える前に、ジャーナリズムはまず特ダネを取ってこい。未熟で不十分なマスコミ報道やネットの落書きに基づいた、無知の思い込みの集計に意味があるのか。しかして、そんなものにやすやすと左右されてしまう政治って、いったい……。


ポピュリズムのレッテル張りでくくって済ませたくはない。とはいえ、たとえば原子力発電所の建設をめぐる住民投票のような切実な営みとは明らかに次元が異なる現実を、誰もが認識しておく必要があるとは思う。
領土問題に絡む世論調査は特に要注意だ。単純でわかりやすいが、伝統的なナショナリズム、というか国と自分自身を一体化させた占有欲が刺激されると同時に、対象が遠く、行ったこともない土地である分だけ、余計に言いたい放題。ますます無責任な結果が導かれていく。わかりきった話ではないか。
仮にも一国の政権が、くだらない数字の遊びに動かされてしまうはずがないと信じたいが、菅政権には疑問符がつきまとう。衝突の映像がネット上に流出した一件でも、仙谷由人官房長官は8日の衆院予算委員会で、いきなり国家公務員法の守秘義務違反の厳罰化を持ち出した。与党の当時は問答無用で戦時体制の構築を急いだ自民党が、こういう時だけ世論調査の結果をタテにしたがるのもどうかしている。
なんだかもう、どうでもよくなってきた。戦争さえ起こらなければ、それ以外はどうでもいい。政治の是非を測るハードルを、いつの間にかとてつもなく低くしている自分自身に気がついて、慄然とし続けている今日この頃なのである。
(隔週火曜掲載)

さいとう・たかお 1958年生まれ。早大卒。イギリス・バーミンガム大学で修士号(国際学MA)取得。日本工業新聞、プレジデント、週刊文春の記者などを経てフリーに。「経済学は人間を幸せにできるのか」「消費税のカラクリ」など著書多数。



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