[衝突ビデオ流出犯]43歳 海上保安官 不気味な正体  (日刊ゲンダイ2010/11/11)

これは危険な歴史の兆候だ

─困ったもんだ。本人は「英雄」気取りになっているらしい。海上保安庁の43歳の主任航海士のことである。警視庁の事情聴取に対し、問題の漁船衝突ビデオの入手経路や動機については、「そんなの関係ない」とエラソーに供述を拒んでいるというのだ。直前のテレビ取材ではペラペラと調子のいいことをしゃべっていただけに、本当に得体の知れない男だ。

◆直前のTV出演で言いたい放題

「海上保安官」とも呼ばれているこの主任航海士は、数日前に大阪の読売テレビにネタを持ち込んで、2時間の取材に応じていた。
キー局の日本テレビが繰り返し“スクープ報道”しているが、そこでは身勝手なことをしゃべっている。
肝心の映像の入手先や投稿方法は明かさず、「映像はほぼすべての海上保安官が見ようと思えば見られる状況にあった。国家機密的扱いはされていなかった」と説明。
動機については「隠していいのか、判断される材料として見てもらうのが一番と思った」「国民全体の倫理に反するものであれば甘んじて罰を受ける」「英雄になるつもりはなく、ただ見てもらいたかった」などと話したという。
さらに記者の「自首するのか」との質問に対しては「同僚や家族がいるのでいろいろな思いがある」と答え、「内部告発のようなことをして多くの人に迷惑をかけてしまった。同僚や上司に大変申し訳ない」とも語っていたという。
筋が通っているようにも聞こえるが、実際は支離滅裂だ。


報道関係者がこう言う。
「組織に迷惑をかけることが分かっているなら、わざわざマンガ喫茶まで行ってビデオを流出させなければよかった。逆に菅政権を困らせてやろうとか、義憤に駆られてというのなら、警視庁の聴取に対しても、堂々と正論を吐けばいい。なんとも中途半端な海上保安官です。自分がしでかしたことの大きさに驚いて、流出経路などについては口をつぐんでいるとしたら、国士とは反対の単なる小心のおっちょこちょい、目立ちたがり屋かも知れませんね」

◆「ズルい確信犯」の声も

投稿名の「sengoku38」についても、読売テレビの取材には「日本を取り囲む状況が戦国時代さながら。あえてその辺は私の胸の中」とチンプンカンプンなことをしゃべっている。
本当にこの男が実行犯なのかさえ怪しいが、ただ、国際関係や内政が乱れると、こんなやからが出てくるのは歴史の常でもある。
ジャーナリストの魚住昭氏はこう断じた。
「今回のケースは、確信犯でありながら、最初はネットの『匿名』の陰に隠れ、ビデオ流出が報道されてから名乗り出るという『ズルい確信犯』です。男の話が本当なら、動機は『領土ナショナリズム』と思われるが、領土問題に白黒をつけようとすれば戦争しかありません。男がそこまで考えて行動したのか分かりませんが、浅はかと言わざるを得ません。海上保安庁という武装集団に対して文民統制が機能しない状況も恐ろしい。青年将校が首相暗殺に至った『5・15事件』と同じで、あの結果、日本がどんな道を歩むことになったのか考えるべきです」
海上保安庁には「保安官は間違ったことをしていない」「逮捕しないで」といったメールや電話が寄せられているそうだから、困ったものだ。

この保安官や海上保安庁が「してやったり」と勘違いしたら、最悪だ。
歴史に何も学ぼうとしない“浅はかな”日本を象徴するような事件である。




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