デタラメだった菅総理の「事務所費」「ワイン講習会」の領収書も出てきた

(週刊現代11/27号)

ジャーナリスト松田賢弥

領収書を付け回し

菅直人首相の事務所費を巡る疑惑について、私は本誌9月25日号と10月2日号の2度にわたって書いた。ごく簡単に記せば以下のような内容だ。①菅の政治資金管理団体「草志会」は菅の政治団体「菅直人を応援する会」と同じ、東京・武蔵野市のマンションの一室を「主たる事務所」として届け出ている。しかし、マンションには「草志会」の看板すら掲げられていない。②菅の派閥「国のかたち研究会」は東京・千代田区のノーブルコート平河町304号室を「主たる事務所」として届けているが、こちらには同研究会の看板が掲げられておらず、なぜか郵便受けには「草志会」の名前があった。他にも不自然なことはいくつもあったが、この二つの事実から、「草志会」が菅の派閥の事務所費や人件費を肩代わりしていることがうかがわれた。

そこで前回の記事を書き終えてすぐ、この三つの団体の政治資金収支報告書に添付されている領収書を開示するよう、総務省などに情報開示請求を行った。約1ヵ月後に開示された領収書を検討すると、前に指摘した疑惑が裏付けられたばかりか、新たな疑惑も浮上。「ワイン講習会」や「ランチクルーズ」のような、およそ政治活動とは思えない内容の領収書も見つかった。

まず、着目したのは領収書の宛名だ。各団体ごとに正式名称を記したものに紛れて、「菅直人事務所」「菅事務所」と書かれた領収書が大量に見つかった。何度か会合に使っている同じ店やホテルなのに、正式名称を記していることもあれば、「菅直人事務所」と記されているものもある。
「菅直人事務所」名義の領収書なら、最終的にどの団体で計上するか恣意的に操作できる。政治資金をガラス張りにするという政治資金規正法の趣旨に反していることは明らかだろう。
総務省政治資金課に質すと、こう答えた。

「領収書の名義については、規正法上は規定がありません。ただ、一般的に考えて、複数の団体を持っていて、領収書を付け回したとすれば、立法趣旨からみて適切ではありません」
「政治資金オンブズマン」のメンバーで神戸学院大学法科大学院の上脇博之教授もこう指摘する。
「菅直人事務所は政治団体として届け出られていないし、その名義の領収書では、どこの団体に出されたものかわかりません。これを領収書として認めてしまえば、都合のいいように付け回すことができることになります。こんな領収書が複数あるのですから、単なるミスではないでしょう」

次に、当初の見立てのとおり、「草志会」が「国のかたち研究会」の経費を肩代わりしていることも、領収書から明らかになった。そもそも同研究会は事務所費や人件費がゼロ。それ自体おかしいのだが、「草志会」宛の領収書のなかに、同研究会の「主たる事務所」であるノーブルコート平河町304号室の賃料・共益費として月額約28万5000円を支払ったという領収書が残されていた。こちらは領収書の名義問題よりも明らかな家賃の付け替えであり、政治資金規正法が禁じる虚偽記載に当たる。

前出の上脇教授が言う。
「年間300万円を超える家賃を『草志会』が払っているのですから、この肩代わりしてもらった分は、『国のかたち研究会』が寄附として計上しなくてはなりません。そもそも、独立した別の政治団体の家賃を肩代わりしていること自体が問題でしょう」領収書の大半は飲み食い

似たようなケースは、仙谷由人官房長官にもあった。仙谷が代表を務める派閥「凌雲会」(前原グループ)の「主たる事務所」は、東京・西新橋で司法書士をしている仙谷の長男の事務所内に置かれている。'08年の同会の政治資金収支報告書によると、人件費は菅の派閥と同様ゼロ。事務所費はわずかに年間で5610円を計上しているだけ。法律に詳しい仙谷だけに事務所費ゼロではまずいと思ったのだろうか。ただ、とても適正価格とは言えまい。菅・仙谷とも、事務所費について、デタラメなことをやっているのである。

前回、本誌が菅直人事務所に事務所費疑惑について糺(ただ)したところ、「法に則り適正に処理しております」と回答してきた。しかし、そう答えながらも、内心では頭を抱えていたのだろう。その証拠に今回、改めて「国のかたち研究会」の「主たる事務所」であるノーブルコート平河町304号室を訪ねると、驚くべき事実が判明した。すでに部屋を引き払ったというのだ。本誌の取材に対し、管理人はこう答えた。
「10月半ばと末の2回に分けて荷物を運び出して、引っ越されました。契約は11月一杯のようですが……」

前回の記事が出て半月あまりで、契約を残したままの引っ越しが、菅の危機感を物語っているようだ。
一方、「草志会」「菅直人を応援する会」の「主たる事務所」である武蔵野市のマンションを訪ねると、こちらも前回とは様子が異なっていた。郵便受けに前回はなかった「草志会」の文字が掲げられている。私は記事の中で「主たる事務所」なのに、名前すら掲げていないことの不自然さを指摘し、実態がないのではないかと疑問を呈したが、表向き取り繕ったのだろう。
ただ、ここで不自然なことに気付く。「草志会」は本来の届け出どおり武蔵野市に戻ったとして、菅の派閥「国のかたち研究会」はどこに行ったのか。所在不明のまま、世間の目に触れさせないように事務所を閉じる理由は何なのか。

それは、同研究会の領収書からうかがい知ることができる。同研究会は設立の規約で「本会は、民主主義の理念に基づき、この国のあるべきかたちを研究」すると高邁な設立目的を謳っている。ところが、政治資金収支報告書に添付されていた領収書の大半は飲食店のものだ。たとえば'06年の収支報告書に「資料代」として計上されていた同年12月21日付、額面8万円の領収書には、「ワイン・資料代として」という但し書きがついている。領収書の発行元はワイン講習会などを主催する企業で、同社の女性社長のHPには、菅や江田五月前参院議長と一緒に撮った写真とともに、ワインで盛り上がったことが記されていた。
また、'08年の7月には派閥の所属議員約20名と、研修会と称して福岡に出掛けているが、領収書からは博多湾ランチクルーズで約14万円を支出したこともわかる。
総理に就任した菅が、連日ホテル内の高級料理店などで食事していることは有名だが、ワインにクルーズといったスノッブぶりは昔からなのだろう。
同研究会は所属議員から会費を集めており、自分たちのカネなら何をやろうが勝手だ。しかし、「応援する会」は同研究会に50万円の寄附をしており、肩代わりしてもらっていた家賃も含めて、そのカネは元を辿れば国民の税金である。

本誌はあらためて菅の事務所に、家賃の立て替え、領収書の付け替えから、なぜ急に引っ越ししたのかなどを問うた。しかし、菅事務所の答えは、前回と全く同じ。急な引っ越しの理由にも触れず、「お尋ねの件については、法に則り適正に処理しております」の一言だけだった。小沢一郎元幹事長に「政治とカネ」で説明を求めるなら、まず自身がこの疑惑について納得のいく説明をすべきだろう。
(文中一部敬称略)