仙谷由人とは それほど偉かったのか  (日刊ゲンダイ2010/11/20)


虚像と仮面で踊り続ける危険な怪人


─民主党内でひたすら小沢一郎批判ばかりしてきた変人奇人の類いの代議士がいま自己の能力を過信して国と国民を危うくしようとしていないか

「官房長官の仙谷由人はいつから、こんな偉くなったのか」と言いたくなる政治が続いている。国会では、ひっきりなしに答弁に立ち、野党議員をはぐらかしたり、聞こえないふりをしたり、挑発したりと、独壇場だ。菅首相が答弁に立とうとするのを制して、勝手に答えてしまうシーンが当たり前になっている。思わず、参院予算委の前田委員長(民主)まで「仙谷総理大臣!」と口走ってしまう始末である。

尖閣ビデオ問題はもちろん、いま焦点の柳田法相更迭問題を仕切っているのも仙谷だ。
「菅政権の大黒柱はオレだと自負している仙谷さんは、野党がメディアを使って自分を潰そうとしていると思っている。柳田法相を切ることは簡単。でも潔くやると、次は馬淵国交相、その次は自分が標的にされると分かっているから、柳田法相を風よけ、時間稼ぎに使っているのです。菅首相は仙谷長官の方針に乗っかっているだけです」(国会関係者)


政治アナリストの伊藤惇夫氏が言う。
「仙谷氏の政治力量で、この難局をしのげるのかどうかは別にして、菅政権には仙谷氏くらいしか“人材”がいないのが現実なのです。菅総理は周辺が指示を仰ごうとしてもイライラ怒鳴り散らすだけだから、だれも寄り付かない。結果、官房長官のところに議員や官僚が集まり情報を上げるから、国会答弁も政権運営もひとりで仕切らざるを得ない情けないことになっているわけです」
首相のだらしなさが、官房長官を“大物”に見せる、本末転倒のコッケイな政権なのだ。



◆変わり身だけは天下一品

仙谷本人は、「陰の総理」と永田町やメディアで言われることにまんざらではないらしい。
しかし、そんなものはすべて虚像であり、仮面にすぎない。6回生の64歳なのに、ついこの間まで知名度がなかったように、信念も政策もなく、“機を見るに敏”だけで生きてきたズルい男なのだ。
「弁護士稼業から政界入りしたのは1990年。社会党のおたかさんブームに乗って初当選した『土井チルドレン』です。1年生議員でニューウェーブの会を作り、仙谷さんは代表幹事になりました。当時から権力志向でしたね」(旧社会党関係者)

落選後、96年の総選挙で民主党から出馬し政界復帰。その後は、党の実権を握っていた熊谷弘(元民主党副代表=引退)にスリ寄る。熊谷と一緒に代表選で鳩山由紀夫を担ぎ、党運営の中枢に接近した。そのくせ熊谷が力を失って離党すると、「若手への世代交代が必要」と叫び出し、前原誠司の後見役を買って出る変わり身の早さだ。
「護憲の土井」から「古い自民党体質の熊谷」へ。そして「ウルトラタカ派の前原」。この移り変わりを見ても、仙谷に信念なんてないのがよく分かる。「民主党政権の真実」を近く上梓する評論家の塩田潮氏がこう言う。「権力を掌握するには2つの方法があって、最高権力を握っている人とケンカするか、そのフトコロに飛び込むかどちらかですが、仙谷氏は小沢氏にケンカを売ることで、最高権力を手に入れたわけです。しかし、力の源泉は“反小沢”ということだけ。菅首相ともそこで結びついているだけで、一心同体ではありません。過去にさかのぼっても、政権交代前の民主党代表選で仙谷氏が菅氏を支持したのは6回中1回だけ。5回は敵方に回った。もともとはそんな関係なのです」
お飾り首相に都合がいいから菅を立てて、裏でちゃっかり実権を握る。そういう打算だけで成功した男なのである。



◆「反小沢」が売りだが、「反小沢政治」を示したこともない

やっぱり、「そんなに偉ぶるんじゃないよ」と言いたくなってくる。党内に小沢一郎という巨大な敵を見つけられたから、ここまでノシ上がれたにすぎない。
「仙谷さんの小沢嫌いは熊谷さん譲りです。07年、代表時代の小沢さんが福田首相と大連立に走った時、両院議員懇談会で正面から小沢さんを批判した。目立ったのは、あの時くらいでしたが、本人は“反小沢”は武器になると分かった。政権交代前後に、小沢さんが検察とメディアから目の敵にされたので、これは行ける、若手・中堅の不満を吸収できると計算したのでしょう。でも、だからといって、反小沢政治というものを打ち出すわけじゃない。小沢さんが主張し続けた官僚支配打破、政治主導、国会改革、マニフェストなどに対して、仙谷さんから対案を聞いたことはありません」(民主党関係者)

元共同通信政治部次長で、政界を長く見てきたジャーナリストの野上忠興氏もこう言った。
「仙谷さんは、小沢さんとの関係で、ここ1、2年ポッと出てきた印象しかありません。表舞台に立ったことのない人だから、叩かれると保身に走る。官房長官というのは裏方です。私は過去に4人の官房長官の番記者をやったことがありますが、さすがに総理をバカにするような人はいませんでした」
偉くなる資格も資質もない男が偉くなってしまう。民主党が幼稚な議員ばかりの集団にすぎない裏返しだ。前出の伊藤惇夫氏も「幼稚園児の中に、小学校低学年生が入ったようなもの」と言ったが、その通りだろう。普通なら、仙谷なんて、「反小沢」だけで売っている生方ナニガシや牧野ナニガシと同じ奇人変人の類いの代議士にすぎないのだ。



◆小沢の予言が的中しそうだ

この程度の器の男が国政の中心で踊り続ける。能力以上のことを場当たりでやり始める。これは恐ろしいことだ。ゾッとしてくる。
海上保安官の漏洩事件や相次ぐ大臣たちのたるみ緩みは、その兆しだろうが、こうなってくると、国中が乱れ、歯止めが利かなくなるものだ。小沢一郎元代表が18日、「やぶれかぶれ解散があるかもしれない。
選挙になれば自民党も民主党も勝てない。過去のような危険な道に進む可能性があるのが怖い」と、戦前の軍部独裁を招いた政治不在の日本を予言したが、それは杞憂ではない。前出の塩田潮氏が言う。
「先が読める小沢さんからみれば、ドン詰まりの現状は危なっかしくて仕方ないのでしょう。実際、このままだと、政権にしがみつくだけの菅首相がその日暮らしで政治を衰退させていくか、心中を嫌がって仙谷長官が前原外相あたりをトップに差し替えて解散に打って出るかの、どっちかでしょう」
どっちにしても、待っているのは政治の大混乱と機能マヒであり、無政府国家への没落だ。

早く政権の上に、小沢のような重しを置かないと、この国はバラけて手がつけられなくなってしまう。




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