米中ロ韓日の本音と打算  (日刊ゲンダイ 2010/11/26)

北朝鮮を残しておきたい

─「軍事衝突拡大」はありえない

「危機」を煽る日本のテレビの大騒ぎとは裏腹に、北朝鮮と韓国の砲撃事件は一気に終息の方向だ。そのウラにあるのは周辺国の本音と打算。どの国にとっても、北朝鮮は生き永らえさせておいた方が得だから、軍事衝突が拡大するはずはないのだ。


●米国――その気になれば北朝鮮を武力で潰すのは簡単なこと。イラク戦争のように手間取ることもないが、その気はない。朝鮮半島の緊張は米国民にとって遠い遠い国のどうでもいい話。しかもオバマ政権の当局者や米軍は「北朝鮮の不安定こそが東アジアでの米国の軍事覇権に不可欠」と考えているから、“火ダネ”がなくなっては困るのだ。元外務省国際情報局長の孫崎享氏はこう言う。
「韓国には米国の民間人5万人と軍人2万5000人がいますし、戦争になればソウルを中心に多くの犠牲者が出る。“人質”が多すぎるのも、強硬手段に出られない事情です」

●中国――北朝鮮の最大の後ろ盾として同盟関係を深める中国の意図は簡単だ。朝鮮半島情勢に詳しい評論家の河信基氏が言う。
「多くの国と隣接する中国にとって、北朝鮮は一番安心できる国で、国境を警備する必要がない。それに旧満州地帯の経済復興に、北朝鮮の羅津港を使っている。現状のままでいいという考えが中国にあるのです」
こんな事情もある。前出の孫崎享氏が言う。
「朝鮮有事になれば、何十万という難民が中国に押し寄せてくるから、それは困る。さらに、戦争後に予想される南北統一国家は韓国が中心になり、中国との国境の最前線にまで米国の手が伸びることになる。それを避けるためにも、北に存続して欲しいのです」


●ロシア――中国と事情は同じで、北朝鮮カードは米国の東アジア支配への牽制になっている。
「ロシアはもともと北朝鮮と旧同盟関係ですし、シベリア鉄道の延長で、観光旅行など人の交流も活発。北朝鮮からは森林伐採でロシアに出稼ぎに行っている労働者も多い。それに不凍港の羅津港の使用許可がロシアの極東部開発に不可欠なのです」(河信基氏=前出)
北朝鮮のバックにロシアと中国がついている以上、米軍もヘタに手出しはできないのだ。

●韓国――テレビを見ていると、韓国国内は「北朝鮮をやっつけろ」の一触即発のようにも見えるが、そうじゃない。
「今回の砲撃行動直後、韓国のウォンと株が下落したように、北朝鮮との緊張は韓国経済へのダメージが大きすぎる。また韓国国内では安保意識が薄れ、北朝鮮寄りの世論も多いから、慎重な対応を取らざるを得ないのです」(コリア国際研究所所長・朴斗鎮氏)
経済最優先の韓国にとって、北朝鮮とのドンパチはデメリットの方がはるかに大きい。仮に、北朝鮮を潰して統一したとしても、その莫大なコストや混乱を考えれば、即発というバカなことは考えようもないのだ。


●日本――テレビや一部メディアが北朝鮮危機に火を付けたいのは分かるが、米国などにその気がない以上、本格的な軍事衝突は起こり得ない。日本の経済界もそれが望みだし、防衛省に自衛隊、在日米軍も右寄り言論人も「北の脅威」があるから、大きな顔をしていられる。北朝鮮が消えたら、それこそ商売上がったりだ。
――かくして、金正日王朝は適度に暴発、挑発を繰り返しながら、国際政治の中でワガママいっぱいにこれからも生き延びるというわけである。



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