大研究 あなたが知らない「環境問題のウソ」2011年版 PART1賢者の知恵


(週刊現代 2010年12月01日)  http://p.tl/vxeR


「エコカー」「エコ旅」「エコポイント」と、いつでもどこでも見かける「エコ」。だが、それ、本当に「エコ」なのだろうか。「環境問題」の「不都合な真実」の姿をお見せします。



[1] 地球温暖化は環境問題ではない
 ほとんど冬のような、寒い秋が訪れている。北海道、栃木、山梨など全国各地で、10月の最低気温記録が続々塗り替えられた。その寒さゆえ、百貨店の秋冬衣類の売り上げは、軒並み前年超えだという。

 今年の夏の暑さを忘れてしまうような冷え込みだ。全国に154ヵ所ある観測地点のうち77ヵ所で平均気温が観測史上最高となったあの猛暑。当時は誰もが地球温暖化と結びつけて考えていたが、本当にそうだったのか、疑わしくなってくる。

 実は日本の裏側の南米は、7月中旬から記録的な大寒波に襲われた。ペルーやアルゼンチンなど南米8ヵ国で少なくとも200人以上が、寒さが原因の肺炎などにより死亡。家畜の牛も数千頭単位で、低体温症によって死んでいるのだ。

 なぜこんなことが起きたのか。地球は温暖化しているのではなかったのか。東京工業大学大学院理工学研究科の丸山茂徳教授がこう説明する。

「南米の寒波はもちろん、日本の猛暑も温暖化と直接関係はありません。偏西風の軌道が例年と違っていたことが原因です。偏西風は北極の冷たい空気と、その周りの温暖な空気の境界で吹いているのですが、今年は太陽活動の影響で、その境界がずれて、異常気象を引き起こしたのです。

 日本や南米以外でも、砂漠地帯のパキスタンでは雨がものすごく降って大洪水を起こし、モスクワは熱くなり、クロアチアなど東欧は冷夏だった。アメリカも西海岸は寒かったけれど、東海岸は暑かったのです」

 日本が猛暑だったからといって、地球温暖化に原因を求めるのは早計だ。

 温暖化どころか、むしろ寒冷化しつつあるとみる専門家もいる。元NASA研究員で、早稲田大学理工学術院総合研究所客員顧問の桜井邦朋氏はこう言う。

「地球の温度が上昇していくという予想ばかりが一人歩きしていますが、実際は1998年に一度ピークを迎え、2000年あたりから地球の平均気温はあまり上昇していません(上のグラフ参照)。

 その頃から、地球の気温をつかさどる太陽の活動が衰退を始めました。いまや太陽の活発さを示す黒点がほとんどない休眠寸前の状態です。このままいけば地球は確実に寒冷化します」

 とはいえ、ここ100年以上、地球の平均気温が上昇し続けてきたのは厳然たる事実だ。これは温暖化ではない、というのか。前出の丸山教授はこう説明する。

「たしかに温暖化は進んできましたが、それは太陽の活動が活発だったからです。温室効果ガスが増えた原因も、社会から排出されるCO2だけでなく、水蒸気が増えたからです。

 活発な太陽活動によって海水温も上がり、水蒸気が多く発生したのです。社会から排出されるCO2の影響はごくわずかで、それによる気温の上昇は0.004℃にすぎないというデータもあります」


■本当に怖いのは寒冷化

 温暖化はCO2を原因とする環境問題ではなかったことになる。

 帝塚山学院大学の薬師院仁志教授はCO2と気温の関係についてこう明かす。

「地球化学者キーリングの観測データが示す通り、実は気温が上がってからCO2の濃度が上昇している。気温が上昇して海水の温度が上がれば、海水に溶け込んでいたCO2が泡として吹き出してきます。だから、CO2と温暖化に関しては、因果関係が逆なんです」

 東京大学生産技術研究所の渡辺正教授は、CO2も悪いばかりではないと言う。

「CO2濃度が上がっているのは誰もが認めるところです。ただ、そのおかげで世界中で植物が増えていることは知られていない。実はCO2濃度が高まると、植物の生育は早まるんです。人間の食糧の大半は植物由来ですから、CO2が適度に増えれば食糧が増えることになる」

 そんな中、鳩山前総理は「CO2の25%削減」を世界に向けて高らかに謳った。仮に日本が産業界に多大な犠牲を強いてCO2の25%減を実現したらどうなるのか。横浜国立大学の伊藤公紀教授がこう言う。

「地球の気候の変化は、太陽活動をはじめとする自然変動の影響が大きいので、CO2が削減されても地球の気候はほとんど変わらない可能性がある。その代わりに何が起きるかというと、生産活動を制限された日本のGNPが下がります。当然、日本経済はさらに落ち込んでしまいます」

 実際、人類の行く末を憂えるのなら、温暖化よりも寒冷化のほうがずっと深刻だ。前出の桜井氏はこう言う。

「古くは、1800年前後に、50年ほどの寒冷期がありました。ヨーロッパ各地で農業の生産力が極端に落ち、穀物の価格の高騰を招いて、多くの人々が飢餓に苦しんでいます。1600年代半ばには、その後約70年間続いた太陽活動の大衰退期がありました。

 当時は、地球が寒冷化し、世界各地で飢饉が起きた記録が残っています。日本でもちょうどその時期、享保の大飢饉が起きて、各地で農民一揆が起きています」

 寒冷化が与える農業への影響について東北大学の近藤純正名誉教授が言う。

「6~8月の夏の平均気温が1℃下がれば、米の収穫量は10%落ち、2℃下がれば60%落ちることもあります。日本では'93年にフィリピンの火山噴火に端を発した大冷害がありました。

 あの時も平均気温が約2.3℃下がり、収穫高は例年より39%ほど落ち込んで、米を輸入するという緊急事態に陥りました。日本は戦後30年気候に恵まれたせいで、米作農家は冷害に強い品種を作らなくなっています。日本の農業は寒さに弱いはずです」

 今冬は厳寒が予想される。そして暑い夏はもう来ないのだろうか。


[2] 電気自動車は本当に環境にいいのか


 11月中旬、米テスラ・モーターズのアジア初のショールームが、東京・南青山にオープンした。1階にはスポーツタイプ「ロードスター」の電気自動車(EV)が道路からも見えるように展示されている。もの珍しさに立ち止まって写メールを撮る通行人や、ショールーム内に入ってスタッフの説明を聞くお客が絶えない。


東京・南青山にオープンした、米テスラ社のショールーム ロードスターの値段は1000万円超だが、「5月に(テスラ社が)日本に進出してから、購入されたお客さまもすでにいらっしゃいます」(ショールームのスタッフ)という。EVの時代が間近に迫っていることを、実感させられる。

 化石燃料に依存せず、CO2を排出しないため、環境にやさしいと期待されているEVだが、CO2削減の効果は限定的だとするレポートを環境団体WWFのドイツ支部が発表。

 これが物議を醸している。その内容は次のようなものだ。

 ドイツでは現在、およそ4100万台の自動車が走っている。2020年までにこのうち100万台をEVか、家庭用電源で充電できるプラグインハイブリッド車(PHV。長距離走行時は内燃機関を使うため、CO2が排出される)に替えたと仮定する。

 そのエコ効果を試算すると、交通運輸部門で削減できるCO2の量はおよそ1%。それは国全体で排出しているCO2のうち、わずか0.1%でしかないというのだ。


■急速に普及するとまずい

 WWFジャパンの広報担当者が言う。

「EV導入によって新たに必要になる電力を、原子力発電などCO2の排出が少ない方法ではなく、石炭を使った火力発電でまかなうという前提で算出した数字です」

 ドイツでは現在、発電のおよそ半分を石炭火力に依存している。EVはたいてい夜間に充電されるために、その時間帯に電力使用量が増加。そこで使われるのは、石炭火力による電気がほとんどなのだという。ちなみに火力発電には石炭のほかに石油、ガスなどがあるが、CO2の排出量が一番多いのは石炭によるものだ。WWFジャパンの広報担当者が続ける。

「加えて、いま売られているEVは走行可能距離がそれほど長くないため、ガソリン自動車からの乗り換えが急速に進むわけではないでしょう。WWFジャパンとしても、EVによってCO2削減という課題が抜本的に解決されるとは考えていません」

 EV導入によるCO2削減効果は国ごとに違う。発電方式や自動車の台数などが異なるからだ。そのため、「場合によってはCO2が増えてしまう国もある」と言うのは東海大学工学部教授の内田裕久氏である。

「国内の自動車メーカーの試算があります。現在のガソリン自動車をEVにそっくり入れ替えたとしたら、CO2の削減量は国によってどれほどになるかというものです。それを見ると、一番多く削減できるのは原子力発電が国の電力の約80%をまかなっているフランス。原発はCO2の排出量が少ないので、全車のEV化でCO2も80%ほど減らせます。日本も原子力発電、水力発電などの比率が高いため、30~40%ほど減らせる見込みです。

 一方、約50%を石炭火力に頼っているアメリカでは、排出されるCO2の量がプラスマイナスゼロだと試算されています。意外なところでは、風力発電で有名なデンマーク。実は石炭火力も盛んなため、試算では20%ほどCO2が増えるとされているのです。これから自動車需要が急増する中国やインドでも、石炭火力への依存度が70~80%ほどと高い。電気自動車が急速に普及すれば、大量のCO2が排出されてしまうでしょう」

 いまはまだ街中でEVを目にすることは少ないが、昨年7月に発売された三菱自動車『i-MiEV』に続き、来月には日産のEV『リーフ』が市販を始める予定。来年にかけて、「EV熱」は盛り上がりを見せることになりそうだ。

 EVが量産されることになれば、車を製造する過程で使用されるエネルギーや、排出されるCO2は大きな量になる。それがガソリン車にくらべて多いとなれば、エコではなくなってしまう。そんな点に着目したのは、日本工学アカデミーの人類未来戦略フォーラム委員である山本達也氏だ。

「車を一台作る時に使用されるエネルギー量は、概ね販売価格に比例すると言われています。EVではありませんが、エコカーのプリウスの場合、同クラスの他車種にくらべて値段が1.5倍。ハイブリッドなのでエコと思われていますが、製造過程で発生するCO2の量はガソリン車より多いと推測できるのです。

 ただ、エコカーは走れば走るほどガソリン車にくらべ、トータルのCO2排出量は減っていく。トヨタの発表では、プリウスは5万km走ると、トータルでCO2の削減が見込まれるようです」

 ではEVについては、どう考えればいいのか。東京大学名誉教授の安井至氏が言う。

「自動車というのは、車体が大きくなり、構造が複雑になれば、それだけCO2をはじめとする環境負荷が増えます。EVはいま小型のものが多いので、環境負荷は小さい。ただ今後、長距離走行を目指して電池を増設すれば、車は大きくならざるをえない。そうなると当然、製造時に出るCO2など環境負荷は増えることになってしまうのです」

 個々は正しいことをやっても、全体からみると悪い結果をもたらす。環境問題とはそんな「合成の誤謬」によるところが大きいと言うのは、立教大学特任准教授の見山謙一郎氏だ。

「だからこそ、EVが普及すればCO2を劇的に削減できると短絡的に考えてはいけません。部品製造から完成品を組み立てるまでの工程、EVの普及で変化する電力需要への対応など、それらが環境全体に与える影響を考え、マネジメントすることが必要なのです」

 ちなみに日本全体のCO2排出量のうち、自動車によるものは18%ほどと言われている。自家用自動車に限って言えば約10%で、これは家庭で暖房、給湯や照明機器、冷蔵庫などを使うことによって排出されているCO2の量とほぼ同じ。家庭で省エネに取り組めば、EVに匹敵するくらいのCO2削減効果があることも忘れないほうがいい。