大研究 あなたが知らない「環境問題のウソ」2011年版 PART2賢者の知恵

(現代ビジネス 2010年12月02日)  http://p.tl/adhp


「エコカー」「エコ旅」「エコポイント」と、いつでもどこでも見かける「エコ」。だが、それ、本当に「エコ」なのだろうか。「環境問題」の「不都合な真実」の姿をお見せします。


[3] ペットボトルのリサイクルに何の意味があるのか

 潰されたペットボトルが山積みになったその工場では、何本も並んだ巨大なパイプがうなり声をあげていた。運ばれてくるペットボトルは、まずガラスや金属などのゴミが取り除かれ、大型のカッターで次々にフレーク状に細かく砕かれていった。

 神奈川県川崎市に本社と工場を構えるペットリファインテクノロジー株式会社。ペットボトルの循環型リサイクルを商業ベースで実現している日本で唯一の会社だ。廃ペットボトルを使って新たにペットボトルを作る循環型リサイクルができるのは、日本どころか世界でもここだけだという。

 同社に持ち込まれる廃ペットボトルは、1日平均50~60t。これを年間330日間、1日24時間のフル稼働で処理していく。従業員は約60名。同社の専務取締役・熊谷尚哉氏は言う。

「ペットボトルを形成するPET樹脂という石油化合物をリサイクルし、再びペットボトルを作るには、巨大な装置を使って、いくつもの工程を経なければなりません。当然、コストがかさむので、利益は多くない。その証拠と言ってはなんですが、弊社の前身企業は、かつてベンチャーとして出発したものの、2度も民事再生の憂き目にあっているんです」

「世界でもここだけ」は裏を返せば、まるで普及していない、ということだ。ペットボトルの回収がすっかり定着した今日でさえ、廃ペットボトルが再びペットボトルにリサイクルされる再生率は、回収したうち、たったの1%にすぎないという。

 しかし、一般人の多くは、リサイクルによって新たなペットボトルが作られていると思って日々ペットボトルを消費しているのではないか。資源材料工学が専門の中部大学総合工学研究所・武田邦彦教授はこう言う。

「実はペットボトルの分別回収が始まる時、ある環境団体が猛反対しました。リサイクルされるという安心感から、かえってペットボトル飲料の購入が増え、ペットボトルの生産量も増加すると予想したからです。事実、この予想は的中しました。しかも、リサイクルによってペットボトルを作れないから、新品を次々生産している。石油資源のムダ使いと言っていいでしょう」

 '10年度版のPETボトルリサイクル推進協議会の年次報告書によれば、日本のペットボトルの販売量は年間56.4万t。使用後の回収率は77.5%。これに対してヨーロッパは48.4%、米国は28%だ。数字だけ見れば優秀に思える。

 しかし、回収されたペットボトルがその後どうなっているかというと、意外な事実に行き着く。元・名城大学経済学部教授の槌田敦氏が説明する。

「PET素材を砕いてフレーク状にし、卵パックやポリエステル繊維として再製品化しています。しかし、廃棄処分よりも費用がかかるのが問題になっています。

 ペットボトルの回収と簡易洗浄などにかかる費用は自治体負担で、その額は1・当たり500円くらい。これをさらにフレーク状にする費用が1・当たり約100円ですから、計600円になります。このフレークはゴミを多く含むので、透明な食品容器には使えず、用途が限られるため、値段はキロあたり3円ほどです。つまり600円のコストをかけて3円の商品を生産するわけで、これがペットボトルのリサイクルの実情と言えます」


■リサイクルも中国頼み

 さらにPETボトルリサイクル推進協議会の言葉を使えば、日本で回収されたうちの半分が「海外リサイクル」されているという。

「海外リサイクルと言えば聞こえはいいですが、要は廃ペットボトルを主に中国に輸出しているんです。これは先進国の傲慢と言うべきで、自分たちのゴミを海外に輸出するというのはおかしいと言わざるをえません」(前出・武田教授)

 廃ペットボトルの輸出量は近年急増している。'06年には7.6万tだけだった対中国輸出が、'09年には30.1万t、全輸出合計では39.6万tにもなっている。

 ただ、当の中国が廃ペットボトルを資源として必要としているのも事実。前出の熊谷専務が言う。

「フレーク状にしたものを、クッションやぬいぐるみの中綿などに使っています。もっとも最近は、中国もペットボトルの生産を始めており、10年もしないうちに日本並みに作るようになるでしょう。そうなれば、わざわざ日本の廃品を買う必要もなくなるのです」

 現在の日本のリサイクルは、ある意味中国ありきで成り立っているのだ。では、中国という、ありがたい廃品市場がなくなったら、どうすればいいか。前出の槌田氏はこう言う。

「一番いいのは焼却炉で燃やして発電することです。PET樹脂の発熱量は1g当たり1万カロリーですから、計算すると、1kgで約3キロワット時の電力が得られます。リサイクルをすると、その工程で当然石油を消費します。その石油消費も抑えられるんです」

 当たり前のように行われているペットボトルの分別回収だが、にっちもさっちもいきそうにない。ムダをなくしたければ、ペットボトルそのものを減らすしかないようだ。


[4] エコバッグ 気持ちだけ、いただいておきます

 いま、エコバッグはどれくらい普及しているのか。試しに平日の午後、都内・杉並区にあるスーパーで1時間ほどリサーチをすると、およそ5人のうち3人がエコバッグを持参していた。ただエコバッグを持っていながら、有料のレジ袋をもらう人も目立つ。レジ袋とエコバッグに品物をわけて入れ、両手に提げて店を出る人もいた。

 1年間に約300億枚がゴミとして捨てられるレジ袋。その削減を目指して始められたレジ袋の有料化だが、なぜエコバッグを使いながらレジ袋を買う人が多いのか。神戸山手大学教授の中野加都子氏がその理由をこう語る。

「私が一般家庭を対象に行ったレジ袋に関するアンケート調査では、持ち帰ったレジ袋をどう使うかという質問に対して、約8割が『生ゴミを入れる』『ゴミ箱の内袋に使う』と回答。『利用しないで捨てる』と答えた人は1%もいませんでした。いろいろな用途に使えて何度もリユースできるレジ袋は、消費者から重宝がられているのです。

 また、家庭からレジ袋がなくなったらどうするかと聞いたら、『小さなゴミ袋を買う』と答えた人が約6割。ただ、ゴミ袋よりレジ袋のほうが安い値段で売られていることがあるため、ゴミ袋用にレジ袋を購入するということが起きているようです」

 エコバッグが普及しても、レジ袋の需要が変わらないとなれば、削減の目標は達成できないことになる。それ以上に「ゴミ袋がレジ袋に取って代わることは、環境にとって悪影響」と言うのは、中部大学総合工学研究所教授の武田邦彦氏だ。

「自治体から指定されるゴミ袋はサイズが大きく、レジ袋にくらべて、使用するポリエチレンの量が多い。ポリエチレンの原料は石油。自治体指定のゴミ袋に使われる石油の量は、レジ袋のおよそ3倍です。

 ちなみに日本人が使う石油のうち、レジ袋を作るために使用しているのは微々たる量。それにくらべ、たとえば日本からヨーロッパに10日ほど旅行に行くことに使われる石油の量は、レジ袋を300年間使う分に相当する。旅行を1回我慢したほうがよっぽどエコなのです」

エコバッグのうち、ポリエステル製のものはエコではないという意見もある。社団法人プラスチック処理促進協会広報部長の神谷卓司氏が言う。

「製造過程で排出されるCO2の量をくらべると、エコバッグはレジ袋の約50倍。エコバッグの原料であるポリエステル生地を作る時、たくさんのCO2が排出されるし、1枚あたりの重量がエコバッグのほうが大きいからです。

エコバッグを三日坊主で使うだけだったり、何度も買い換えたりすれば、かえってレジ袋をリユースするほうが環境にやさしい」

 そもそもレジ袋削減を訴える論調の中には、「家庭ゴミの6割ほどを占めているのがレジ袋」というデータを見かけることがあるが、これはウソ。ごみ問題ジャーナリストの江尻京子氏が解説する。

「本当はレジ袋だけでなく、飲料パックや惣菜のパックなどを含めた容器廃棄物全体の数値が6割。加えてこれは容積比で見た割合で、重量比だと容器廃棄物は約23%とグッと減る。しかも、その中でレジ袋が占める割合は0.8%。つまり、家庭ゴミ全体から見ると約2%でしかない」

 エコバッグを持つだけで事足れりと思ってはいけない。減らすべき家庭ゴミは、まだほかにある。前出・中野氏はこう言う。

「たとえば、生ゴミの水切りをするだけで、ゴミ焼却にかかるエネルギーは大きく抑えられる。食べ残しを減らすなど、簡単で効果が大きいゴミ削減のやり方もある。シンボルとしてレジ袋削減を唱えるのはいいですが、それだけでは問題解決になりません」


[5] アトピー急増の原因は環境ホルモンじゃない?

 アトピー性皮膚炎に苦しむ子どもが、相変わらず増えている。

 東京都は今年3月、3歳児の保護者約3000人へのアレルギー疾患に関するアンケート調査の結果を発表した。それによると、3歳児の38.8%が何らかのアレルギー疾患の診断を受けていた。そのうちアトピー性皮膚炎が15.8%と最も多く、'04年の同様の調査と比べると0.5ポイント増加していたのだ。

 元慶應大学病院皮膚科医局長で、『そのアトピー、専門医が治してみせましょう』などの著書がある、菊池皮膚科医院院長の菊池新医師はこう話す。

「アトピー患者は確実に増えています。現在、私の診療所では約3万8000人の皮膚病患者を抱えていますが、そのうち半分近くがアトピーと言っても過言ではありません。今後も増加傾向にストップはかからないでしょう」

 なぜ増えているのか。一つにはダイオキシン類を筆頭にした環境ホルモンや、大気を汚染している化学物質が、胎児や乳児に影響しているという説がある。

 環境ホルモンとは生体の成長、生殖や行動に関するホルモンの作用を乱す化学物質のこと。なかでも毒性の強いダイオキシン類は、ゴミを焼却する際に主に発生する。大気からだけではなく、土壌や海水経由でそれを取り込んだ野菜、肉、魚を食べると、体内に入る。

だが、菊池医師はこう指摘する。

「一時期、環境ホルモンとアトピーの関連が言われたことがあります。しかし、最近ではほかにさまざまな原因が考えられています。

 アトピーは免疫異常であるアレルギーが根底にあるわけですが、もともと肌が弱かったり、不適切なスキンケアをして、皮膚バリア機能の低下という因子がさらにプラスされることで発症するというのが、最近の皮膚科専門医の一致した見解になっています」

 では、免疫に異常をもたらす要因とは何か? 体内に大量の化学物質が入ってしまうことも理由の一つだが、それだけではない。

「外食などで高タンパク、高脂肪の食生活を続けていると、乳酸菌などの腸内細菌にも悪影響をおよぼします。結果として腸内の悪玉菌が増殖し、アレルギーを起こしやすくしてしまうことが分かってきました。

 また、ストレスは大人も子どもも同様に、免疫異常を引き起こし、アレルギーを起こしやすくします。

 ほかにも、ウィルス性の風邪に対して抗生物質を処方することがいまだに多い。しかし特に小児期での抗生物質の投与は、腸内の乳酸菌や生まれながらに持っている自然免疫の発達を妨げることにつながる可能性があります」(菊池医師)

 たとえアレルギーの状態になっても、丁寧にスキンケアし、バリア機能が十分であれば、アトピーの発症を抑えることできる。ただし、清潔を気にしすぎるのも厳禁のようだ。『食の安全と環境 「気分のエコ」にはだまされない』の著者で、科学ジャーナリストの松永和紀氏はこう話す。

「アトピーの増加の原因の一つとして、生活環境が過度に衛生的になったためとする仮説が挙げられています。乳幼児期にウイルスや細菌などに感染する機会が減ったため、免疫力も落ちたというのは、多くの論文で実証されています。

 アレルギー疾患はほかにも、スギ花粉の増加や住居の密閉性が高くなりダニが繁殖しやすくなっていることなど、複合的な要因で増えたと考える医療関係者が大半です。単一の化学物質が原因とは考えにくいのです」

 目に見えない化学物質に過剰に怯えることなく、食生活の改善など、できることを心がけるのが健康被害を減らすことにつながる。