「現実路線」という罠にはまった菅民主党 [金子勝の天下の逆襲]

(日刊ゲンダイ2010/12/7)

日本の民主党も、オバマ大統領も、発足直後の人気が嘘のように、あっという間に支持率が下落してしまった。なぜか?
かつての2大政党制は、イデオロギー的違いが鮮明で、互いに支持基盤が安定していた。それゆえ政権獲得後、ライバル政党の政策に近づけていくことが政権の安定をもたらした。2大政党は、それぞれの主義主張が鮮明なので、逆に、自分たちの主義主張に偏らず「現実主義」になることが、多くの国民に安心感を与えたのだ。
しかし、形の上ではいまも2大政党制だが、100年に一度の経済危機に直面して、昔と違ってそれぞれの支持基盤は激しく流動化している。人々は、もはや従来の考え方では立ち行かないと気づき、政治に「変化」を期待するようになった。国民は政治のリーダーシップによって行き詰まった現実社会を変えて欲しいと望んでいる。そうした状況では、かつてのように、政権獲得後に「現実路線」に走ると、かえって支持を失ってしまう。
ところが、政権に就いた日米の民主党とも、国民の期待が分からず、「変化」よりも「現実路線」にカジを切ってしまった。とくに、菅内閣は自民党の政策に近づき、「現実的」になれば政権が安定すると勘違いしているフシがある。実際、外交・安保は「対米追随」、八ツ場ダムは「建設復活」、普天間基地は「辺野古移転」……。「現実主義」という単語にだまされ、民主党の理想を捨て、自民党時代の路線をそのまま踏襲している。
だが、これでは政権交代した意味などない。このまま、官僚が用意した「現実路線」に乗って、TPP参加だ、辺野古移転だと政策を進めていたら、民主党は間違いなく次の選挙で大敗するだろう。
100年に一度の経済危機に直面した多くの国民は、何かが変わったという実感を持ちたいのだ。この時代は、絶えず変革を続ける政党だけが、新しい支持基盤を獲得できるのだと思う。大恐慌の後に、ルーズベルト大統領がつくったニューディール連合が、まさにそれだ。民主党は時代の変化に早く気づき、マニフェストに立ち返って「変化」を実行しなければ、消滅の運命が待っている。
(隔週火曜掲載)