こんなハズではなかった政権交代 (日刊ゲンダイ2010/12/9)


民主支持者を裏切る菅政権 子ども手当増額財源にサラリー族給料の各種控除見直しの大増税


◆一体何を考えているのか、国民生活第一の公約より財政再建の財務官僚に屈服した菅民主党政権

─サラリーマンの給料たった1000万円が高額所得なのか、自分あちは税金ドロボーのくせに

広辞苑によると、「詐欺師」とは「巧みに人をあざむいて財物をかたりとる人」のこと。相手を信頼させておいて金銭や物品を奪うロクデナシを指す。
「国民の生活が第一」を掲げながら、負担増で国民から搾取しようとしている菅首相は、まさにこれだろう。「奇兵隊内閣」とかいって高杉晋作を気取っていたようだが、その正体はペテン師にほかならない。
民主党は政権奪取を実現した衆院選のマニフェストで、〈1人当たり年31万2000円の「子ども手当」を創設する〉と掲げた。小学校や中学校を税金で支えているように、子どもは社会全体で育てるという理念である。その代わりに、〈高所得者に有利な所得控除から、中・低所得者に有利な手当などへ切り替える〉とした。

これが大ウソだった。菅政権が着々と進めているのは、一方的に公約を反故にするデタラメだ。子ども手当は、月2万6000円のはずが1万3000円となり、来年度も3歳未満を月2万円でヨシとする構え。しかも、この7000円アップですら、平然と「子ども手当は来年度限り」と言い出した野田財務相によって減額されようとしている。裏切りは、これだけでない。手当はウヤムヤでも控除の見直しはガンガンやる。配偶者控除は年間所得1000万円以下、給与所得控除は年収1200万~1800万円を上限とする案を用意。成年扶養控除は年収570万円以下となる見込みだ。
高額所得者を狙い撃ちするつもりらしいが、国税庁の民間給与実態調査によると、年間給与額で1000万円以上は175万人。その大半は、汗水流して必死に働いているサラリーマンだ。組合活動を隠れみのにして仕事もせず、ノウノウと権力を手にした労組上がりの連中には、このあたりのことが分からないのだろう。



◆国民には消費税5%の負担増

確かに、年収1000万円超は少数派だが、濡れ手に粟で儲けているわけではない。麻生元首相や鳩山前首相のような億万長者と違うのだ。
経済ジャーナリストの荻原博子氏が言う。
「控除の縮小・廃止は実質的に増税です。毎年上がる年金や社会保険料も、見えない税負担。それらの隠し増税を調べたところ、04年以降の主なものだけで総額12兆円に上りました。消費税に換算すれば5%分です。すでに、これだけの増税をやっていながら、さらに負担を増やすなんて冗談ではありません。年金の国庫負担を50%から36・5%に引き下げる案も浮上していましたが、これもおかしい。われわれは恒久減税だったはずの定率減税を廃止する際に、年金の国庫負担財源にするといわれ、泣きの涙で応じたのです。
年収700万円の家庭で8万円の増税を強いられたのです。いまさら国庫負担を引き下げるなど許されません。政権が代わっても、約束は約束です。民主党政権には怒りを覚えます」

菅は会見で、「いよいよ重要な課題を決めていかなければならない段階に入っている。私の責任で決める」と、にやけた顔で言っていたが、民主党を支持した有権者を裏切る可能性は極めて高い。相続税だって基礎控除5000万円が3000万円台に減らされ、電気代やガス代に跳ね返る環境税も創設するという。信じられないぐらいの「負担増大路線」である。
政権交代の“成果”が相も変わらぬ国民イジメでは、あまりにもバカにしている。



◆財務省の下請けで露払い演じるスッカラ菅

それでも菅は反省ゼロだ。どれだけ詐欺をはたらこうが、「石にかじりついても」と権力にしがみつく気でいる。スッカラ菅政権の総仕上げは消費税増税となるのがミエミエだ。
いまの菅政権は財務省そのものである。政権を担当するだけの能力がないから、オンブにダッコでいるうちに、すっかり財務官僚に乗っ取られた。看板にしていたはずの政治主導は、カケラもない。

実際、やっていることといえば、消費税増税のためのパフォーマンスばかり。何かにつけて財源がないと繰り返し、国民をあきらめさせようとしている。あれほど大騒ぎした事業仕分けが2兆3000億円の予算削減にとどまったことも、「もはや消費税増税以外に打つ手ナシ」を印象づけた。財務省の下請けとなり、「無い袖は振れない」と露払いを演じているのだ。よくもまあ、恥ずかしくないものである。「民主党は09年の衆院選マニフェストで特別会計のゼロベースの見直し、国家公務員の総人件費の2割削減、天下りの全面禁止、議員定数の削減などを掲げています。これらを全部やれば、控除を削らなくても、財源ぐらい出るでしょう。どれでもいいから、やってちょうだい、と思いますよ。政治が機能しなければ、官僚の天下になる。国民は、こんな政権交代を期待したわけじゃありません」(荻原博子氏=前出)



◆政権運営できない政治家は舞台から去れ

期待を裏切れば、支持率が下がるのは当然である。それでも菅はやる気だ。「支持率1%になっても」と強弁している。その悪夢が現実になりそうで恐ろしい。
政治評論家の山口朝雄氏が言う。
「菅政権は能力も経験もないのが集まっているから、したたかな役人にやりたい放題やられている。政治主導が官僚主導になれば、国民は“話が違う”となる。支持率はガタ減りです。そうなると、ますます役人は“この政権は長くない”と押せ押せになる。完全に悪循環です。この状況を変えるには、菅首相が降りるしかない。政権運営できない政治家は舞台から去り、自らの意思で役人を動かし、党内にもにらみが利くリーダーを選ぶことです」
昨年は、迷走を見かねた小沢一郎幹事長(当時)が「党要望」を政府に提出し、税制や予算編成の作業を一気に前進させた。政治力の違いをまざまざと見せつけた。

ところが、菅は、最大の実力者を排除して官僚に頭を下げ、国民を苦しめようとしている。まったく、いつまでこんなバカな政治を続けるつもりなのか。自分たちは定数削減すらやらず、国民から巻き上げることばかり考えている税金ドロボーに任せていては、この国はグチャグチャだ。



※日刊ゲンダイはケータイで月315円で読める。
この貴重な媒体を応援しよう!
http://gendai.net/