ジワリ進む増税の仕掛け

ドクターZは知っている
(現代ビジネス 2010年12月08日) http://p.tl/G47i

政府税制調査会(会長・野田佳彦財務相)は12月の税制改正大綱とりまとめに向け、所得税増税を打ち出した。具体的には、給与所得控除、配偶者控除、成年扶養控除について所得制限を入れることで税収を増やす方向というから、つまりは高所得者の負担増になるということだ。

 一方で、法人税率の5%引き下げも検討中だ。減収分の穴埋めのために、さまざまな業界への減免税を見直すことなどで約2兆円の財源を確保する案が出ているが、これには各業界が猛反発している。結局、法人税減税分を所得税増税でまかなうことになるだろう。

 理屈から言えば、法人は個人の集合なので、二重課税を回避するためにも個人ベースの課税だけにするのが望ましい。それには個人の所得捕捉を確実に行い、個人資産・所得に課税すればいい。海外ではほとんどの国が納税者番号を導入して個人ベースの課税を漏れなく行い、その結果、法人税を下げている。

 日本では納税者番号の議論がないまま、法人税減税の財源確保のために個人所得の課税強化を行おうとしている。

 背景には、財務省と経済界の妙な協力関係がある。財務省は消費税増税、経済界は法人税減税が悲願。そこで両者が手を握り、消費税増税までのつなぎとして、所得税増税を行うというシナリオだ。

 そこに、格差是正を大義名分にして、民主党が所得税増税に乗り出してきたのだ。格差是正が本当の目的なら、納税者番号による個人資産・所得の捕捉が先決だ。だが、財務省にすりよる民主党は、納税者番号制度導入に不可欠な社会保険料徴収機関(旧社保庁)と国税庁の統合をマニフェストから落としている。

 そんな中、気になる動きがあった。11月16日、今年7月まで財務省の事務次官を務めていた丹呉泰健氏が12月から読売新聞の社外監査役に就任することが発表された。丹呉氏は小泉純一郎首相の秘書官を異例の5年半も務めた後、財務省に戻って事務次官に上り詰めた実力者。

 菅首相は財務官僚をことのほか警戒し、財務相就任直後は財務省の建物に近づこうとすらせずに官邸の副総理室で執務していたが、いつの間にか増税路線に宗旨替えした。これは、丹呉氏の功績とされる。

 その丹呉氏が、メディアの中で消費税増税に最も理解があると見られている読売の禄を食む。なにやら意味深だ。

 また、18日には菅総理とたちあがれ日本共同代表の与謝野馨氏が首相公邸で会談した。与謝野氏は言わずと知れた増税派。読売新聞の最高実力者・渡辺恒雄氏とも親密で、その渡辺氏が大連立の仕掛け人だったことは記憶に新しい。

 増税論者の菅総理と与謝野氏が会談したのだから、当然、増税が話し合われたはずだ。さらに言えば、今の自民党の執行部も増税路線だから、民主党と自民党の増税大連立の橋渡し役を与謝野氏が担うという話があっても不思議ではない。前財務次官と巨大メディアのドンも、知恵袋や応援団、あるいは自民党とのパイプ役として大連立話に絡むのかもしれない。

 消費税増税のための大連立。それを財界が支持できるように、法人税減税を織り込む。政権末期の様相を示し、内外に難問を抱えるだけに、表向きは「救国内閣」と装うこともできる。よくできた話だ。

 税調の増税話、読売の社外監査役人事、菅・与謝野会談。一見無関係な出来事が、どこか裏でつながっているのではないか。何かきな臭いものを感じる。