"名古屋の乱"河村たかし名古屋市長「市長選で民意を問う!」
署名46万票以上集めながら、無効票11万以上と判定され、市議会リコールならず


FRIDAY 永田町ディープスロート
(現代ビジネス 2010年12月10日) http://p.tl/aBb3


「住所が一字一句違っただけでも無効とは、名古屋市民の民意を踏みにじるんですか。署名した人に圧力をかける確認の仕方も、いかんしね。なんで審査が厳しいかというと(市議会の)議員が辞めさせられるからでしょ。自分たちの利害関係で厳しくしたり緩くしたりせんように、審査する選挙管理委員会は独立行政委員会になっとるわけですよ。

 独立行政委員会は一定の政治勢力から隔離され、市民の自由を守るのが目的なんだけど、今回のやりかたは、それを超えてるでしょう。選挙管理委員会は議会を守ったと言われますよ。これ、抗議だわ。民主主義の恐るべき危機ですわ」

 語気荒く憤慨するのは、河村たかし名古屋市長(62)である。「市民税10%減税」などの公約を掲げた河村市長は、今年8月、市議会のリコール請求(解散請求)を始めた。自分は市長報酬を800万円にまで下げたのに、市議会は議員報酬を来年4月まで1630万円から1400万円に下げるだけ。

 河村市長にすれば、市議会は恒久的な節税に協力しない抵抗勢力だというのがリコール請求を始めた理由だ。そのリコール請求の署名数が法定数に達しなかったのは、署名を審査する選挙管理委員会の横暴だと怒っているのである。

 これまでの経過を振り返っておこう。

 10月4日に選挙管理委員会に提出された署名は46万5000人分以上。リコール請求に必要な署名数は名古屋市の有権者数の20%に当たる約36万6000人。署名の無効率が20%でもリコール請求は成立するはずだった。

 ところが、審査を始めた市選管は、住所や氏名が「選挙人名簿と一致しなければ無効」と、従来より厳しい独自基準を示した。さらに署名集めを担う「受任者」欄が空白な署名が11万人分以上あることを問題視。



「日々坦々」の資料ブログ

名古屋市選挙管理委員会が作成した内部文書。受任者の記名がなかった署名について、本当に受任者が集めたかを確かめるための依頼文書の文案である

 


リコール請求の請求代表者以外が署名を集める場合には、署名の横に集めた人(受任者)の記名がなければいけないが、それがないと指摘されたのだ。市長側は記名を免除される10人の請求代表者が集めたと主張したが、選管側は「1人が1ヵ月で1万人以上集めるのは不自然」として、11万人の署名者すべてに確認調査票を郵送した。

 11月24日、調査票による確認結果を反映し、選管は全署名の約4分の1にあたる約11万人分が無効と判断した。

 実は、河村市長が「抗議だわ」とまで怒るのも無理はない。表向きは「公正、中立」の選管だが、本誌が入手した内部資料からは、なんとか署名を無効にしたいという気持ちが透けて見える。

 上写真がその内部資料で、調査票に添付する確認依頼状の文案なのだが、「(調査票の)ご返答をいただけなかった場合は、あなたの署名を『無効』と判断させていただく場合がございます」という一文がある。

 署名した市民を脅すかのような文案に、さすがに各区選管も「返信がない場合の判定が定まっていない段階で『無効』と判断する可能性があるとの表現は行き過ぎ」(中区)、「相手を刺激し、相当の反発が予想される」(熱田区)などと反対した。結局、この一文は削除されて調査票は郵送されたのだが・・・。

 それにしてもなぜ選管はここまで頑なにリコール請求を阻止するのか。

「選管の委員は4人中3人が市議OBで、リコール成立を阻止したい市議会側の意向を受けてハードルを高くしているという疑惑が消えません」(市政担当記者)

「選管、市議会連合」に負けた形の河村市長は、市長を辞職し再選を目指すと、こう発表した。

「署名が集まらなかったら辞職しようと思っとったの。皆さん言っておられたがな、『どう責任とんのか』って。

 だから責任とるわけです。もう一回やらしてちょ、と。民意を問うわけですわ。

 その代わり強い抗議を、選管には申し上げます。強い抗議のための辞職ということです」

 12月下旬に辞職し、2月6日に愛知県知事選と市長選の「ダブル選」に打って出る意向を明らかにしたのである。

 実はこの再選出馬宣言も、市議会から批判の的になった。

「これは、多くの政策が一致し、知事選に出馬する盟友・大村秀章衆院議員(自民)に対する援護射撃と市議会は見ているんです。

 選挙期間中、お互いにタッグを組んで政策を訴えられますから。責任を取るというならすぐに辞職すればいいのに、今辞職するとダブル選挙にならないから、12月下旬なのです。これにはさすがに市民からも『市政の私物化だ』との声が上がっています」(別の市政担当記者)

 再出馬には、岡田克也民主党幹事長も呆れている。26日に民主党代議士会で「大義のない選挙で究極の税金の無駄遣い」とこきおろしたのだ。

「再選されても市議会が解散するわけではなく、事態は何も変わりません。もともと河村市長が考えていたのは、リコールで市議会を解散して、自分も辞職。知事選に市議選と市長選をぶつけるトリプル選挙をして、自分のシンパを増やすことだったんです。正直、減税は立派だけどその手法はいかがかという声が、市民からも上がってます」(市議会関係者)

 "名古屋の乱"はまだ終わりそうにない