●元検察幹部:総長に私信「一部調書は検事の作文」
(毎日新聞 2010年12月15日 2時39分) http://bit.ly/h542bD

 検事による供述調書の作成を巡り、元検察最高幹部の一人が99年、北島敬介検事総長(故人)あてに「一部の調書は『検事の作文』といわれても仕方がない」と懸念する私信を送っていたことが分かった。これを受け最高検は翌年、調書作成の適正化を全国に通知したが、郵便不正事件では調書の任意性が否定され、厚生労働省元局長の無罪が確定。同事件と一連の証拠改ざん・隠蔽(いんぺい)事件で最高検は近く検証結果を公表するが、10年前の警鐘は生かされなかった。

 私信を書いたのは、東京地検検事正などを経て、総長、東京高検検事長に次ぐ検察ナンバー3ポストの大阪高検検事長を最後に退官し、当時は中央更生保護審査会委員長だった増井清彦氏(77)。

 前年の98年、水戸地検は水戸市の建設設備工事会社と同社社長を脱税で摘発し起訴したが、公判で弁護側から「取り調べ検事が異なるのに、参考人や被告の供述調書に全く同じ文章が多数あり、あらかじめワープロで作成したクローン(複製)調書の疑いがある」などと批判された。計16通322ページのうち166ページに重複箇所があるうえ、参考人2人の調書は23ページにわたって同一だったという。

 増井氏は弁護側と知り合いだったことからこうした経緯を知り、私信を北島総長に提出。「一言一句同じ供述をすることは経験上あり得ない。かつてロッキード事件公判で被告側から調書について『検事の作文』で信用性がないという主張があり、当時は一笑に付したが、この調書については検事の作文といわれても仕方がない一面があるように思う」などと記した。

 その上で「検事が強い予断を持ち誘導的な取り調べをした疑いを払拭(ふっしょく)できず、供述の信用性、任意性まで否定されかねない」と指摘。「発覚しなければよいというものではなく、虚偽公文書作成や証拠隠滅などの嫌疑を生じかねない」と批判した。さらに「事態は氷山の一角で、病弊は既に広くまん延しているのではないか」「検察官の取り調べや調書への信頼が失われれば検察運営上致命的」とし、再発防止を求めた。

 これに対し、北島総長は「調査させたところ、調書作成に横着をしたが、有罪は間違いないとのことだった。各地検に注意させる」と伝えてきたという。最高検は00年9月、全国の高検、地検に「いわゆるクローン調書の例が散見されるなど憂慮すべき実態がうかがわれる」として取り調べと調書作成の適正化を図るよう通知した。

 郵便不正事件では大阪地裁が、関係者の供述調書の多くを「検察側に誘導された可能性がある」として証拠採用せず、村木厚子・厚労省元局長の無罪に至った。増井氏は「上司が現場を厳しくチェックする体制になっていない。当時の問題の延長線上に、今回の改ざん事件があるのではないか」と語った。【「検察の岐路」取材班】



●特捜部に証拠チェック専門検事 改革の柱、最高検方針
(朝日新聞2010年12月15日3時2分) http://bit.ly/hp3oaV

 大阪地検特捜部による郵便不正事件の捜査の検証を進めている最高検は、証拠チェック専門の担当検事を、捜査の主任検事とは別に東京、大阪、名古屋の各地検特捜部に置く方針を固めた。元主任検事・前田恒彦被告(43)=証拠隠滅罪で起訴=が、物的な証拠を検討せず供述偏重に陥っていた、と判断した。取り調べの一部録音・録画(可視化)と並ぶ再発防止策の柱として、24日に公表する検証結果に盛り込む見通しだ。

 検証内容によると、前田元検事は、別の検事から、どんな物的証拠があるのか報告を受けていたものの、十分に目を通していなかった。供述に頼った形で捜査を進めた末に逮捕・起訴した村木厚子・厚生労働省元局長は、無罪判決を受けることになった。

 検証結果を踏まえて最高検は、主任と同格か格上の検事を、証拠をチェックする担当として特捜部内に置く方向で検討。主任検事のブレーキ役となることを想定している。被告に有利な証拠も積極的に上司などに開示する▽人的つながりが濃密な大阪の検察人事を変え、もっと交流させる▽証拠物を持ち出す場合はコピーを使う――なども再発防止策として打ち出す方向だが、特捜部の存廃には触れない。

 一方、検証結果では、証拠改ざんに至った特捜部の組織的な病理についても具体的に触れる。前田元検事は、上司の元特捜部長・大坪弘道被告(57)=犯人隠避罪で起訴=から「バッジ(政治家)はできなくても、せめて厚生労働省の局長までは立件を」と求められ、プレッシャーを感じていたという。一緒に捜査を進めていた検事はみな自分より若手で、「失敗したら、自分はもうダメだ」などと一人で抱え込んでいたという。



●【郵便不正事件】検証のポイントは…
(産経新聞2010.12.14 20:19) http://bit.ly/dJgjwX

 最高検検証の最終報告書は、法相の諮問機関「検察の在り方検討会議」(座長・千葉景子元法相)が来年3月までにまとめる検察改革案に向けての議論に活用される。

 ポイントは、FDの最終更新日時という物的証拠が当初の構図と矛盾することがわかりながら、村木厚子さんを逮捕・起訴したこと((2)(8))と、FDの改竄が検察内部で露見したにもかかわらず公判を続けたこと((9)(12)(13)(14)(16))だ。これらは、不当に身柄を拘束する特別公務員職権濫用罪に当たるとの批判もあり、最高検は同罪に該当しないと判断した根拠も説明することが求められる。

 背景には、検事の人事評価((3))や最高検を含む決裁((4)(5)(6)(15))の不備、押収資料であるデータ管理のあり方((7))といった組織的な課題がひそんでおり、どのような再発防止策を取るかも注目される。

 また、強引な取り調べの実態((1))のほか、公判を控える押収資料改竄・犯人隠避事件((10)(11))にどの程度踏み込むかも焦点だ。

 最高検は、前田恒彦被告が携わったほかの事件約30件でも、証拠類の改竄がなかったか当時の同僚検事や上司から聴き取りを行っており、最終報告書に結果を盛り込む方針。