もう2度と上がらない年金支給額

(日刊ゲンダイ2010/12/21)

◆「据え置き」指示も、あっさり断念
リーダーシップの演出に躍起の菅首相だが、肝心の国民生活に関わるテーマでは、からっきしだ。菅政権はきのう(20日)、来年度の国民年金や厚生年金などの支給額の据え置きを断念。0・3%程度の引き下げを正式に決めた。下げ幅は、国民年金の満額(月6万6000円)受給者で、月200円ほどになる。
「支給額は物価変動に応じて減少する『物価スライド制』となっており、今年の消費者物価指数は改定基準の05年を下回ることが確実です。減額必至の中で先週、菅首相は来春の統一地方選などを念頭に高齢者の反発を防ごうと、唐突に据え置きを関係閣僚に指示。ところが、何ひとつ抵抗せず、ひっくり返されたのです」(官邸事情通)
自民党政権下でさえ、深刻なデフレに見舞われた00~02年度の3年間は、特例措置で年金減額を停止したものだ。政治主導を発揮する絶好のテーマなのに、菅は何もできずに降参である。「年間2400円ならデフレの恩恵で相殺できる」なんて考えは甘過ぎる。今回の引き下げは“アリの一穴”。菅があっさり白旗を揚げたことで、二度と支給額は上がらないと覚悟すべきだ。経済ジャーナリストの荻原博子氏が言う。
「まだまだデフレは続きますし、支給額も減らされる。それでいて、いざデフレ脱却で物価上昇に転じても連動して支給額はアップしません。05年4月に『マクロ経済スライド調整』という給付引き下げプログラムが導入されたからです。少子高齢化に備える名目で、支給額が増える場合に限って『スライド調整』が発動され、支給額に反映する物価上昇率を低く抑え込めるようになったのです」


◆年金一元化のマニフェストはどこへ消えたのか
物価が下がれば年金は減るが、物価が上がっても年金は増えない――。年金支給額の決定には、官僚に都合がいい二重基準が横行している。
「民主党は、こんな腐った年金制度をイチから見直し、『年金一元化や最低保障年金を実現する』とマニフェストに掲げていたはず。ところが、政権交代から1年が過ぎても新年金制度の議論は棚上げされたまま。古い年金制度に従って『据え置きだ』『財源不足だ』と、閣内でモメるなんて本末転倒。有権者をバカにしていますよ」(荻原博子氏=前出)
今回の据え置き断念には、「年金支給減額という“悪しき前例”を不人気首相に押し付けてしまえ」という官僚側の策謀も透けて見える。もはや、菅に本当のリーダーシップを発揮できる政治力は残されていない。



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