検察トップ(検事総長&次長検事)辞任でも「特捜部解体論」は止まらない
17年ぶりに「東京地検特捜部長」経験者が後任に就くが・・・

永田町ディープスロート
(現代ビジネス2011年01月06日)http://p.tl/IDF _

12月17日午前9時前。出迎えの公用車の後部座席に座る大林宏検事総長(63)は本誌記者の質問をいっさい受け付けず、そのまま車で走り去った。その前日、毎日新聞夕刊が大林氏が辞意を固めたことを報じ、各社が一斉にその後を追ったにもかかわらず、表情一つ変えなかった。

 検事総長が任期途中で辞めるのは戦後初めてだ。'10年中に、最高検の大林氏と伊藤鉄男次長検事(62)という検察組織のトップ2が辞任する。言うまでもなく、直接的には大阪地検特捜部が組織ぐるみで証拠改ざんを図り、現場指揮官である大坪弘道前特捜部長(57)ら3人の現役検事が逮捕された事件の責任を取る形だ。

 大林氏の後任には東京高検の笠間治雄検事長(62)を、伊藤氏の後任には札幌高検の小津博司検事長(61)を充(あ)てる。全国紙司法担当記者が解説する。

「検察内部に『あれは大阪の問題』と、事態を矮小(わいしよう)化する声が根強いことに心を痛めた大林氏が、トップの覚悟を見せなければ組織改革はできないと決意したようです。また、尖閣諸島で起きた中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突した事件で、政府の意思と無関係に那覇地検の判断で漁船の船長を釈放したというシナリオを推し進めたのが大林氏でした。

 その判断によって尖閣事件の映像がネット流出した事件が誘発されたとも言われ、大林氏は自分を苛んだようです」

 12月24日には最高検がまとめた不祥事の検証結果と再発防止策が発表される予定で、大林氏の辞意はその公表を待たずして表沙汰になった。問題の検証結果には、特捜部を対象に被疑者の取り調べの一部につき録音・録画(一部可視化)を試行することが盛り込まれる見込みだが、次のような批判がすでにある。

「裁判員裁判になる重大事件で一部録音・録画が行われていますが、罪状を認めた人に対し、最後に『取り調べで脅されたりしていませんね』と念押しする場面が撮影されているだけ。特捜部がこれまで行ってきた強引な取り調べを追認する方向に作用しかねません」(中西祐一弁護士)

 一方、最高検の検証アドバイザーで元特捜検事の髙井康行弁護士は、こう語る。

「私は一部であっても可視化には反対です。大阪の事件の本質的な問題は、脅しや誘導ではなく、出てきた虚偽の供述を鵜呑みにしてしまった点にある。今回の捜査が可視化すれば防げたかと言えば、それは違いますし、繋がりはありません」

 だが検察の思惑は、笠間氏を抜擢する人事にこそ見え隠れする。笠間氏は過去、東京地検特捜部長としてKSD事件などを手掛けた現場派で、法務省での勤務経験はない。東京地検特捜部長経験者が検事総長に就任するのは、ロッキード事件を指揮した吉永祐介氏以来17年ぶりだ。

 ちなみに、民主党の小沢一郎元幹事長の政治資金規正法違反事件について、笠間氏は、「あの程度の証拠能力では立件できない」と慎重な姿勢を貫いたという。


「笠間氏が '11年1月2日の誕生日で検事を退官するため、大林氏はバトンタッチを急いで、定年を延長させました。不祥事がなければ、大林氏の後任は小津氏が最右翼でしたが、小津氏は同期の笠間氏の女房役に回ることになりました。

 特捜部という特殊な"組織の論理"こそが最大の焦点なのに、現場の声を代弁することが予想される笠間氏を後任に据えたのは、『検察の在り方検討会議』に対抗すべく、捜査経験の豊富な人材を登用した結果です」(別の全国紙司法担当記者)

 千葉景子前法務相を座長に据える「検察の在り方検討会議」(法相の諮問機関)には、元検事の郷原信郎弁護士やジャーナリストの江川紹子氏が名を連ねる。

「検討会議は、全面可視化を求めて最高検の検証結果を真っ向から批判することが予想されます。すでに『前時代的である』と検察組織そのものの問題を突いていますから、特捜部の解体など、検察の考える以上の改革案が出されることが予想されます」(同前)

 委員の一人である郷原氏は、こう語る。

「特捜部の構造的な問題であり、大阪と名古屋の特捜部を潰せば解決するという問題ではありません。検討会議では、私や江川さんだけではなく、厳しい姿勢で臨むべきという人が大半です。最高検の検証結果が、取り調べの一部可視化など新聞で漏れた程度の内容であれば、非難囂々となるでしょう」

 当事者の危機意識は、どれくらいあるのだろうか。本誌は12月18日朝、伊藤氏を自宅マンション前で直撃した。

---大阪地検特捜部などは、その存在意義そのものを問われているが。

「まあ、そういう説もあるね。検証(結果)の中で書きますから」

---そもそも伊藤氏の辞任は、検察不祥事の責任を取ったと理解してよいか。

「僕は( '11年)3月で定年だから、仮に事件が起きなくても、辞めてもおかしくなかったんです」

 あれだけの不祥事を起こしておいて司令塔の後任を身内から選んだ。それこそが検察組織の本音に見える。