特捜検証報告 大阪だけの責任でない
(東京新聞2010年12月25日) http://p.tl/qzN4

 大阪地検特捜部をめぐる不祥事の検証結果を最高検が公表した。捜査から公判の過程で暴走したのは許し難い。特異な事件と矮小(わいしょう)化せず、検察全体の問題ととらえてこそ、再生への道しるべとなる。
 「逮捕や起訴に問題があった」「取り調べには反省すべき問題があった」などと、数々の反省の言葉が、最高検の検証結果報告書に並べられた。厚生労働省の元局長を逮捕、起訴した大阪地検の捜査が、でたらめだったのは言うまでもない。
 ましてや証拠を改ざんした元検事や、これを封印した元特捜部長らの対応も、報告書が「言語道断」となじったとおりである。
 一検事の暴走を生んだ背景には、消極意見を好まない上司の性格があったという。さらには関西圏だけの人事異動により形成された親密な人間関係もあるという。
 だが、その面を強調すると、この事件の特異性ばかりに目が向きがちだ。強引な捜査が指摘されるのは、東京地検も同じではないか。むしろ全国の検事にも共通した問題が潜んではいないか。
 検事の描いたストーリーと証拠が矛盾する事態があれば、無理に捜査を進めず、立ち止まって、冷静に考えるべきである。引き返すべきときは撤退せねばならない。報告書は全検事に対しての“警告書”と受け止めてほしい。
 公判についても、それが言える。今回の事件では、矛盾を知りつつ、公判を続行した点が見逃せない。公訴を取り消すことも、論告段階で有罪を求めないこともできたはずである。元局長に無罪判決が出るまで撤退しなかった検察の態度は批判されるべきだ。
 このポイントについても、再発防止策の中で、「引き返す勇気を持って、公訴の取り消し等を行うべきか否かを検討する必要がある」と述べた。「勇気」という情緒的な言葉ではなく、「論理」として撤退が必要なのである。
 特捜事件は検事長の指揮を受けることを義務づける。主任検事を総括的に補佐する検事を配置する。特捜事件の被疑者の取り調べでは録音・録画を試行する-。数々の項目に及ぶ再発防止策を書いているが、現場で実効性を伴わないと、まるで意味がない。
 新検事総長に笠間治雄氏が決まったが、信頼を取り戻すには、まず全検事の意識改革を徹底せねばなるまい。法務大臣の私的諮問機関「検察の在り方検討会議」でも、さらに抜本的な改革案が提示されることを期待する。