2010迷言大賞(下) 他にもこんなに…編
(産経新聞2010.12.31 16:00) http://p.tl/lztY

 政界の「名言」や「迷言」の使い手は、鳩山由紀夫前首相や仙谷由人官房長官ばかりではない。「責任転嫁」「見通しの甘さ」「軽率」…などのキーワードで表せる政府・与党の体質は、菅直人首相はじめ、他の政治家たちも負けじと発信し、今年も国民の記憶に刻まれた。
 まずは国会内でファッションモデルを気取り、雑誌の写真撮影に応じていた蓮舫行政刷新担当相だ。
 「撮影許可願に書いた『議員活動の記録のため』というのは、参院の事務方の示唆だった」
 10月14日の参院予算委員会ではこのように説明していた蓮舫氏だが、11月18日の参院予算委では一転、「私の誤解に基づいた答弁で、撤回し、謝罪したい」と白旗を揚げた。
 自民党の丸川珠代氏から「虚偽答弁だ。弱い立場の人間に責任をなすりつけた」と追及されても、言い返せなかった蓮舫氏。「仕分けの女王」と呼ばれた歯切れの良さは影を潜め、すっかり小さくなっていた。
 政治家の言動の持つ重みを、与党になって気付かされたのが枝野幸男幹事長代理と岡崎トミ子国家公安委員長だ。
 「与党になって、こんなに忙しいとは思わなかった。『政治主導』とうかつなことを言い、大変なことになった」

枝野氏は11月14日にさいたま市内で行った講演で、こう心境を吐露した。
 だが、「政治主導」という党の金看板をあっさり下ろす内容に、北沢俊美防衛相から「閣内にもいた人物がそういうことを言ったことがうかつだ」とばっさり切られた。
 一方、通常国会会期中の平成15年2月に、ソウルの在韓日本大使館前で、韓国の慰安婦問題支援団体主催の反日デモに参加し、韓国人と一緒に大使館に向かってこぶしを振り上げていた岡崎氏。この問題を追及された10月22日の衆院法務委では、しどろもどろの答弁を展開した。
 「反日だと思われたことが誤解だ。私は(デモが)国益にかなうという思いを持っている」
 これはどの国の国益のことだろうか。岡崎氏は、自身の行動への反響が大きいことは理解した様子だったが、後悔の念や反省の色は全く見せなかった。
 一方、舌禍で表舞台から去った閣僚もいた。拉致問題担当相も兼ねていた柳田稔前法相だ。
 11月14日に地元・広島県で開かれた会合でのこと。「個別事案への回答は差し控えたい」などの答弁を繰り返すことで国会質疑を乗り切ったと自慢し、さらにこう言い募った。
 「法相はいいですよ。2つの言い回しを覚えておけばいいんだから」 
 これが更迭に波及した国会軽視発言だが、実は北朝鮮による日本人拉致問題をめぐっても、解決への本気度が問われる迷言を残していた。
 「当委員会で拉致担当大臣としてのコメントを言うのはどうなのか。19年近い国会生活をしているが、先例によって当該の大臣が答弁をすると聞いている」
 11月12日の衆院法務委。北朝鮮と直結した在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の影響下にある朝鮮学校の授業料無償化適用について見解を問われた際、法務委での立場が法相であることを理由に答弁を拒否したのだ。

柳田氏の場合、本来の職務である法相、拉致問題担当相としての「発信力」はゼロに近かった。
 ある意味でインパクトが強い発言の数では、菅首相も負けていない。
 官僚が作成した原稿を読んで答弁することについて、11月4日の参院本会議代表質問では思わず、「私も本当にやめたいんです」と愚痴った。野党時代に舌鋒(ぜっぽう)鋭く与党の官僚答弁を批判した勢いは見る影もなかった。
 また、首相は実際は官僚に書かせた答弁を繰り返し書き直させるなどして自分で手をいれており、この発言は、秘書官らに責任転嫁したものでもあった。
 11月2日に衆院第1議員会館で開かれた菅グループの会合では、悲壮感漂うせりふも残している。
 「首相官邸は情報過疎地帯で、一次情報が入ってこない。意見や情報を遠慮なしに寄せて」
 孤立無援ぶりが透けてみえる発言だったが、これまた「自分の周囲は情報もとれない無能者ばかりだ」と言っているに等しい。自分の立場が分かっていない。
 ただ、それでも首相の椅子(いす)の座り心地は良いようだ。内閣支持率の急降下も失政を問う声もどこ吹く風、続投にもますます意欲を見せる。
 例えば政権の屋台骨を揺るがせた沖縄県・尖閣諸島周辺での中国漁船衝突事件ではどうだったか。
 船長を釈放した政府の対応について、10月18日の参院決算委で「(世論に)批判があることは重々承知しているが、歴史は必ず菅内閣の対応は適切だったと評価すると確信している」と断言した。根拠は不明だ。
 外交の失態が支持率低下に直結しても意に介さない。11月8日の衆院予算委では「石にかじりついてでも頑張りたい」と強調。12月8日に都内のホテルで民主党の鉢呂吉雄国会対策委員長らと会食した際にも、内閣発足から半年を「われながらよくやった」と振り返った。

首相のお気楽ぶりは常人には理解しがたいレベルに達している。これも為政者の孤独がなせるわざか。
 「就任して今までは仮免許だったが、これからはもっと自分の色を出していきたい」 
 12月12日に都内で開かれた支援者との交流会でこう語った首相だが、危うい運転に付き合わされる国民にとっては迷惑以外のないものでもない。(内藤慎二)
 ◇…語録もろもろ…◇
 ▽事務方のせい
 「撮影許可願に書いた『議員活動の記録のため』というのは、参院の事務方の示唆だった」(10月14日、蓮舫行政刷新担当相。参院予算委員会で、国会内で応じた雑誌の写真撮影について。後に撤回)
 ▽政治主導はうかつ
 「与党になって、こんなに忙しいとは思わなかった。『政治主導』とうかつなことを言い大変なことになった」(11月14日、枝野幸男幹事長代理。さいたま市内での講演)
 ▽反日は誤解
 「反日だと思われたことが誤解だ。私は国益にかなうという思いを持っている」(10月22日の衆院法務委で岡崎トミ子国家公安委員長。かつてソウルで行われた反日デモに参加したことについて)
 ▽法相はいい
 「法相はいいですよ。2つの言い回しを覚えておけばいいんですから」(11月14日、柳田稔前法相。地元・広島市での会合で国会での答弁の切り抜け方を紹介して)
 ▽答弁拒否
 「当委員会で拉致担当大臣としてのコメントを言うのはどうなのか」(11月12日、柳田前法相。衆院法務委で拉致問題に関する答弁を拒否し、その理由として)

▽最高指揮官だった?
 「改めて法律を調べてみたら、首相は内閣を代表して自衛隊の最高の指揮監督権を有するとされていた」(8月19日、菅直人首相。首相官邸で統幕・陸海空の4幕僚長と意見交換して)
 ▽歴史が評価
 「(世論に)批判があることは重々承知しているが、歴史は必ず菅内閣の対応は適切だったと評価すると確信している」(10月18日、菅首相。参院決算委員会で、尖閣諸島周辺で発生した中国漁船衝突事件の対応について)
 ▽情報過疎
 「(菅グループのメンバーに)情報過疎地帯で一次情報が入ってこない。意見や情報を遠慮なしに寄せて」(11月2日、菅首相。衆院第1議員会館での会合で、首相官邸の現状について愚痴)
 ▽本当はやめたい
 「私も本当にやめたいんです」(11月4日、菅首相。参院本会議で官僚作成の答弁書をそのまま読むことについて)
 ▽石をかじる
 「石にかじりついても頑張りたい」(11月8日、菅首相。衆院予算委で、政権維持に意欲)
 ▽自画自賛
 「われながらよくやった」(12月8日、菅首相。都内のホテルで内閣発足から半年を振り返って)
 ▽仮免許
 「就任して今までは仮免許だったが、これからはもっと自分の色を出していきたい」(12月12日、菅首相。都内の会合で内閣発足半年を振り返って)
 ▽まるで外国相手
 「日本人として、政治家としても慚愧(ざんき)に堪えない」(12月17日、那覇市で沖縄県の仲井間弘多知事と会談し、米軍基地が沖縄に集中していることに言及して)
 ▽トウ小平氏よりまし
 「(トウ氏は)自分と同じ68歳のとき、文化大革命で地方に飛ばされていた。自分はまだましだ」(12月6日、民主党の小沢一郎元代表。都内での会合で復権に意欲を示して)(トウは登におおざと)