気鋭のジャーナリスト・上杉隆氏が語る2011年の日本
直撃インタビュー
(NET IB NEWS 2010年12月28日 08:00) http://p.tl/tlqW



不自由の鎖につながれた日本 立ち遅れている政治とメディア

 迷走する民主党政権、尖閣諸島など次々に起こる外交問題―これからの日本政治の行く末はどうなるのか。


また、こうした問題について日本のメディアはどう向き合うべきか。記者クラブ開放を訴え、政治とメディアの問題を最前線で追及するジャーナリストの上杉隆氏に、話を聞いた。


<弱体化している政権 開かれない記者クラブ>



 ―2010年の日本政治を振りかえって、どのように感じられていますか。

 上杉 まず今年初めは鳩山政権でしたが、それが菅政権に変わりました。その後の、民主党の対応の悪さは目に余りますね。

 私自身は2010年に限って言えば「情報公開」、つまり国民の知る権利に基づいた記者会見および記者クラブのオープン化を1つのキーワードとして取材してきました。その視点に立つと、今年の民主党政権というのはこれまでの野党時代の政策、マニュフェストを自ら裏切ったとかたちになりました。その過程が現在の最大の関心事です。

 ―記者クラブは変わるでしょうか。

 上杉 私は外の人間で内から変える方ではありません。それは行政や記者クラブの記者たちが決めることでしょう。何とか変えたいとは思っていますが、どうなるかは正直分かりません。鳩山政権のときは5人の大臣会見がオープンになりましたが、菅政権では新たにオープンになったのは国土交通省だけ。時代を逆行しています。

 ―上杉さんご自身、2011年の政治動向の何に注目されますか。

 上杉 予算の総組み換えと情報公開の2点だけです。これは昨年来ずっと一貫しています。その1つの例として記者クラブや官房機密費の問題があるわけで、これらの取材は2011年も続けていくつもりです。

 当たり前の民主主義国家がしていることを日本だけがしてないのであって、問題が解決されて取材することがなくなれば違うテーマに移るつもりです。しかし、日に日にひどくなっているわけですから、テーマを変えようがありません。予算の総組み換えに関しては、予算のシーリングの時点で菅政権ではどうにもできないことがわかりました。

 ―菅政権はいつまで持つと思いますか。

 上杉 私は政治評論家ではないため、そうした単なる予想屋のような仕事は受け付けていませんが、現状かなりひどいのは間違いないですね。安倍政権みたいに「こういう根拠があるから1年しかもたないのではないか」ということは当時私も言えましたが、今はもう何かあれば一発で終わるような状況です。こうして話している間にもなくなっているかもしれませんよ。

 私にとって、いつ総理が辞めるかはあまり重要ではありません。ただ、これだけ弱体化していると政権の体をなしていませんから、国家としても政権としても厳しいと思います。

 ―2011年、とくに注目しておきたいことをあえて挙げるとすれば何でしょうか。

 上杉 やはり、7月24日停波の地デジ化がどうなるかですね。日本全国、この日にアナログ波が強制停波になるわけです。しかし、この強制停波という政策はすでに失敗していることがわかってしまっています。当初は完全停波によって需要を興し、大規模な景気対策にするという小渕政権時代の狙いがあったのですが、当時と現在では、通信と放送のシステムの差などがまったく違っていたわけです。

 たとえば、当時は通信より放送の方が伝送許容量が大きかったけれど、いまや完全に肩を並べています。さらに音声などの伝達に限って言えば、通信の方が圧倒的に安定しています。つまり、イノベーションの点からも、地デジにする意味がなくなってしまったのですが、霞ヶ関の決定事項は大本営発表と同じで、いったん方針を打ち出したら最後、公共工事と同様後戻りできないわけです。地デジ化というのは、国策の公共事業ですから。

 家電メーカーもそれにのっかって止まらなくなったのですが、ともかく2011年7月には失敗がはっきりとわかるでしょう。ただ新聞やテレビは、事情があってその経緯をいっさい報じずにごまかしてきたわけです。一般の人がどれだけ被害を受けても、それはどうにもならないというわけです。これは世界を見渡しても日本だけの話です。

 私は2002年からこの問題を『月刊現代』などで追及してきましたが、8年経過してもその現実に目を瞑っている政府と記者クラブにはあきれ果てています。

 あとは、それまでに政権交代するか、菅さんではない人が出てきて何かを変えてくれるか。民主党議員は400人以上いますから誰かしら総理になるでしょうが、誰かというのは興味がなく、とにかくマニュフェストを実行できる人がなるかどうか、それだけに注視しています。

 あえて民主党の代表経験者が次期首相の資格があるとすれば、小沢、岡田、菅、鳩山、前原の5人ということになりますが、このなかで私が実績で評価しているのは、小沢さんと岡田さんです。その次に鳩山さんがきて、最後に菅さんと前原さんがきます。この最後の2人はやるといったことをこれまで何度も覆してきた。逆に、小沢さんと岡田さんはいったんやると言ったら必ずやる政治家なので、どちらかが首相になれば日本は大きく変わるだろうと思います。

 14年間、民主党を見てきた私が得た結論です。記者クラブ改革など情報のオープン化に応えてくれるのもこの2人の政治家だろうと思います。

―ところで、日本の環太平洋連携協定(TPP)への交渉参加に関して、どのようにお考えですか。 

 上杉 時代の推移としては当然だと思います。民主党は世界貿易機関(WTO)にしろ自由貿易協定(FTA)にしろ、農業まで含めた自由化と言っていましたから、その流れからすると問題ありません。もともと、鳩山さんの「東アジア共同体構想」の中にもTPPが入っていましたから、自ら言ったことはきちんとやってもらうのが筋だと思います。

 農業保護の個別保障については、もともとFTAとのバーターだったわけです。もっと言えば、03年のWTO加盟時の小泉農業改革にある程度の農業の自由貿易化が行なわれました。そのため九州の農業の一部はかなりやられてしまいましたが、そうは言っても日本1カ国で世界が生きているわけではありません。外に立ち向かえる農業を育てることを、あのときにもっときちんと構築しておけば、今はもう少しまともな対応ができたと思います。

 何しろ日本はすべて遅いのです。危機的状況になって、どうしようかとうろたえています。その甘さ加減には付き合っていられません。

 ―ちょうどインタビューをするまさに直前に、「北朝鮮、韓国の延坪島に砲撃」の一報が上杉さんのもとに入ってきました。ツイッターの情報収集の早さを上杉さんは買っておられますが、日本のマスメディアは速報性に一種の価値があったと思います。2011年はどうなるでしょうか。

 上杉 日本のニュースは本当に遅いですよね。今はツイッターが早いから、そこからリンクされているCNNやNYタイムスの映像や速報記事にアクセスした方が情勢を知るには早いです。日本においても2010年にはソーシャルメディアの役割がだいぶ変わりましたし、2011年はますますそれが加速化するでしょう。既存のメディアを凌駕した部分がたくさんあります。

 世界ではユーチューブなどが出てきても、オールドメディアと共存しています。ところが日本のマスメディアは、共存共栄を図らずに一方的に排除してきたために今のような遅れた状況に陥っているわけです。まあ自業自得ですね。現実は変わっているのにそれを直視していない、いつもの繰り返しです。世界中を見れば、この潮流は止まらないわけなんですがね。

―これまで北朝鮮、韓国、中国などのアジア情勢を見てこられたなかで、今後日本とそれぞれの国との関係はどのようになっていくと思いますか。

 上杉 まず日中関係について、尖閣諸島問題に連なる反日デモについては、03年のときの反日デモとはまったく違います。あのときは、90年代以降の江沢民の反日教育を受けた世代が首謀した暴力的なものでしたが、今回は北京や上海などの都市部では起こっておらず、情報量が不足している地方部でのデモでした。

 もう少し実態を見てみると、反日デモの半数以上が反共産デモだったわけです。デモが拡大したら抑えられないと見られた都市部では、実はすでに鎮圧されています。ところが、まだ抑えられる、情報リテラシーが低いと政府に見なされた地方部のデモはそのままにしておくわけです。怒りが政府の方に向いたときにストップする。だから、単純な反日デモかというと、そうではありません。

 そこを日本が読み違えているわけです。また、外務省の発信の仕方にも問題があるのでしょうが、やはりマスメディアがその読み違いに気づいても後から修正しないという悪い癖があることが大きいですね。事実が伝わらないわけですから。

 菅総理は「日本の盧武鉉」と言われているような人ですが、実態はそれ以下です。盧武鉉自体は03年の選挙でネット世代に後押しされて登場したものの、実際に政権をとってからは政治的にアマチュア過ぎるという批判のもと、結局5年で終わってしまいました。だが、その間、記者クラブの解体などの政策は実行しました。

 ただ、菅総理は盧武鉉とは違って、記者クラブ開放はできません。韓国は03年当時、ネットメディアに開放したことを契機に記者クラブが崩壊し、放送と通信がうまく融合できたわけです。

 ところが日本は、それから7年経った今も開放と融合ができていません。いまだに通信と放送を分離して別々の業界にしてしまっている行政およびマスメディアは世界的にも珍しく、この前近代的な考え方が日本の成長を阻害しているわけです。世界では25年くらい前にしたことを、日本はいまだに変えていないわけですから。菅政権では、これは変わらないと思います。

 その意味で、韓国には見習うべきところがたくさんあるのに、日本がまったく見ていないというか、先を越されるのを指をくわえて見ているだけですね。日韓は北朝鮮やアメリカとの関係も影響しますから、単純に二国間だけで推移するわけではありませんが、現状ではそのような感じです。

 北朝鮮に関しては、砲撃の件も含めて後日改めて検証します。


―上杉さんが考えられる「ジャーナリズムとは何か」というのをお聞きしたいと思います。ちなみに、佐々木俊尚さんは「権力監視も重要だけれども、多くの情報を整理して分かりやすく世間に伝えるのが大事」と述べています。

 上杉 同感ですが、佐々木さんが言っているのは、世界中のジャーナリズムがすでに実践していることですから、別に個人の考え方というわけでもないでしょう。ただ、少なくとも日本はやっていない。それはメディアとジャーナリズムをごちゃ混ぜに論じているからです。

 ちなみに、世界中のジャーナリストの考える最低限の仕事は「権力監視」です。これはどの国に行ってもそうです。

 基本的には政治、行政、巨大企業などの隠す情報を暴くとか、権力の不正をチェックするとか、そうしたことが求められているのがジャーナリズムです。これは古くからそうで、17世紀の英国や18世紀のフランスではすでにそうした考えがありました。ワシントンポストでウォーターゲート事件を扱ったカール・バーンスタインとボブ・ウッドワードの上司に当たるベン・ブラッドリーも、やはり「最低限の仕事は権力監視だ」と言っています。それは世界のジャーナリストの共通認識です。

 情報を加工して整理するのはメディアの仕事でもありますがどちらかといえばワイヤーサービスの部類で、本来のジャーナリズムとは違います。主観を入れて検証し報じることが新聞などのジャーナリズムです。主観が不要ならば、それは通信社がやれば良いことです。

 たとえば選挙報道で、どの候補がどのような政策で過去どういうことを実践して、実現可能性はどうかということを検証したうえで、我々はこの候補を応援すると事前に公言するのもジャーナリズムなのです。

 それが世界中で不断に行われているわけで、日本だけが客観報道と称しながら競馬の予想みたいなバカなことをやっているのです。そんなのは客観報道でも何でもありません。その辺をまったく取り違えていますよね、

 元政治家秘書という立場からすると、マスメディアの予想に対しては「あほらし」という気持ちです。実際に選挙した人間はわかるのですが、選挙はやってみるまで結果は分からないのですから。選挙予測なんてものはまったく無意味です。あんなにくだらないことに労力を使って、しかも報道の質を落としている。そんな意味のないことをするくらいなら、選挙区をひとつでも歩いた方がずっとマシです。

―個人ブロガーなどの方がよほどジャーナリズム精神をもっているのではないですか。

 上杉 それはそうですよ。海外では彼らがジャーナリストですから。日本だけです、媒体によって差別しているのは。思考が停止しています。新聞・テレビがジャーナリストで、ネットはうさんくさい、そんなこと海外では誰も思っていません。どんな媒体であっても、真のジャーナリストがいる一方で、うさんくさい人間もいるわけです。

 「ツイッター」にしても、日本だけが使い方を間違っています。なぜなら、「つぶやき」と訳してしまったから。あれは「つぶやき」というアウトプットメディアではなくて、むしろインプットメディアです。だから、海外のジャーナリストは皆自分のアカウントを持って情報収集の道具として使っているわけです。

 私も職業上は99%インプットに使っています。これでどんどん情報をインプットして、リンク先に飛んで行って下調べして、そこから取材が始まるわけです。いわば「つぶやき」はサービスです。

 ところが、日本のマスメディアはもはや情報力でソーシャルメディアに対抗できなくなりつつあり、もっと言えば脅威を感じています。だから、日本の記者がツイッターの個人アカウントを持つのが禁止されているのでしょう。その上で 時代遅れの幹部らが、アウトプットとしての使い方を強調して、「大したツールではありません」と報じているわけです。
 
 ―しかし、ソーシャルメディア上ではすでにマスメディアの論壇を超えた独自の論壇もあります。

 上杉 そこに気づかないのは、大手マスメディアも悪いのですが、残念ながら国民のリテラシーが低すぎるのです。「2ちゃんねる」というのは「巨大掲示板」と訳されていまだに放送禁止用語だし、「ユーチューブ」が出てきたときも「動画投稿サイト」と訳されて放送禁止用語でした。この前、ようやくNHKが「ユーチューブ」という言葉を使いましたが、そんなくだらないことをやっているのは中国と日本くらいではないでしょうか。

 世界中で日本のメディアは世界一遅れていると評価されていて、中国も日本のメディアをバカにして『人民日報』までもが報じるわけです。日本人はそれを「逆だ」と思っていますが、ジャーナリズムの世界では中国の方がまだマシだとされています。

 こうした批判は10年前から言われているわけで、私も日本の古い記者たちから「おまえみたいなインチキジャーナリストと一緒にされてたまるか」と言われてきましたが、そのときは「いや、こちらこそあんたたち記者クラブと一緒にしないでほしい」と言い返しています(笑)。向こうからすると私はインチキなのでしょうが、海外にいけば私が普通のジャーナリストで、逆に日本の記者だけが「相手にするな」と仲間はずれにされています。つまり、こちらがあえて我慢して日本のマスメディアに付き合ってあげているわけです。

 でも、それももはやどうでもよくなってきましたし、相手にするだけ時間の無駄です。そうしたことが分かっていないマスメディアの言うことを信じている日本の国民は、残念ながら不幸ですよね。これはもう十数年は治らないし、結果として手遅れです。

(つづく)