一兵卒の小沢を誰が恐れ 何が怖いのか (日刊ゲンダイ2011/1/5)


◆簡単なことだ、小沢が悪なら逮捕すればいいし、断罪できないならいい加減に騒ぎを止めればいい

この男の頭の中は本当に大丈夫なのか。ヌカミソしか詰まっていないのではないか。

驚いたことに、菅首相がきのう(4日)の年頭会見で、小沢一郎元代表が収支報告書虚偽記入事件で強制起訴された際には「出処進退をしっかりして、裁判に専念すべきだ」と求めた。とうとう、小沢に事実上の「議員辞職勧告」を突きつけたのである。

アホらしくて話にならないとはこのことだ。この間まで菅は「小沢さんは国会で説明を」と繰り返し要求していた。そこで小沢は年末の28日に、政倫審出席を承諾した。これで十分ではないか。小沢は政倫審を受け入れれば、続いて証人喚問や辞職勧告決議が起こる危険を承知で、菅に協力したのである。それなのに、同じ政権交代を成し遂げた仲間を政界から追放しようとは、菅には血も涙もない。人間のやることとは思えない。

菅の「辞職勧告」を受け、さすがに小沢も「首相は国民のために何をやるのかが問題で、私自身のことは私と国民が判断し、裁いてくれる」とアキれていたが、誰が聞いたって小沢の言い分が正論だ。この不況下、国民のために急がなければならない仕事は他に山ほどある。そこが全く分からないのだ。
「しかも、菅首相が年頭会見でわざわざ小沢さんの『辞職勧告』にまで踏み込んだ背景には、情けない事情があるのです」と、民主党関係者がこぼした。

◆辞職勧告がリーダーシップの発揮なのか
「最近、菅首相はメディアなどに『リーダーシップがない』と指摘されることを極端に恐れています。今回の発言も、周囲が菅に『離党勧告すべき』と進言すると、さらに『辞職勧告』にまで踏み込んでしまったようです。周囲より、もう一歩踏み込むことが『リーダーシップの発揮』と思い込んでいる。“脱小沢”しかアピールするものがない菅首相は、政権浮揚に固執するあまり、周りが完全に見えなくなっています」

それならアホな首相に聞くが、小沢の「政治とカネ」のいったいどこが具体的に問題なのか。何の疑惑が議員辞職に値するのか。確証があってのことなら、国民に丁寧に説明してみたらどうなのか。
検察も大新聞も一緒だ。
小沢が本当に「悪」なら、サッサと逮捕すれば済む話である。小沢を断罪できないなら、いい加減、このバカ騒ぎをやめた方がいい。

◆米国と霞が関に操られる狂気の首相
この2年間、検察と大新聞はグルになって、小沢のカネの問題を追及してきた。いや、佐川疑惑や新生党解党時の資金問題までさかのぼれば10年以上の追及だが、小沢を断罪できるネタは結局、何も出てこなかった。
09年3月に西松建設のダミー献金事件で、当時の公設第1秘書だった大久保隆規が逮捕された。さらに昨年1月に石川知裕衆院議員を含む元秘書3人が逮捕されると、大新聞は検察のリーク情報に乗って「水谷建設からの裏ガネ疑惑」を書き立てた。

しかし、西松ダミー献金事件は今や訴因変更で裁判が維持できないありさまだし、水谷建設からの裏ガネ疑惑もいい加減なものと分かり、小沢本人をはじめ、誰ひとりとして犯罪として摘発されることはなかった。検察の完敗だった。
石川らが起訴されたのは、政治資金収支報告書の「期ズレ」というイチャモンのような微罪だけ。こんな国民生活に何の関係もないチンケな罪で小沢も強制起訴されるわけだが、それとてシロウト集団の検察審査会が「とりあえず裁判をやれば」とテキトーに決めたもの。有罪率99・9%の通常の刑事事件の起訴とは全然違うのだ。菅や大新聞が言うような「起訴=出処進退」の話ではない。裁判が始まれば「小沢無罪」が、司法関係者の共通認識である。
筑波大名誉教授の小林弥六氏は、こう言う。
「いまや“一兵卒”の小沢氏をめぐる菅首相のヒステリックな対応は異常です。この国のトップの精神状態はマトモなのかと、本気で心配しています。行政府のトップの首相が、司法に任せるべき小沢氏の問題をことさら騒ぎ立て、ついには小沢氏の出処進退にまで介入してきた。小沢氏は有権者に選ばれた立法府の一員です。菅首相の頭の中は三権分立の原則すら理解できなくなっているのです」
狂気の沙汰の菅の「辞職勧告」の裏に、小沢を権力の中枢から遠ざけたい勢力の意向があるのはミエミエだ。
「最近、菅首相は『第3の開国』とTPP参加を訴え、年頭会見では『消費税を含む税制改正を超党派で議論したい』と踏み込みました。この発言に大喜びなのは米国と、その米国に従う財務省を中心とした霞が関です。米国はTPPで日本の市場を乗っ取りたいし、財務省はとにかく消費税大増税を確定させたい。その目標には、小沢氏のような『国民生活が第一』を唱える実力政治家は扱いにくくて困る。菅首相は政権維持のため、彼らの意向に従って“狂気の操り人形”に成り果てたのです」(小林弥六氏=前出)

大メディアも歩調を合わせた異常な小沢排除劇。超微罪を大犯罪のごとく騒ぐ裏に、政治的陰謀が隠されていることを国民もうすうす感じ始めている。だから民主党内の半分の議員も小沢についていっているのだ。

◆小沢抜きの民主党は学級崩壊に逆戻りだ
旧勢力にのみ込まれた菅が、それでも小沢を切り捨てられるなら、やってみればいい。本当に政権なんて運営できるのか。小沢抜きの民主党は、金玉のない男のようなもの。間違いなく、頼りない“文科系サークル”政党に逆戻りである。
01年まで民主党事務局長として、小沢合流以前の内部事情を見てきた政治アナリストの伊藤惇夫氏はこう言う。
「小沢氏が加勢する前の民主党は、選挙は常に風任せ。偏差値エリートで自己主張の激しい議員ばかりで結束力はゼロ。まとめ役もいなくて、党内運営は学級崩壊状態でした。そこに“体育会系”のノリで統制システムを持ち込み、常にグチャグチャだった民主党に一本、芯を入れたのが、小沢氏の最大の功績です」 小沢は、民主党のひよっこ議員に後援会など組織づくりの重要性を説いて回った。そして、業界団体など旧来の自民支持層を切り崩し、政権交代を実現させたのだ。
「いま、民主党が小沢氏を失えば、自民党に愛想を尽かして民主支持に回った保守層がゴッソリ離れていくだけではありません。残された政治経験の薄い偏差値エリート集団では、政権運営など不可能です。この国の政治は間違いなく大混乱に陥ってしまいます」(伊藤惇夫氏=前出)

小沢を切り捨てれば、政権に残るのは幼稚園児のような未熟な集団のみ。それを束ねる首相までオツムがおかしくなっているのだから、民主党政権は自滅の道を歩むだけだ。それが、自民党や官僚機構、大マスコミの狙いなのである。
「小沢追放」の大口を叩く前に、菅は地方選の一つくらい自力で勝ってみせろよ――政権交代を応援してきたマトモな庶民はそう思っているのだ。



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