小沢氏、1月中にも国会議員初の強制起訴 “最強の弁護団”で徹底抗戦
(産経新聞 1月9日(日)9時33分配信) http://p.tl/wkjc


【疑惑の濁流】

 民主党の小沢一郎元代表(68)の資金管理団体「陸山会」をめぐる政治資金規正法違反事件で、検察官役の指定弁護士による補充捜査が大詰めを迎えており、小沢氏は1月中にも強制起訴される見通しだ。菅直人首相が年頭の記者会見で、起訴された際の議員辞職を促すなど政界に緊迫感が高まる中、強制起訴の手続きは淡々と進められている。国会議員初のケースとなる強制起訴の内実とは-。その動きを追った。(上塚真由)


 ■国民主役の刑事司法…2度の不起訴処分を覆す

 「被疑者 小沢一郎」

 「別紙犯罪事実につき、起訴すべきである」

 昨年10月4日午後3時45分すぎ。東京・霞が関の東京地裁の掲示板に7枚のA4用紙が張り出されると、報道陣からはどよめきに近い声があがった。

 政権与党の実力者の起訴につながる重大な判断を下したのは、平均年齢34・55歳の11人の国民だ。東京地検特捜部の2度にわたる不起訴処分を覆した議決書では、「国民は裁判所によって無罪なのか有罪なのか判断してもらう権利がある」「国民の責任で黒白をつけようとする制度である」と、国民主役となった新しい刑事司法を強く印象づけた。

 10月末には、東京地裁が検察官役となって起訴の手続きを行う「指定弁護士」に、東京第2弁護士会所属の大室俊三(61)▽村本道夫(56)▽山本健一(46)-の3人の弁護士を選んだ。

 中心的役割を担う大室氏は、旧平和相互銀行事件やリクルート事件、旧日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)の粉飾決算事件を担当するなど、刑事事件に精通するベテラン弁護士だ。

 村本氏は、シンクタンク「新しい日本をつくる国民会議」で昨年4月に政治資金規正法の抜本改正を提言するなど、政治資金規正法に造詣が深い。山本氏も刑事弁護の経験が豊富だ。

 ある法曹関係者は「政治色もなく、バランスのある人選」と話す。

 3氏は連日のように東京地検内の執務室に通って捜査資料を読み込み、昨年12月中旬には関係者の聴取も始めた。現在は、公判に向けた捜査報告書の作成などに取りかかっているという。


 ■小沢氏に近く聴取要請…「政治的配慮しない」

 補充捜査が大詰めを迎える中、残されたのは小沢氏への事情聴取だ。指定弁護士は今月7日、小沢氏に近く聴取を要請する方針を明らかにした。

 政治資金規正法違反罪で起訴された衆院議員、石川知裕被告(37)ら元秘書3人については昨年12月21日に聴取を要請したが、「すでに刑事被告人なので」と拒否された。小沢氏についても、弁護団が「起訴が決まっている段階で協力できる範囲は限られている」と拒否の構えを示しているため、実現の可能性は低い。

 それでも、指定弁護士の一人、大室氏は「本人に聴こうという努力もせずに(強制起訴の手続きを)進めてよいのかとも思う」とし、「(東京地検特捜部が作成した)供述調書で明確でない点を事情聴取で確認したい」と語った。小沢氏聴取にこだわる背景には、10月に公表された起訴議決が特捜部の捜査について「形式的な取り調べの域を出ておらず、十分とは言い難い」と指摘したため、議決を尊重したいとの思いもあるとみられる。

 事情聴取については、指定弁護士は当初、小沢氏の衆院政治倫理審査会(政倫審)での発言を踏まえた上で判断する意向だったが、政倫審の日程が流動的なため、「不確定な要素を基に方針を決めるのは妥当ではない」(大室氏)として、政倫審を待たずに要請する方針に切り替えた。

 また、大室氏は強制起訴の時期について「(通常国会など)政治的状況には配慮しない」とも話しており、聴取の有無にかかわらず、1月中にも起訴する公算が大きい。

 ■“徹底抗戦”の構え…議決の有効性は?


 こうした指定弁護士の動きを牽制(けんせい)する形で、小沢氏側は手続きを止めるべく“徹底抗戦”の構えを示してきた。

 小沢氏は元秘書らと共謀して、陸山会が平成16年に購入した土地代金を17年分の政治資金収支報告書に記載したなどとして、同法違反(虚偽記載)の罪で告発された。

 昨年4月の1回目の議決では告発内容をそのまま「犯罪事実」と認定。だが、昨年10月に公表された起訴議決では陸山会が土地購入した原資となった小沢氏からの借入金4億円の不記載についても「犯罪事実」と認定した。

 このため、小沢氏側は「告発事実を超えた議決は違法」と主張したのだ。

 結局、議決の仮差し止めなどを東京地裁に申し立て最高裁まで争ったが、最高裁が「刑事裁判で争われるべきだ」と退けたため、行政訴訟も取り下げた。

 だが、指定弁護士が起訴内容にこの4億円の不記載を盛り込めば、「議決の有効性」が刑事裁判の大きな争点になるのは確実だ。

 これに対し、指定弁護士側は「基本的には検察審査会の議決に沿って起訴するのがわれわれの立場」と、4億円を起訴内容に含む方針を示しており、告発事実を超えた起訴の有効性をめぐる過去の判例なども調べている。


 ■行政訴訟“完敗”も…「カミソリ弘中」が弁護

 行政訴訟は“完敗”に終わったが、小沢氏側は昨年12月、刑事裁判に向けて別の弁護団を発足させて着々と準備を進めている。

 「最強の弁護団」(法曹関係者)と称されるメンバーで、その筆頭が東京弁護士会所属の弘中惇一郎弁護士(65)だ。法曹界では「カミソリ弘中」「無罪請負人」と呼ばれる。

 昨年9月に無罪判決が確定した厚生労働省元局長の村木厚子さんの弁護人を務めたほか、「ロス疑惑」事件の故三浦和義氏や薬害エイズ事件の故安部英元帝京大副学長らを無罪に導いた。

 ほかには、弘中氏とともにロス疑惑事件や薬害エイズ事件などを担当し、名誉毀損(きそん)訴訟を多く手掛ける喜田村洋一弁護士(60)=第2東京弁護士会▽企業法務から裁判員裁判まで幅広い分野で活躍する河津博史弁護士(38)=第2東京弁護士会▽若手ながらメディア対策にも精通する秋山亘弁護士(34)=第1東京弁護士会=が脇を固める。


 ■公判前も長期化?…予想される激しい攻防

 平成21年5月の改正検察審査会法の施行以降、強制起訴されたケースは3件。その中で、補充捜査に最も時間をかけた兵庫県明石市の歩道橋事故でも議決から2カ月半後に強制起訴されており、議決から3カ月が経過した小沢氏のケースが最長となっている。過去の3件ともいまだ公判が開かれておらず、争点整理などを行う公判前整理手続きに難航している様子がうかがえる。

 単純比較はできないが、石川被告ら元秘書3人の事件でも公判前整理手続きが長期化しており、昨年1月の逮捕から1年が経過した。

 長期化した理由は、水谷建設から小沢氏側への1億円の裏金提供疑惑だ。裏金提供の立証をめぐり検察側と弁護側が激しく対立し、第9回目の公判前整理手続きで、動機や背景事情の範囲内で立証が認められた。

 だが、その後、検察側が水谷建設関係者や下請け会社関係者など約10人の証人申請をしたため、弁護側は「関連性の薄い証人も多い」と反発。1月半ばで調整されていた初公判の期日は先延ばしが確定的となっている。

 小沢氏の事件でも公判前整理手続きが開かれる可能性は高い。

 水谷建設からの裏金提供について、指定弁護士は「虚偽記載との関わりが一つの論点」とだけ述べ立証範囲に含むか避けているが、起訴されたとしても「弁護士」対「弁護士」の激しい攻防が予想される。