延命のため最後の悪あがきの行方 (日刊ゲンダイ2011/1/11)

◆誰がどう変わろうと菅無能政権の終わりは近い

菅首相はこのところ、党大会後に断行する内閣改造のことで頭がいっぱいのようだ。週末も人事をめぐって、内閣や党の幹部らと会合を重ねていたが、ハッキリ言って、どんな改造をやったところでダメだ。

この政権の最大のネックは、トップの無能につきるからだ。
菅首相は7日に出演したネットの番組で、「過去の総理が辞めた原因がなんとなく分かる」「何で評価されないのか、思いが伝わらない、ということで、『これ以上やっても駄目だ』と、気持ちが萎える」と“言わずもがな”のことを口にした。「私は徹底的にやってみたい」と続けたが、後の祭りだ。

要するに、過去のブン投げ首相と同じような不満を抱き、「なぜ?」と自問することがあるのだろう。一国の首相がこれを言ったらオシマイだ。
「一体何を勘違いしているのでしょう。評価されたいとか、思いが伝わらないとか、そんなことを考えるのは、国民のために身をなげうってやっていない証拠です。首相の仕事は命を賭すくらいの覚悟がなければできない。国民から権力を託されているわけですからね。誰かに褒められたいなら別の仕事をすればいい。それ以前に、菅首相はこれまで何をやったというのでしょう。“実績”といえば公約破りだけです。総理に求められているのは結果であって、一生懸命やるのは当たり前。結果を出せないから、支持率も下落しているのに全く分かっていません。新年早々、暗(あん)澹(たん)たる気持ちになりました」(政治評論家・本澤二郎氏)


◆頭の中は大丈夫なのか、と問いたくなる
今週の「AERA」も書いていたが、最近の菅には“躁病”説さえ流れている。昨秋の臨時国会では目もウツロで死んだようだったのに、年明け以降は小沢切りで高揚。「裁判に専念されるのであれば、そうされるべき」と議員辞職にまで踏み込む異常ぶりだ。

突然、消費税増税に前のめりになり、「政治生命を懸けてやっていきたい」と言い出したのも異様。TPPと併せて「6月をめどに方向性を出したい」と踏み込んだが、党内根回しの形跡なし。
期限を区切った「政治生命発言」には、みんながビックリしていたし、仙谷官房長官までが「(首相の発言は)責任に直結しない」と火消しに躍起になったほどだ。

もちろん、野党もドッチラケで、唐突な消費税、TPP発言は野党協力のエサにもなっていなかった。
騒いでいるのは首相ひとりなのである。
これじゃあ、周囲はドン引きだ。身内の西岡参院議長が月刊誌で「菅・仙谷には国を任せられない」と題した手記を書いたが、誰だって、そう思う。菅は「マトモ」じゃないのである。


◆誰がドロ舟のジリ貧内閣に協力するものか

そんな首相が、苦し紛れで内閣改造に踏み切ったところで、誰が協力するものか。沈没寸前の泥舟には、マトモな政治家は乗らないだろう。
案の定、菅の改造構想は人事をめぐって大迷走を繰り広げている。参院で問責可決された仙谷は代えるとしても、下馬評で出てくる後任の名前は、枝野幹事長代理や北沢防衛相、菅グループの江田五月前参院議長といった面々で、どれも力不足だ。

だから、仙谷留任説まで流れている。ブラックジョークだ。読売新聞は、首相とたびたび会談している枝野が仙谷の続投を求めていると書いていた。「『泥舟』を嫌っているからではないか」といった臆測が飛び交う、という解説付きだ。
国会運営でヘマの連続の鉢呂国対委員長も交代確実といわれているが、後任には、あの渡部恒三党最高顧問の名前が浮上している。江田といい、渡部といい、立法府の議長、副議長経験者だ。一丁上がりの政治家である。そんなのが、改造人事の目玉になっている。いかに菅の周辺に人材がいないかの裏返しだ。政治評論家の有馬晴海氏が言う。
「こうなった最大の理由は、小沢切りで党内の半分を敵に回しているからです。鳩山政権時代は小沢幹事長が菅、仙谷、岡田、前原氏ら反小沢グループにも閣僚ポストを与え、挙党態勢でやった。しかし、菅首相は小沢グループの排除だけでなく、自分が使いやすい人間にしかポストを与えようとしない。おまけに、自民党顔負けの古くさい論理で、江田氏や北沢氏など参議院議員を官房長官に抜擢することに逡巡しているとも聞きます。これでは、ますます人材がいなくなりますよ」
どうにもならない首相だ。


◆ねじれ国会なのに、月末まで国会を開かない異常
改造人事がまとまらなければ、国会日程も組めない。通常であれば、とっくに国会が開かれているはずだが、官房長官の交代があるので、召集日さえ決まらないのだ。この調子だと、早くて国会召集は28日。恐るべき怠慢と言うしかない。

それでなくても、ねじれ国会で審議日程は苦しい。菅政権が提出を予定している法案64本のうち、予算関連法案は26本もある。野党がちょっとでも審議拒否をしようものなら、たちまち年度内成立は赤信号だ。法大教授の五十嵐仁氏(政治学)が言う。
「さすがに2011年度予算案は通るでしょうが、問題は衆院の優越規定がない予算関連法案です。ねじれ国会の中、子ども手当法案など重要な予算関連法案が野党に否決され、執行できない恐れもある。こうなると、菅政権は立ち往生ですよ。成長戦略を声高に叫び、TPPへの参加を呼びかけても、予算が執行できなければ話にならない。庶民の関心は景気や雇用ですから支持率はジリ貧になる一方でしょう。無定見の菅政権は社民党に声をかけたり、公明党に色気を使って、結局はみんなにソデにされてしまった。いくら内閣改造をしたところで、国会運営の難航は必至です」

仙谷を外せば内閣の要を失うし、小沢を敵に回せば、党内がグラグラになる。

すでに菅政権は誰が見ても死に体だ。本人は起死回生のつもりで改造をやるのかもしれないが、権力亡者の最後の悪あがきにしかならないのが見えている。





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