菅政権は限りなく自公のいいなりになる (日刊ゲンダイ2011/1/12)

◆彼は一体何をやりたいのか

民主党の岡田幹事長が9日、驚くようなセリフを口にした。通常国会で審議する来年度予算案について、いきなり「(修正は)やぶさかではない」と言いだしたのである。与党の幹事長が国会が始まる前から予算の修正をにおわせるなんて、前代未聞だ。予算案といえば、その政権の“レゾンデートル”そのものだからだ。
与党の政策の集大成が予算案であり、これが権力を維持する“武器”になる。もちろん、国民に対しても、最大のアピールになるのが予算案だ。
それを審議する前から「修正」を示唆する。野党に媚びて、擦り寄る。どういう神経なのか、とビックリしちゃうが、この政権ならば、さもありなんだ。
「ねじれ国会だから」という事情だけでなく、そもそも、菅政権は予算案にこだわった形跡がないのである。ある民主党の政務三役が驚いていた。
「年末の予算編成は、与党の最大の見せ場だ。大臣折衝を通して、国民や業界、支援者に与党の実績をアピールできる。ところが、民主党政権はアピールどころの話ではなかった。臨時国会終了後は小沢元代表の政倫審問題で政争に明け暮れ、予算案は話題にもならなかった。これじゃあ、何のための与党なのか分からない」
その程度の予算案だから、軽々に「修正発言」が出てくるのである。


◆裏切りの亡国予算すら修正するのか

実際、今度の予算の目玉は財務省が化粧した2・1兆円の「元気な日本復活特別枠」だけ。菅政権は「日本が20年間、閉塞感に覆われている状態を突破する」とか意気込んでいたが、その中身たるや、在日米軍のための思いやり予算が紛れ込むなど、国民を愚弄するものだ。野村金融経済研究所の木内登英・経済調査部長は毎日新聞で「特別枠は既存事業の看板掛け替えが多く、経済効果は疑わしい」とバッサリだった。
マニフェストの裏切りもひどいものだ。本来であれば、11年度にはマニフェスト実行に12・6兆円の予算が必要だったのに、手当てはたった3・6兆円。
子ども手当は満額支給どころか、児童手当の廃止で負担増になった3歳未満の子どもの家庭に月7000円の上積みがあっただけだ。


高速道路無料化なんて、たった1200億円しか予算措置がなく、事実上の公約撤回が鮮明になった。
霞が関の役人は小躍りし、国民はガックリだったが、そんな予算案をさらに骨抜きにし、修正したらどうなるのか。どの政党の予算案なのか分からなくなってしまう。それでも岡田は「いい」と言うのだ。
与党の矜(きよう)持(じ)もクソもないではないか。


◆言論封じに狂奔する菅執行部の恐ろしさ

そんな菅政権の頭にあるのは、いかにして党内の不満を抑え込むかだけだ。
民主党はきょう(12日)、両院議員総会を開く。あす(13日)は党大会。この日程には裏がある。小沢グループが騒ぎ、開催を求めていた両院議員総会を党大会の前日に設定したところがミソだ。
「官邸サイドは党内不満のガス抜きに頭を悩ませていた。それで、党大会の前日に両院議員総会を開いて、言いたいことを言わせてしまおうと、こういう日程になったのです。党大会は13日の午後2時からですが、その日の午前中には各県の選対責任者や財務責任者の会議が開かれる。前日と午前中に言いたいことを全部言わせて、みんなが疲れたところで、午後の党大会が始まるというスケジュールです。こうすれば、“菅辞めろ”みたいな過激な意見を封じ込められる。何とか乗り切れると踏んだのでしょう」(政治ジャーナリスト・野上忠興氏)

姑息な執行部だ。何が「開かれた政党なのか」と言いたくなるが、ある民主党議員はこう言っていた。
「左翼は時にエスカレートする。粛清とか言い出し、多種多様な意見を認めない。今の民主党執行部はまさにこれです」

誰がこんな日程を組んだのかは知らないが、この政権、執行部が、内外からの批判の声に聞く耳を持とうとせず、排除、切り捨ての論理でしか対応しようとしないのは紛れもない事実だ。この“体質”が怖くなる。

つまり、「マニフェストを軽視し、小沢切りにだけ血道を上げる執行部はおかしい」という当たり前の理屈が通じない。

小沢に離党勧告を突きつけるために、常任幹事会のメンバー差し替えまで検討しているというから恐ろしくなる。
そうまでして政権にしがみつきたいのか、菅は。市民派が聞いて呆れる権力亡者ぶりなのである。

◆党内の不満を封じ込め、小泉回帰路線へ
こうやって、党内を抑え込んだ菅は、その後、マニフェストも何もかなぐり捨てて、自公に擦り寄っていくのだろう。すべてが自分の政権維持のためだ。その結果、この国はどういう方向に進んでいくのか。
慶大教授の金子勝氏は本紙のコラムでこう書いていた。
〈民主党政権は自公政権時代の政策にどんどん逆戻りしている。外交・安保は東アジア共同体から「日米同盟」重視へ。普天間基地は国外、県外移設でなく辺野古案へ。中国、韓国やアジアが参加しないTPPを推進し、雇用対策もなく、財源もないままに法人減税を決めている。米国、財界、官僚など強者の言うがままになっている菅首相は、本当に市民運動出身の市民派の代表なのだろうか〉

菅政権がやろうとしていることは、あれだけ格差を拡大させて、日本をメチャクチャにした小泉構造改革路線への回帰にしか見えないのだ。経済アナリストの菊池英博氏もこう言う。
「小泉政権は2000年から2008年の間に地方交付税など60兆円を削って、地方経済をメタメタにし、デフレを加速化させた。就任早々、小泉政権を上回る財政再建計画を閣議決定し、財政を絞り、そのうえ消費税増税まで踏み込もうとし、しかし、法人減税だけは約束している菅政権は、まさに小泉政権と瓜二つです。恐ろしいのは、それでも小泉政権には輸出拡大というメリットがあったが、円高が加速している菅政権にはそれもないこと。日本がTPPに参加し、日本経済がメタメタになれば、米国は喜んで植民地化してしまう。菅首相だって、それくらい分かっているだろうが、自分の政権維持のために米国の言いなりになっている。とんでもない売国奴政権というべきです」

これが菅の実態なのである。「国民の生活が第一」という小沢一派が排除されれば、本当に大企業と米国のために純化された政権になる。そんな亡国内閣が自公勢力とタッグを組み、生き延びるなんて、考えただけでも怖くなる。最低最悪のスッカラ菅首相は、一刻も早く葬り去るしかないのである。