財界 米国官僚による菅政治への重大疑問 (日刊ゲンダイ2011/1/13)

◆政権交代は1年余で夢と消えた

きのう(12日)の民主党両院議員総会で、耳を疑う発言が飛び出した。菅首相が冒頭、「民主党中心の政権でやってきたことは大きく見て間違っていなかった」「就任から7カ月、やるべきことはしっかりやってきた」と自画自賛したのだ。
いったい、この男のアタマの中はどうなっているのか。
本気でそう思っているのなら、史上まれに見る軽薄な政治家である。
菅はインターネットの生番組で、これからについて「徹底的にやってみようと思う」と宣言した。語るに落ちるとはこのことだ。自分が何もやっていなかったことを、あっさりと白状したのである。
ところが、この日は一転して「国民に伝える努力が必要だ」「伝え切れていなかった」と実績のアピールを始めた。これが何ともショボかった。うれしそうに持ち出したのは、「待機児童ゼロ作戦」と「地方への一括交付金を5000億円に増やした」の2つだけ。それはそれで重要な課題だが、聞く方が恥ずかしくなるぐらいスケールが小さい。一国のリーダーが大威張りで胸を張れるような成果じゃないだろう。
政治評論家の浅川博忠氏が言う。

「菅首相は仕事らしい仕事をやっていません。臨時国会での法案成立率は4割を切り、これまでの政権の半分以下の水準に落ち込みました。参院選後の国会で『12月までにまとめる』と表明した衆院80、参院40の定数削減も、まったく動きがありません。年が明けて、自ら設定した期限は過ぎているというのに、最近は定数削減の“て”の字も言わなくなりました。小沢問題は岡田幹事長、尖閣問題は仙谷官房長官に丸投げ。こんな“逃げ菅”は支持されなくて当然です」


◆右旋回を続ける菅は、いずれ国民に向けて発砲する

国民が夢見た政権交代は、日本を根底から変える起爆剤となることだった。
明治以来の統治システムを破壊して、官僚による官僚のための政治に終止符を打つ。これは本当の民主主義を実現するための第一歩だ。そのために、しがらみがない民主党に政権を任せようとなったのだ。
ところが、菅政権は歴史的使命を放棄した。やるべき仕事を投げ出して、知らんぷりを決め込んだ。信じられない裏切り行為である。
経企庁長官を務めたこともある田中秀征元衆院議員は、ダイヤモンド・オンラインのコラムで興味深いことを書いていた。
〈私は菅首相を見ていると、第二次大戦直前のフランスのダラディエ首相を思い出す〉〈ダラディエは、左翼政党から登場し、大臣、首相となるにつれて右旋回を続けた。そしてついには労働運動を弾圧したり、国民に向かって発砲するに至った〉
この見立てが当たっていれば、いずれ菅は国民に銃を向ける。批判する勢力の弾圧に乗り出し、政権維持を目指すだろう。なにしろ、「代表選が終わればノーサイド」と言っておきながら、小沢元代表を徹底的に干して、さらし者にするような男である。寝返りや背信は朝飯前だ。


◆クリントンと会談した回数を自慢するミーハー外相

田中秀征氏は、根拠もなく菅とダラディエをダブらせたわけではない。かつての菅は、(1)自民党(2)財界(3)官僚組織(4)米国の4つが敵だった。〈ところが、政権交代後、この4つになりふり構わず接近している〉と評している。そこが、変節漢のダラディエと似ているというのだ。

実際に菅は「4つの敵」にすり寄り、延命を図っている。
政敵だった自民党との大連立を探り、市民運動家にとって批判の対象であったはずの大企業には法人税減税の大盤振る舞い。「成績が良かっただけの大バカ」とののしった霞が関の人件費削減には手つかずで、天下りの全廃もウヤムヤだ。鳩山前首相が掲げた「東アジア共同体」構想も引っ込め、米国一辺倒の外交を復活させている。前原外相が「就任4カ月でクリントン長官と4回会った」と自慢するぐらいだから、対等な関係は望むべくもない。米国に相手にされて舞い上がる外務大臣に、いったい、国民は何を期待すればいいのか。
「6月がメド」と言っているTPP参加問題も、国民不在で進められている。われわれの暮らしを豊かにする政策でないのは明らかだ。

「財界と米国に取り入るためにやっているのがミエミエです。ビジネスチャンスが広がる財界は大歓迎だし、普天間基地の問題が進展しない中、農産物を中心に輸出を増やしたい米国にも媚(こび)を売れます。しかし、財界も米国も、これほど人気がない内閣を本気で支えるとは思えません」(浅川博忠氏=前出)
それでも、財界と米国にしっぽを振り、政権を維持しようとする。これが菅政権の正体だ。「平成の開国」だとか「奇兵隊」だとか、古めかしい100年以上前のスローガンを掲げて実態を糊塗しているが、中身は旧自公政権と同じだ。国民の窮状から目をそらし、強いモノにひれ伏す「反国民政治」なのである。


◆内閣改造ぐらいでは政権を立て直せない

最近の菅は、若手議員に「10年は首相をやりたい」とうそぶいているという。こんな政治が10年も続けば、日本は終わりだ。国民は自民党ではダメだと政権交代を勝ち取った。ところが、フタを開けてみれば、自民党のデタラメを受け継いだ政治が展開されている。こんなバカなことが許されるわけがない。


財界と官僚と米国が権力を動かし、国民の暮らしはズタズタになる。官僚が税金を食い物にする構図は温存され、ムダの削減は進まず、庶民は消費税増税で苦しめられる。こんな国に、どんな未来があるのか。

政治評論家の山口朝雄氏が言う。
「菅首相は、適当に流していれば政権を維持できると軽く考えているのかもしれませんが、冗談ではありません。自民党のやり方を踏襲し、独自性を発揮しようとしない政治は必要ありません。内閣改造で目先を変えても、政権の立て直しは不可能です。首相が代わらない限り、何も変わりません。民主党に求められているのは、菅首相を降ろした上で、『国民の生活が第一』の原点に立ち返ることです」

きょうの民主党大会は、新たなスタートを切るチャンスだ。権力亡者を引きずり降ろし、根本から出直してもらいたい。