与謝野政権入りで「官僚主導」「増税路線」がはっきりした菅直人内閣

改革派VS官僚派で政界再編へ


長谷川幸洋「ニュースの深層」
(現代ビジネス2011年01月14日)http://p.tl/rLcI


菅直人首相が内閣改造に踏み切る。報道によると、仙谷由人官房長官を更迭し、枝野幸男民主党幹事長代理を後任に起用する方向のようだ。

こんな話は昨年末から、さんざん報じられていたので、読者も辟易しているだろう。仙谷が枝野に交代したところで代わり映えもせず、正直言って、私自身もほとんど興味がない。せいぜい仙谷のリモートコントロールが続くくらいな話である。

野党は昨年から仙谷を代えなければ国会審議に応じない、と繰り返し強調していたのだから、仙谷更迭はいずれ不可避だった。だったら、さっさと決断すればいいものを、年明けの1月半ばまで引き延ばして時間を浪費した。

小沢一郎元民主党代表の政治倫理審査会出席問題も同じである。

12日の党両院議員総会でも小沢問題が焦点の一つになったが、先週のコラムで書いたように、小沢が政倫審に出席したところで政治とカネ問題に大きな進展があるわけではない。小沢の強制起訴は決まっているのだから、法廷での審理に任せればいい話である。

内閣改造といい小沢問題といい、菅の優柔不断、決断力のなさが目立つだけだった。

そんな中で注目したのは、たちあがれ日本の与謝野馨共同代表を重要閣僚か首相補佐官に起用するという話である。これにはあきれる半面、逆説的に、実は「いいことだ」と思った。なぜか。

菅政権が「官僚主導の増税を目指す政権」であることが、いよいよはっきりしたからだ。政権の本質的性格が国民にあきらかになるのは、目先は増税路線でマイナスであっても、中期的にはプラスである。

国民は政権の本質を見極めたうえで、いずれ選挙で政権に審判を下すことができるようになるからだ。

 日本の閉塞状況が長く続いてきた根本的要因の一つは、政策を軸にした政党および政治家の対立軸があいまいだった点にある。それぞれの政党や政治家が選挙のときに、もっともらしいことを語っていても、いざとなると、言ったとおりの政策を断行しない。本音と建前が違いすぎるのである。

増税を唱えるなら増税を、改革を唱えるなら改革を。政治家がそれぞれの政策を明確にして、国民が政策中心に政党を選べるようにならないと、いつまで経っても、政治の軸が定まらず混乱するばかりだ。

そういう意味で、与謝野や菅が「私たちは増税路線で行く」とはっきり示してくれるのは、いいことであると思う。その政策を見て、選ぶのは国民である。

時計の針は進んでいる。皮肉も込めて、あえて評価したい。


■手のひらを180度返した与謝野

 与謝野という政治家の正体もはっきりした。

与謝野は2010年1月に『民主党が日本経済を破壊する』(文春親書)という本を出版し、民主党政権を強く批判してきた。同年4月7日付けの朝日新聞のインタビューでは、たち日を結成し参加した理由について「参議院で野党が過半数をもち、批判勢力として機能しなければ、健全な民主主義にならないと考えたのです」と語っている。

それが180度、手のひらを返して菅政権に加わるとは、いったいどうなっているのか。与謝野とすれば、180度政策を変えたのは民主党の菅政権のほうだから、一貫して増税を唱えてきた自分が協力するのはおかしくない、ということなのだろうか。

だが、そんな政策論議の前に、そもそも与謝野は小選挙区(東京1区)で落選し、自民党の比例代表候補として復活当選した政治家である。本来であれば、自民党を離党し、たち日を結成した時点で議員バッジを返上しなければならない。

それが今度は、たち日を離党して民主党政権に加わるという。自民党に投票した有権者からみれば「二重の裏切り」である。国民の代理人たる政治家として、正統性に欠けた許されざる行為と言わざるをえない。

そんな与謝野を政権に迎える菅の政治感覚もどうかしている。

「脱官僚」を一枚看板にして09年総選挙に勝利したのに、いまや脱官僚がすっかり影を潜めたと思ったら、よりによって永田町でもっとも財務省寄りの与謝野に声をかけた。

もはや狙いははっきりしている。菅は「与謝野と財務省の増税路線で突っ走る」と腹を決めた。そういうことである。

 ふりかえれば、この4月で小泉純一郎政権が誕生した01年4月から、ちょうど10年になる。この10年をひと言で総括すれば、改革を目指す勢力と抵抗する霞が関との戦いだった。その間、消費税引き上げ問題は水面下に潜ったり浮上したりしたが、ずっと対立の中心軸であり続けた。

公務員制度を含めて霞が関改革が先か、増税が先かをめぐって、自民党内で抗争が激化し、改革志向の渡辺喜美は離党して、みんなの党を結成した。増税志向の与謝野も党内に居場所がなくなって、たち日に加わった。

その与謝野が今度は支持率急落に直面している菅内閣に加わる。


■政治家と役所をリストラするのが当然

 両院議員総会では増税路線に批判が出たが、与謝野の政権参加で民主党内は「改革か増税か」の路線対立が一段と激化するに違いない。

ひと足先に分裂プロセスが始まった自民党に続いて、民主党も分裂は必至である。永田町の激動は、いよいよ佳境に入ってきた。

菅政権は国家公務員総人件費の2割削減公約が達成困難になったとして、14年度以降に先送りする構えだ。霞が関とすれば、それまでに総選挙があるので、もはや公約は撤回させたも同然である。衆議院の定数80削減も、参議院の定数20削減も風前の灯火だ。

主権者である国民にとって、国会議員は代理人であり、官僚は国民の代理人が作る法律に基づいて行政を執行する使用者にすぎない。政府が赤字ならば、真っ先に代理人の数を減らし、役所と官僚をリストラするのが、しごく当然の手順である。

そんな単純明快な原理も分からず、国会での数合わせに夢中になって、財務省の言うがままに増税を目指すような政権は国民に見放され、やがて自壊するほかない。

 (文中敬称略)