子ども手当廃止 大増税 反国民政治が始まる (日刊ゲンダイ2011/1/18)

◆国民の半分に以上が不支持 菅改造内閣

さすがに、スッカラ菅首相も慌てているのではないか。「最強の体制をつくる」と大見えを切って内閣改造に踏み切ったはいいが、支持率はほとんどアップしなかったからだ。朝日の調査では5ポイント増の26%、毎日も5ポイント増の29%、日経も5ポイント増の31%、読売は9ポイント増の34%だった。逆に不支持率は軒並み5割前後。「今後、実績をあげられるとは思わない」が70%に達している。

これほど評価されない内閣改造は戦後初めてじゃないか。さすがに首相も落胆の表情がありあり。「やるべきことをやる。それにすべてがかかっている」とコメントするのが精いっぱいだった。
「菅首相は内閣改造を実施することで支持率を40%前後に引き上げ、その余勢を駆って通常国会になだれ込むつもりだったはずです。昨年9月に『脱小沢』の内閣改造を断行して、支持率を『V字回復』させていますからね。夢よ、もう一度という気持ちだったに違いない。ところが『小沢切り』をしたのに、ご祝儀程度にしかアップしなかった。しかも、改造人事の目玉だった与謝野馨の起用に対して『評価しない』が、『評価する』を大きく上回っている。首相は大誤算でしょう」(政治評論家・山口朝雄氏)

しかし、使い古された70歳前後の老人ばかり入閣させる「廃材内閣」では、支持率が上がるはずがない。ちょっと考えれば分かりそうなものなのに、首相は最低でも10ポイントはアップするはずと期待していたというのだから、ホント、世論が分かっていない男だ。


◆政権維持のために「予算」を犠牲に

不人気の菅内閣にとって、内閣改造は政権浮揚の最後の「切り札」だっただけに、切り札が不発に終わったいま、もう菅内閣に上がり目はない。このまま弱体化していくのは間違いない。

1月24日から始まる通常国会は大荒れ必至だ。早くも野党は、イケイケドンドン。自民党の谷垣総裁までが「菅内閣が続くことは国益を損なう。解散・総選挙に追い込む」と勢いづいている。
「最大のヤマ場は、予算成立の攻防が激しくなる3月です。予算そのものは民主党が衆院で多数を握っているので自然成立するが、予算関連法案は野党が多数を占める参院が賛成しない限り成立しない。恐らく、自民党は『菅内閣の予算案には賛成できない』『予算案を大幅に修正しろ』『子ども手当も撤回しろ』とムリを承知で次々に注文をつけてくるはず。これまで予算案が大幅に修正されたことは一度もない。予算は内閣のレゾンデートルそのものだからです。普通は『だったら解散だ』と打って出るか、予算成立と引き換えに首相がクビを差し出し、総辞職するかのどちらかです。しかし、菅首相は権力にしがみつくために、解散も総辞職もせず、自民党と妥協し、要求を丸のみしかねない。予算を大幅修正し、自民党の主張を受け入れたら、一体なんのために政権交代したのか、まったく意味がなくなってしまいます」(政治評論家・本澤二郎氏)
政権延命のために、予算を犠牲にするという前代未聞の事態が起きかねないのである。


◆「国民生活が第一」から「反国民」に

最悪なのは、政権維持のために自民党と妥協した菅首相が、そのまま一気に民主党の「マニフェスト」を捨て去り、「反国民」の政治を強行する恐れがあることだ。

すでに、その予兆が表れている。「マニフェスト」の見直しを公言し、民主党のポスターからも「国民生活が第一」というキャッチフレーズを削除してしまった。さらに、「消費税の大増税」まで言いはじめている。民主党の中堅議員がこう言う。
「鳩山首相が退陣に追い込まれたのを目の前で見ていた菅首相は、政権を維持するためには『脱官僚だ』『日米対等だ』『国民生活が第一だ』などと理想論を言っていてはダメだ。やはり『官僚』『米国』『大企業』を味方にするしかないと痛感したらしい。その表れが、法人税減税であり、普天間基地の辺野古移転であり、財務官僚が待望する消費税の増税です。TPP参加も米国と経団連が切望している。こうした考え方は、自民党の主張と完全に一致します。政権が維持できるなら、民主党のマニフェストなど簡単に見直してしまうのではないか」

そもそも、民主党のマニフェストを「ほとんど空想、だまし絵の世界」「選挙用の毛ばりのようなもの」とまでバカにしていた与謝野馨を経済政策の責任者に就けるというのは、どう考えてもおかしな話だ。
菅首相は民主党の「マニフェスト」を、まったく違うモノに変えるつもりだ。


◆マニフェストを実現できないなら下野せよ!

しかし、政権交代してから、まだ1年半しか経っていないのに、「マニフェスト」を変更するなんて許されるのか。
小沢一郎がテレビで「マニフェストを変えてしまうというのなら、国民にもう一度信を問うような大きな問題だ」と批判した通り、変更するなら、選挙で国民に信を問うのが当たり前だ。「有権者は『国民生活が第一』という民主党の理念や、『子ども手当』『高速道路の無料化』といったマニフェストに共感し、09年総選挙で民主党政権を誕生させたのです。マニフェストは国民との約束だったはず。なのに勝手に『変更します』なんて冗談ではない。公約を破ってもいいとなったら、国民はなにを信じて投票すればいいのか。政権を取った後、マニフェストと違うことをやってもいいとなったら、政党政治は成り立たない。もし、民主党がマニフェストを実現できないというなら、『力不足でした』と国民に謝罪し、潔く下野するのが当たり前のこと。下野するのが嫌なら、新しいマニフェストを掲げて解散するしかない。菅首相のように、下野もしない、選挙もしない、政権に就いたままマニフェストを変更するなんて絶対に許されませんよ」(政治ジャーナリスト・鈴木哲夫氏)

財界と米国のためにTPP参加を推し進める首相は「平成の開国だ」と明治の志士気取りだが、チャンチャラおかしい。なにかと言えば「奇兵隊内閣だ」などと明治維新を持ち出しているが、発想が100年以上遅れている。世界中で、日本ほど開国している国がどこにあるのか。

マニフェストに書いてあることはやらず、マニフェストに書いてないことばかりやろうとしている菅首相は、もはや民主党の首相ではない。





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