●原口一博×郷原信郎 菅政権を語る 最終回「いまこそ原点に返り、古い衣を脱ぎ捨てよう」

(現代ビジネス2011年01月19日) http://p.tl/2xH_

郷原: 指揮権発動の話に戻しますと、14条の法務大臣の権限の問題になる事項が、一つが外交問題、一つは検察の組織的な不祥事なんですね。その検察の不祥事がまさにあの大阪地検を巡る問題なんですけども。

 検察の在り方検討会議の第3回が昨年12月24日に開かれて、そこで最高検の検証結果が公表された。あまり時間がなかったんですけども、質問の時間があったものですから、最高検側に質問したんです、「この検証結果とはどういう性格のものですか」と。

 いままでも無罪判決が出たりしたときには、検察が部内で実務的に、こういう問題を起こさないようにする再発防止策を検討する、そのための調査をするということはあった。今回もそういう検察の部内で基本的に使うというものなのか、それとも検察が客観的な視点から問題を明らかにし原因を分析して、再発防止策を社会に対して明らかにしていくという性格のものなのか。

 後者だとすると、法務大臣が一般的な指揮監督権を持っている。法務大臣の権限を背景としたものになるんではないですか、と聞いたんです。

 そこではっきり最高検の刑事部長が答えたんです。当初は検察の内部的な調査ということで始めたことだったんだけども、後から法務大臣の指導を受けるようになったと。法務大臣が第三者のアドバイザーを入れなさいと、あれは柳田法務大臣の指示であったと。検証チームの立ち上げのときには、法務大臣が直接来て訓辞をされた。そういったことから考えて、法務大臣の指導、指示によって行われているという側面があると言われた。

 私はそこの面に関しては、柳田法務大臣はその14条の権限を背景にして、しっかり仕事をされたんだなと改めて認識したんですね。

原口: そこ大事ですね。消えた年金の問題の検証委員会、これも郷原先生にお願いして、結局、あの時に民主党は徹底的に消えた年金で追求して、私もネクスト総務大臣でしたからやりました。

 ただ、そこで抜けていた、先生と確認した視点が一つあって、それは個々の社会保険庁の職員を分限免職したり、あるいは個々の人たちを責めるだけではなんにも生まれてこない。

 むしろさっきのマーケット・アビューズと同じで構造ですね。

 年金がもともと企業年金で、多くの人たちが小さな手続きでやれていたものを、国民全体に広げたときになにが起きたのか。社保の出先は東京都内に30しかない。

 その中で、あの時先生の出された報告書は衝撃的なんですが、企業が1円も年金を払わずとも、そこに年金が行く仕組みがあるんだと。

郷原: そうです。厚生年金というのは、保険料の支払いと将来貰える年金額とは切断されています。要するに、企業の側の滞納金額が膨らんでいくだけで貰える年金額は変わらないんですね。ですから個人事業主なんか、会社が潰れて膨大な金額を滞納していても将来しっかり貰えてしまう。そこが消された年金の問題の根本なんです。

 ところが世の中は明らかに誤解をしていて、社保庁の職員が自分たちの成績を上げたいためにインチキをした、社保庁の職員が一方的に悪い事案だと、個人が悪い事案だと考えてしまったんですね。

原口: 勘違いしたんですね。そこは年金の部門会議でやりましたけども、当時の厚生ネクストが長妻さんで、蓮舫さんが副でしたか。

 1980年代の終わりに年金が変わったときにやっておかなくてはいけない政治的なツケが現場に回っているんだと。その回っているツケを変えるためには、いまの徴収制度そのものも、あるいはいままでの年金でなにが起きたかということを俯瞰的に見て、そして外に出さなきゃいけないと。これをやったわけですけど。まだそこは不完全で、さっきの虫とカビで言うと、虫だけ捕まえて元の素地は変わっていない。

■「まだその程度の認識しかないのか」


郷原: まさに今回の最高検の検証は似てますね、そういう意味では。虫と言っても、社保庁の職員のような小さな虫ではなく、大きな虫ですけれども。

 それにしても、あの検証結果が基本的にどういうトーンかと言うと、まず、改竄などというとんでもないことをやっていた前田元検事が悪い。そして前田元検事がなぜそんな悪いことをやったかと言ったら上司の大坪前部長が悪い。

 これはとんでもない男で、特捜部長にあるまじきイケイケドンドンばかり言っていて、消極的な話は聞きたくないと、叱り付けるようなことをやっていた。

 だから前田元検事が上司に対して消極的なことが言えず、結局改竄にまで走ってしまったと。大坪特捜部が悪かったんであって、その前の大阪特捜部は悪くなかったし、ましてや東京や名古屋の特捜は問題ない。ただ、第二の大坪という虫が出てこないように予防措置は執っておかないといけないと。こんな話なんですよ。

 こんな話なのか。こんな話として、世の中に対して検察が今回の問題を説明するというのは、私は大変な問題だと思うんですね。まだその程度の認識しかないのかと。金曜日は私が口火を切ってガンガン批判しましたし、他の委員からも相当厳しい批判が出て、新聞でもそこはずいぶん出てましたね。

 口火を切った私と江川(紹子)さんの二人を、強い意志で検討会議に入れたのは柳田前大臣なんですね。そういう意味では、いろんな評価はありますけども、非常に重要なところで法務大臣としての仕事をされたなと思っているんですね。

■唯我独尊の検察

原口: それは本当に大事なところです。今回、虫だけ捕まえて、その人たちの悪い像をどんどんどんどん流すっていうのは形を変えた組織防衛です。形を変えた構造そのものの温存になってしまうわけですね。

郷原: おそらくそういうことを繰り返していたら、検察の国民からの信頼は回復しないですね。いまもう相当深刻なところまで来ていると思う、検察に対する国民の不振は。それはやはり閉じた組織ですから、内向きな組織で内部だけで全部判断が完結してしまう組織ですから、なかなか気付かないんですよ。

原口: 私たちも行政としては対応しました。法務省全体も、いろんなことをやってみた。するとわかったのは、閉じているところの弱さですね。閉じているところが逆に自分たちの足下を弱くしているんだ、ということに気付いた人たちは多くいるような気がしますけどね。

 大臣時代の守秘義務が掛かっているんで全部は言えませんけども、例の公務員の採用を変えようっていう話を、仙谷さん、当時の枝野さん、私と平野さんでやったんです。辛いところは2割、出先については2割しか採らない、残りの8割は採らないということを閣議で議論して、閣僚懇で議論してやってきたわけです。それに対する法務省の対応は非常に前近代的なものでした。あなた方の決定は不当であるという文書が並んでいるわけです。内閣で決めたことを不当であると言うのは、すごい組織だなと(笑)。

郷原: 統帥権ですね。例の法科大学院の研究会を開きましたね、行政評価局で法科大学院の調査をするということで。あの時に、法務副大臣が総務副大臣に抗議の文書を送ってきて、たまげましたけども。

原口: それも政治家が出してんだったらいいけども、役人さんが書いて、不当であるって・・・。

郷原: それを、一応副大臣の名前にしてるだけで、これは法務省の考え方が完全に背景にあるんです。自分たちは文科省と法務省でワーキンググループを作って近々その結果を公表するんだから余計なことをやるなと、やる必要ないと、こういう判断ですよ。自分たちがやるからいいんだと。この発想なんですよ。

原口: 唯我独尊、統帥権っていうのはものすごく恐ろしいですよ。

郷原: じゃ、実際にどんなものだったのか、研究会で呼んだんですよ、法務省と文科省の課長を。全然ダメです。いままでのダメだった法科大学院とダメだった新司法試験の個別の問題を、ああでもないこうでもないと並べただけで、全然全体的な制度の検討になっていないんです。

 そこは新たにどこかの場にフォーラムを作って、根本的な検討をするってことになっていた。でも、なにもまだ立ち上がっていないです。話もどこかに行っちゃってます。それでこの間、総務省の研究会の報告書を公表したんです、12月21日でしたか。

原口: ああ、そうですか。いま総務省の名前が出ましたけど、横軸の行政評価とか、やっぱり評価をされている組織はそれなりのコンプライアンスっていうか、説明責任をずっと果たすわけですね。そして自らも外からの目が入ることによって鍛えられる。これが大事ですね。

郷原: そういう発想が唯我独尊の検察には全然なかったんです、法務検察に。

 確かに伝統的な一般的な犯罪の部分、ここは行政評価に馴染まないと思いますよ。これは法と証拠に基づいて適正に処理しているだけですから。しかし例えば特別法とか、例えば総務省でも行政評価局で、貸し切りバスの違法行為に対する対応の行政評価をやりましたね。

 ああいう特別法の執行力を高めていくために、それでは検察のリソースが罰則を適切に適用するために効率的、合理的に資源配分されているのかという問題、これはまさに行政評価そのものだと思うんですね。そういうことと無縁の世界だと思っているんです。

■事業仕分けの何が問題なのか

原口: それに似たものが例の仕分けで、仕分けって一番下位にあるものなんですね、費用対効果を検証するものって。その上には、それをあなたのところでやるのがいいんですか、例えば出先機関でやるのがいいのか、中央省庁でやるのか、NPOか企業かっていう権限仕分けがあるわけです。

 その上にパートナーとの約束があり、政策の仕分けがあり、そして理念の仕分けがあるわけです。ところがいまなにが起きているかって言うと、一番最下層の一番基礎的な材料だけ見るところが、全部仕分けているわけです。

 この間、フューチャースクールを仕分けた人がおられた。総務省が子どもたちの教育をやるのはおかしいと、文科省がやりなさいとなった。それって私たちの内閣の全体で教育に力を入れていこうというのと真反対なんですよ。もし総務省がダメだって言うなら、あなたの大学とやっているこれもやめるっていう話なんです。

 すべての資源を教育に集中して、人間、ヒューマンバリューにしっかりとおカネを注いでいこうと。そのことが肥大化した行政を小さくする。もっと言うと、問題解決型の教育をしている人たちは部分的な正義を振りかざさないんです。

 この間、アメリカに行って、「ドリームフォース2010」というクラウドの・・・、世界4万人が招かれていて60カ国から来ていましたよ。彼らは目が輝いているのはなにかって言うと、そこに行けばチャンスがあるんです。

 そこに行けば自分で考えられる。そこに行けばソリューションがあるんです、自分が常に壁に当たっているもの。

 いまフューチャースクール、光の道ってやってますけども、それはなにもハードを整備しなさい、光ファイバーを整備しなさいっていうことじゃなくて、一人一人の人たちがお互いに繋がることによって、バイICT、情報通信で日本を変えていこうっていうメッセージなんですね。

 そこを是非私たちはもっともっと加速させたいし。

 日本は本当に知的財産大国です、日本の底力。ドリームフォースでびっくりしたのは、議論されているほとんどの技術は日本の技術なんです。例えば松江から出た技術、Rubyっていうのがそこでメインで議論されているわけです。でも日本人は50人くらいしかいないんですよ。で、すごい技術で日本も儲かっていますよ、でもより儲かっているのは、それをちゃんと評価してちゃんと使える人たちなんです。

■費用対効果は合理的なのか

郷原: 確かに仕分けというのは、それまで密室で財務省の主計官と役人だけで決めていたことを、オープンな場で国民に関心を持ってもらうところで議論するという意味では、その方向性は・・・。

原口: 正しいです。

郷原: 正しいと思うんですよ。ところがあまりにそのやり方が短絡的で、この間からどうなるのかと心配しているのが例の「紙コン」の話です。紙台帳とコンピュータ記録の突合業務。

 これはわれわれずっと問題にしてきたんですよ、私が年金業務監視委員会の委員長で。全部を突合するのは本当にその費用対効果で合理的なのか、一部だけしか合理性がないんじゃないか。

 いくら突合したところで、本当に正確なデータと言えないかも知れないし、場合によっては紙台帳のほうが不正確な場合もあるんですね。

 そういった問題をいろいろ議論していたところへ、突然特殊法人の仕分けで取り上げられて、なんとあの紙コン入札が価格が高すぎると、2割カットしろと。相互評価でやっていて、いままでは質のほうを重視していたんです。それを価格中心にしろと。

 いやあ、そんなことをやれという議論が、少なくともわれわれ年金業務監視委員会でこの問題をずっといろんな検討してきたんですが、まったく出てないですよ。まともに検討すればそんなやり方っていう発想が出てくるわけがないんです。もし無理矢理2割、価格中心にして削減したとしたら、ものすごく品質の悪いものになって、多分年金機構の職員がまたチェックしなくちゃいけなくなりますよ。膨大な手間を掛けなくてはいけなくなる・・・。

原口: 余計なコストですね。

郷原: 機構の業務がまた混乱しますね。そういう全体的な発想がまったくないんですね、あの仕分けには。

原口: 仕分けはもともと一番最下層の一部なんですよ。それを認識していないから、よくメディアでも、仕分けられたのに復活するって。当たり前なんです。仕分けたものが全部なくなるんだったら、例えば青年海外協力隊。青年海外協力隊ってものすごく大事な数字に見えない日本の国益を背負ってます。

 あるいはJETプログラム。これは5万人もう自治体の職員さんにいろんな国から来て経験してもらって、日本を愛して日本を好きになってもらおう。これは形には見えないんです。だけども費用対効果がおかしいと。外国人に英語を教えてもらうそんな必要もないって。

 英語の勉強だけに来てんじゃないんですよ、先生で来てんじゃないんです。日本をしっかりと外に発信していくために来ていただいている。今日お話しいただいたように、外をしっかりと守らなくてはいけない。そのためにも部分的な正しさでもって切り刻む、こういう方向を変えたいですね。

古い衣を脱ぎ捨て、政権として責任のある判断を

郷原: 2011年、民主党政権はどうなるでしょうか。

原口: 僕は答えは一つだと思います。改革が実行できる人間は、改革者はたった一つのここを外したらダメだっていう、それは自分と自分のチームが信じられない人間は絶対改革者にならないです。

 私は原点に帰るっていうことが一番大事だと思います。さっきの事業仕分けにしろなんにしろ、今回の税調にしろ、みんな一生懸命頑張ったけども、一部には役人さんが書いたペーパーを呼んでたりしましたね。政権を取るまでの民主党では、その人たちはそこには来なかったし、来ちゃいけなかった。あるいは税調だけを言ってみると、地球環境税だの地域環境税は土壇場でなくなっているわけです。小沢さんが陳情を一元化して族議員をなくそうとしたのは、この辺にあるわけですね。

 だから民主党は原点に帰って、そのためには古い衣は脱ぎ捨てなくてはいけない。自分たちで決めることが出来ない衣、それを一気に刷新したいと思いますね。

郷原: とにかく政権として内閣として責任のある判断をしてもらいたいですね。それがないと方向がどうであれ、話は全然始まらないわけですよ。とにかくそれをこれからの内閣に強く求めたいし、それが出来ないようであれば民主党としても本当に考えてもらいたいですね、政権の在り方も。

原口: 出来たこと、やれたこと、いっぱいあるんですよ。僕は誰が総理大臣になっても、こんなふうに消費される仕組みも変えなきゃいけないと思う。

 だけど、例えば先週の月曜日、あの日は世界が一番緊張した日です。韓国軍が演習をして、北がどうするか分からない。その時にいまの政権は小沢さんと菅さんの1時間半の会談。世界は韓国に対して自制を求めてます。その時に、韓国ガンガンやれと日本からメッセージを送ったら、日本はどういう国だって言われてしまいますね。

 民主党は、世界と渡り合ってきた人間を今回大幅に増やしたんです。僕は、衆議院の4期のとき、3期のとき、民主党の選対委員会の委員もしているんです。本当にすごい人間が入っているのに宝の持ち腐れなんですよ。持ち腐れたまま政権がまた元に戻っていくっていうのは、絶対にイヤですね。それよりも古い衣を脱いで、本当の民主党の姿で勝負したいと思います。言ってるだけじゃダメなんで、本当に行動に起こしたいと思います。

(了)