TPPと消費税で財界にへつらう元左翼首相の人間性 [斎藤貴男「二極化・格差社会の真相」]

(日刊ゲンダイ2011/1/18)

いくら何でもひどすぎる。先週末に発足した菅第2次改造内閣だ。
与謝野馨・元たちあがれ日本共同代表が経済財政相で、はじかれた海江田万里・前経財相が経済産業相に横すべり。野田佳彦・財務相は留任する。露骨なまでのTPP(環太平洋パートナーシップ協定)および消費税増税シフトに他ならない。TPPは関税の全廃を原則とする多国間の自由貿易協定だ。参加すれば日本の農業は壊滅状態に追い込まれるに違いない。

農林水産省の試算によれば、2008年度の国内農業生産額8兆4736億円が半減するという。ただでさえ40%しかない食料自給率(カロリーベース)は、14%にまで落ち込むそうだ。
消費税については嫌というほど書いてきた。この税制の納税義務者は年商1000万円以上の事業者だが、担税者(実際に税金を負担する者)は特に定められていない。個々の取引の都度、力関係で弱い側が被るしかない仕組みなのである。
スーパーとの競争を強いられる小売店や大手の下請けメーカーの商いを想像してみられよ。デフレの世の中で顧客に消費税を転嫁できる方が珍しい。中小零細の事業者はどこも自腹を切って消費税という名の売上税を納めさせられている。

農家や中小零細事業主の殺人にも等しい一方で、TPP参加と消費税増税は、しかし、多国籍企業には多大な利益をもたらす。自由貿易の拡大で儲かる輸出産業は、同時に消費税を下請けに背負わせて泣かせるほど不労所得を得るという、理不尽な制度が存在するからだ。
輸出戻し税という。詳しくは拙著「消費税のカラクリ」(講談社現代新書)を参照されたい。
いずれも複雑で難しいテーマである。いかな犠牲が出ようと、大企業が潤えば、オコボレは下々にも及ぶじゃねえかとの独善に一面の真実が含まれていない保証もない。
とはいえ、こうまであっけらかんと割り切ってしまえる菅政権には、不信の以前に恐怖を覚える。しかも「平成の開国」だの「公平・透明・納得の税制」などと大嘘ばかり。

今週号の週刊現代が「仙谷に菅 キミたちはそれでも左翼か」と題する特集を組んで話題になっているが、私は彼らに「あなた方は何をしたくて政治家になったのか」と問いかけたい。
財界にへつらうだけのタイコモチ政治に同調しまくる全国紙各紙もだが、しょせんこの世はカネ次第と満天下に思い知らせるためか。それで本当によいのか。人間としておしまいではないのか。(隔週火曜掲載)

※日刊ゲンダイはケータイで月315円で読める。
この貴重な媒体を応援しよう!
http://gendai.net/