暗愚で狂者ならどうなるこの国  (日刊ゲンダイ2011/1/19)


◆墓穴を掘った内閣改造

やっぱりだ。菅首相が改造の目玉として起用した与謝野経財相が、早くも火を噴き始めた。
自公両党は「大変な変節漢だ」と吐き捨て、来週からの通常国会で徹底追及することで一致。与謝野への問責決議案や議員辞職勧告はもちろん、菅の任命責任まで問うと息巻いている。改造しても内閣支持率は微増だったから、野党はイケイケだ。

こんな調子だから、首相がマニフェストの修正をエサに呼びかけていた税制改革の与野党協議も、入り口から頓挫が確実である。自民党の石原幹事長に「民主党でコンセンサス(党内合意)がない。どういう案をまとめるのか見てからでしょう」と、オチョクられた揚げ句、与謝野にまで「政府案がなければ協議できないという野党の主張は当を得たものだ」なんて言われる始末。
一体、このテイタラクは何なのか。菅は与謝野に自公とのパイプ役を期待していた。で、仙谷まで切ったのに、結果はその逆。わざわざ野党に攻撃されるために、標的をつくったようなものだ。

ねじれ国会下、自公を切り崩さなければ法案の一本もマトモに通らないのに、かえって相手を硬化させて、火に油を注ぎ、墓穴を掘っている。この首相は本当にどうしようもない。
「昨秋の臨時国会の法案成立率37%は過去10年で最悪でした。仙谷長官らへの問責も抱えていた。それらを一気に打開するために、首相は党外から『4番打者』を連れてきたつもりだったが、まさか再び問責の対象になるとは思ってもいなかったのでしょう。通常国会は子ども手当法案など、重要な予算関連法案が目白押しなのに、またもや冒頭から紛糾する可能性が大です」(政治評論家・有馬晴海氏)


◆消費税で支持率アップをもくろむ異常

それなのに、与謝野を起用した菅は悪びれるどころか、「仕事で判断していただけると思う」なんて、いまだに胸を張っている。自分の大失敗がまるで分かっていないのだ。何を勘違いしているのか。

政治評論家の浅川博忠氏が呆れて言う。
「首相は消費税を増税し、TPPに参加して、小沢元代表を民主党から追い出せば、支持率アップにつながると本気で思い込んでいるようです。与謝野大臣の自民党人脈を使い、場合によっては引き抜きをやることで、衆院で再可決可能な3分の2を得られると計算していたフシもある。しかし、とんでもない見込み違いです。いまや自民党議員のほとんどが与謝野氏を『裏切り者』呼ばわりして怒っているし、首相は党内にも敵を増やしてしまった。消費税増税と社会保障をワンセットにしたことに反対している議員が多い上に、与謝野氏の起用で大臣ポストが減ったからです。情報網の少ない首相のリサーチ不足で、完全なミス人事。この7カ月間、まったく前が見えていない首相でしたが、輪をかけてひどくなっています」
頭は大丈夫なのか? 鈍感にして暗愚――。最大の問題はそこなのだ。


◆“お遍路”の奇行あたりからこの男は的外れの連続

思い返せば、この首相のバカさ加減は、今に始まったことではない。
国会で年金未納問題が吹き荒れた04年には、自民党の麻生太郎、中川昭一、石破茂を激しく非難。「未納3兄弟だ!」と大騒ぎしたはよかったが、その直後に自分の年金未納が発覚する赤っ恥を演じた。すると突然、頭を丸めて白装束に身を包み、四国お遍路なんて始める奇行ぶりだ。このころから「大丈夫か」と言われたものだが、民主党政権になってからも、やることなすこと的外れ。
国家戦略相に就いた当初こそ官僚にケンカを売って話題になったが、官僚抜きの国家戦略室を動かすこともできず、財務相に横滑りするころからは完全に官僚ベッタリ。「高杉晋作」どころか、普天間など面倒な課題からは全部逃げ回っていた。

首相就任後の大事な参院選前には、唐突に消費税増税を言い出して大敗を喫したし、それでも懲りずに「政治生命を懸ける」とか、勝手に「6月期限」を決めて、党内を混乱させるハチャメチャさだ。
ヒステリックな小沢排除劇にしても同じで、何がやりたいのかさっぱり分からない。「陰の総理・仙谷由人vs.小沢一郎」を出版したばかりの作家の大下英治氏が語った。
「敵はどこにいるのか。菅首相にとって、敵は自民党であり、官僚組織でしょう。ところが、同志である身内の小沢さんを標的にして叩いて、民主党政権を弱体化させている。まともじゃありませんよ。その昔、敵は権力なのに、連合赤軍や過激派が内ゲバをやって自分たちの組織を滅ぼしたのと同じことをやっているのです」

「脱小沢」を口にしたら支持率がハネ上がった首相就任直後の有頂天が忘れられない。ほとんどバカだ。


◆小泉時代より悪ラツ、菅政権下で大量難民

おまけに、政権維持だけが目的化してからは、目つきや挙動までおかしくなった。そのピークが昨年の臨時国会で、九大名誉教授の斎藤文男氏はこう指摘した。
「目がうつろで生気がない。表情や立ち居振る舞いも年寄りじみてきました。答弁も歯切れが悪くて煮え切らないし、迫力も覇気もない。こんな姿を見せられて、誰が希望を持てますか。国民は陰々滅々としてきますよ」
リーダーがこれほどの暗愚にして狂者では、この国は一体どうなるのか。内政も外交もお先真っ暗だ。筑波大名誉教授の小林弥六氏(経済学)が言う。
「長引くデフレ不況で大卒内定率は過去最低を記録したのに、首相は増税路線を突き進もうとしています。通常国会でも雇用対策はそっちのけだから、このままでは大勢が路頭に迷うことになる。そこにダメ押しとなるのが、首相が前のめりになっているTPPです。農業ばかり注目されがちですが、モノと同時にサービスや労働力の自由化も進んでいく。財界の思惑通り、海外からの労働力が入ってくれば、国内の雇用はさらに減り、賃金は下落します。規制緩和と市場原理主義を推し進めた小泉政権よりも悪ラツで、大量の難民が生まれるでしょう。最悪なのは、菅政権が党内の意見もまとめていないのに、TPPへの参加を半ば約束していることです。アメリカは当然、舌なめずりしているから、反(ほ)故(ご)にしたら、今度は外交問題になりかねません」

どう転んでも、国民にとっては百害あって一利なし。一刻も早く菅という“進行がん”を取り除かなければ、この国と国民生活は潰されてしまう。



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