ウィキリークス創設者インタビュー 米フォーブス誌から

米外交公電公開前の「覚悟」語る
(Forbes 2010/12/9 7:00) http://p.tl/Gd-k


 英国警察は7日、内部告発ウェブサイト「ウィキリークス」創設者のジュリアン・アサンジ容疑者を逮捕した。同容疑者にはスウェーデン当局から性犯罪容疑で逮捕状が出ていた。同容疑者は容疑を全面的に否認しており、真相は今後の取り調べに委ねられる。アサンジ容疑者の運営するサイトは「市民の知る権利と、国家安全保障・人権とのバランスをどう取るべきか」という問題を提起し、今も世界に波紋を広げている。ウィキリークスの活動内容や利用実態を知る手掛かりとするため、米フォーブス誌が米外交公電公表前の11月11日に実施し、同29日にフォーブス誌サイトで掲載したアサンジ容疑者の英文インタビュー全文を翻訳転載する。

 敬意を抱くか非難するかはともかく、内部告発サイト「ウィキリークス」創設者のジュリアン・アサンジ氏は、“透明性が強要される時代”の到来を告げる人物だ。同氏が率いるのは、20~30年前には想像もできなかったような技術を駆使し、世界中の秘密を暴露することに全力を傾ける組織である。

 この1年、アサンジ氏の情報を武器にした反政府活動によって、アフガニスタン戦争に関する機密文書7万6000点、イラク戦争に関する文書39万2000点が公表された。軍事機密の漏洩事件としては史上最大の規模だ。11月28日、ウィキリークスは保有する米外交公電25万点を段階的に公表しはじめた。その結果、米国のトップ外交官が敵国や同盟国をどのように見ているかが白日の下にさらされることとなった。

 ただ、11月の本誌とのインタビューで、アサンジ氏は米国防総省や国務省の機密の公表はほんの手始めにすぎない、と語った。

 めったに取材を受けないことで知られるアサンジ氏は11月11日、ロンドンで2時間にわたって本誌記者とのインタビューに応じた。その中で、ウィキリークスは現在も大量の機密文書を抱えており、そのほぼ半分は民間企業に関するものだと語った。ウィキリークスの次の標的は米国の大手銀行になる見込みだという。「新たな告発は、銀行の経営陣の行動の実態を浮き彫りにするものであり、当局による捜査や規制強化につながるはずだ。かつてのエンロン事件の電子メールに匹敵する価値がある」とアサンジ氏は語った。

 以下はその内容を筆者と本誌編集部がまとめたものである。

 ――ウィキリークスが未公表の文書を大量に抱えているというのは本当か。

 「そのとおりだ。そうした状況が常態化している。我々が成功するのに伴い、情報を公開する能力と、情報提供を受ける能力にギャップが生じている。情報公開の能力は漸次的にしか伸びないのに対し、知名度の上昇に伴って、送られてくる機密情報は飛躍的に増加しているためだ」

 ――知名度というのは、あなた個人のものか?

 「組織と私自身の知名度だ。信頼に関わる事業には、ネットワーク効果というものが生じる。何らかのサービスが広まり、特定の分野において信頼できるものだと認められると、『これは信頼できそうだ』と口コミで広がる。すると、それを聞いた人の疑念も氷解するのだ。信頼が必要な事業に共通して言えることだが、だからこそブランドが非常に重要なのだ」

 ――10月以降、ウィキリークスのウェブサイトの情報投函(とうかん)機能がダウンしているのは、情報公開の能力と提供される情報の量にギャップがあるためなのか?

 「(寄せられる)情報があまりにも多すぎる」

 ――情報提供機能を停止する前は、1日あたりどれくらいの情報が寄せられていたのか。

 「先ほども言ったとおり、飛躍的に増えていた。我々に関する報道が増えると、情報提供は何百、何千件も増える。だがその場合、情報の質はそれほど高くないこともある。大手ダウンロードサイトのパイレートベイは何回か、トップページから我々のサイトにリンクを貼ったことがある。そうすると大量の情報が寄せられるが、その質はあまり高くない」

 ――未公表の内部告発資料のうち、民間企業に関するものはどれくらいか。

 「約50%だ」

 ――ここ1年は米国の軍事問題にほぼ集中してきたようだ。それは民間企業に関する機密の公開は、準備中だということか。

 「そうだ。情報公開の能力が直線的にしか伸びない一方、情報提供が幾何学的に増えるという状況では、最も影響力の大きい案件を最初に公開するように、リソースの配分に優先順位をつけざるを得なくなっている」

 ――今後公表するものには、民間企業に関する極めて影響力の大きい資料があるのか。

 「そうだ。影響力はそれほど大きくないかもしれないが、銀行が1行か2行は潰れるかもしれない」


 ――それは相当影響力が大きい話に聞こえるが。

 「だが1つの戦争の歴史そのものほどではない。影響力をどう測るかにもよる」

 ――より少数の資料を、もっと頻繁に公開する、というかつてのスタイルに戻るのはいつか。

 「1件あたりの平均的な公表資料の数から言えば、去年の実績を大幅に上回っている。今年の案件はどれもデータセットとして膨大だ。これだけのことができたのは、我々の仕事ぶりが非常に効率的だったためだ。案件の数としては減少したが、そこに含まれる平均的な資料数ははるかに増えた」

 ――標的も情報源ももっと数が多かった、かつてのスタイルには戻るのか。

 「そのうち戻る。だが、本当のことを言えば……(しばし沈黙)。こうした規模の大きな情報公開には、何か良い名前をつけたいところだ」

 ――“メガリーク”はどうか。

 「メガリークか。それはいい。メガリークは重要な現象であり、今後も間違いなく増える。ある時代の歴史を網羅していたり、膨大な数の人々に影響を与えるような巨大なデータセットには、それぞれに集中的に取り組む価値がある。それこそ我々がしてきたことだ」

 ――民間企業については、これまでのところ“メガリーク”というべきものはない。

 「確かに、軍事機密ほどのスケールの案件はない」

 ――今後はどうか。

 「銀行に関する案件を1つ準備中で、それはメガリークだ。イラク戦争の資料ほどの規模ではないものの、数え方にもよるが、資料数は数万から数十万に達する」

 ――米国の銀行か。

 「そうだ、米国の銀行だ」

――今も存在する銀行か。

 「そうだ、大手米銀だ」

――米国最大の銀行か。

 「ノーコメント」

――発表の時期は。

 「来年初頭だ。これ以上は言わない」

 ――その資料を公表することで、どんな結果を期待しているのか。

 「(しばし沈黙)分からない。銀行の経営陣の行動実態が浮き彫りになり、当局による捜査や改革につながると思う」

 「企業経営に関する内部告発は、特定の事件もしくは特定の法令違反に関するものである場合が多い。今回の案件の類似例として挙げられるのはただ1つ、エンロンの電子メールだ」

 「なぜエンロンのメールには、それほどの価値があったのか。エンロンが崩壊し、その後の裁判で明らかにされた何千通もの社内メールは、同社全体の経営のあり方を知る手がかりとなったからだ。言語道断の違法行為は、多数の小さな意思決定が積み重なった結果だった」

 「今回の案件も、同じようなものになるだろう。言語道断な法令違反や倫理にもとる行為もいくつか明らかになるが、それに加えて、その背後にある意思決定の構造、社内の経営倫理といったものも明らかになる。そこに非常に大きな価値がある」

 「イラク戦争の機密文書についても同じで、多数の犠牲者を生んだ注目すべき事件の記録も含まれているが、そこから戦争の全体像が分かることに大きな意義がある」

 「これは“腐敗のエコシステム(生態系)”と呼んでもいいかもしれない。だが、倫理にもとる行為を黙認したり、支持したりするのは、日常的な意思決定の結果でもある。適切な監視の欠如、経営陣の優先順位や、自分たちの利益追求の手法についてどう考えているのか、それについて何を語っているのかが問題なのだ」

 ――問題となっている金額は、どの程度なのか。

 「まだ調査中だ。今言えるのは、倫理にもとる行為があったことは明らかだが、まだ犯罪性があると断定するには早すぎるということだ。相当な確信が持てるまで、軽率に誰かを犯罪者呼ばわりすべきではない」

 ――“倫理にもとる行為”とはどのようなものであったか、もう少し説明してほしい。

 「それはできない」

 ――かつて本誌の記者に、ウィキリークスは英BPについての資料を握っていると語ったことがある。それはどのようなものか。

 「これまでに大量の資料を入手したが、そのうちどの程度が本物なのか、まだ確認していない。BP問題については多くの報道がなされ、弁護士など多くの人々がそこから大量の素材を引き出している。このためBPに関して我々が保有している資料が原本なのかは疑わしく、特に独自性のあるものなのか精査する必要がある」

 ――ロシアのメディアは、ウィキリークスがロシアの企業や政治家を標的にしようとしている、と報じた。ウィキリークスの他の関係者からは、それは過剰反応だと聞いたが、どうなのか。


 「ロシア連邦保安庁(FSB)は『心配するな、あんなやつらはつぶせる』と語ったとされ、それは確かに過剰反応だ。とはいえ、実際にはロシアのものを含む、多くの企業や政府に関する資料を握っている。特にロシアに集中する、というのは誤りだ」

 ――他の業界についても、ざっと見ていきたい。製薬会社についてはどうか?

 「資料はある。実のところ、あまりにも未処理の素材がありすぎて、そのすべては把握していない。今話しているのは、私自身が目にしたものや、同僚から聞いたことにすぎない」

 ――どれほどの資料を抱えているのか。ギガバイト単位か、テラバイト単位か。

 「分からない。計算するヒマがない」

 ――それでは先に進もう。ハイテク業界は?

 「ある主要国の政府が、ハイテク業界に対してスパイ行為を働いていたことを示す資料がある。産業スパイだ」

 ――米国か。それとも中国か。

 「米国は被害を受けた国の1つだ」

 ――エネルギー業界についての情報は。

 「ある」

 ――英BP関連以外のものもあるのか。

 「ある」

 ――環境問題に関するものは。

 「様々なものがある」

 ――具体例を挙げてほしい。

 「あるケースは、昨年我々が公表した資料をきっかけに始まった。非常に興味深い事例だが、ほとんどだれも注目していない。名前は思い出せないが、あるテキサス州の石油会社がアルバニアに保有する油田で、相当深刻な爆発事故が起きていた。我々があるコンサルタント・エンジニアから受け取った状況報告には、深夜にトラックがやってきて、油田に何かしている、と書かれていた。石油会社は妨害工作を受けていたのだ。アルバニア政府は別の会社と関わりがあった。つまり、競合する石油メーカーが2社あり、1社は政府が所有し、もう1社は民間企業だったのだ。この報告書を受け取った時点では、文書にヘッダーはなく、会社名、油田の所有者の名前も記載されていなかった」

 ――その件を取り上げなかったのは、主要なデータが欠けていたためか。

 「当初はそうだった。こんな資料をどうすればいいのか?誰が送ったものかも分からなければ、真偽を確認することは不可能だ。ある会社が、別の会社を陥れようとしているだけかもしれない。そこで我々は、極めて異例の行動に出た。文書を公表して、『こんな資料を入手した。ある会社がライバルを中傷するために作成したものにも見えるが、確認することができない。もっと情報が必要だ』と訴えたのだ。文書が本物かどうかはともかく、何かが起きているのは確かだった。一方の会社が他方を陥れようとしているだけだとしても、それはそれでおもしろい。内容が事実なら、非常に興味深い」

 「しばらくそのままの状態が続いたところ、あるエンジニアリング系のコンサルティング会社から、どうすればその資料を削除できるのか、という問い合わせの手紙が来た。我々はまず自分たちが文書の所有者であることを証明してほしい、と要求した」

 ――かつて「iPhone(アイフォーン)4」の試作機を紛失した米アップルが、ITブログサイト「ギズモード」が入手したものを本物と認め、返還を求めた一件を想起させる話だ。

 「確かに、アップルとアイフォーンの話に似ている。コンサルティング会社は、欠落していたヘッダーや他の情報が含まれたスクリーン・キャプチャ(パソコン画面を画像データとして保存したもの)を我々に送ってきた」

 ――彼らの意図は何だったのか。

 「分からない」

 ――今後、この件に関する完全な情報を開示するのか。

 「そうだ」

 ――金融業界に関する情報は他にもあるのか。


 「金融関連の資料はたくさんある。我々がカバーする民間部門のうち、金融は最も重要な産業だ。ドバイの銀行が破綻する前には、各行の経営が不健全であることを示す多数の資料を公表した。先方からはドバイの刑務所に送りこんでやると脅された。我々がドバイに行くようなことがあれば、少し厄介なことになるだろう」

 ――これまでウィキリークスが手掛けた中で、民間企業に関する告発情報として最も重大な案件を5つ挙げるとすれば何か。

 「それは資料の重要性と、影響力によって決まる。アイスランドのカウプシング銀行の件は、それによる連鎖反応や、その後アイスランド政府やスカンディナビア諸国の実施した調査を考えれば、最も重要な部類に入る。スイスのプライベートバンク、ジュリアス・ベアのケースも重要だ」

 「カウプシングの機密情報は、非常に良質なものだった。融資帳簿には、大企業や大富豪、債務者の信用力について、非常に率直な言葉でつづられていた。対象は自行の顧客に限らず、世界中に広がっており、世界中の企業の評価が載っていた。非常に興味深い情報で、カウプシングだけでなく、他の多くの企業が抱える問題を暴露していた」

 「ジュリアス・ベアの資料は、ケイマン諸島に資産を隠している資産家の情報を暴露していた。我々はさらに調査を進め、ジュリアス・ベア内部の税務の実態を明らかにした。同行自身も海外の銀行制度を活用して、スイス当局から資産を隠していたのが興味深かった。この件については、非常に良い資料があった。この結果、規制当局が様々な捜査に乗り出しており、何らかの改革が実施される可能性がある。数多くの興味深い調査が行われるきっかけとなった」

 ――ウィキリークスは規制強化を求めているのか?

 「私自身はあまり規制が好きではない。言論の自由を信奉する人間に、規制を好む者はいないだろう。だが規制すべき不正行為もあり、これはそうした部類に入る」

 「企業の機密について言えるのは、政府の機密と重複する部分がある、ということだ。我々はケニアのダニエル・アラップ・モイ元大統領とその取り巻きが、30億~40億ドルを秘密裏に海外に持ち出したとする『クロール・リポート』を公表したが、その資金はどこへ行ったのか。西側の銀行や企業の支援なしに、巨大汚職など成立しえない。巨大汚職というアフリカの人々の言い回しは刺激的だが、実際にこれは数十億ドル単位の話だ。元大統領らの資金は、ロンドンの不動産、スイスの銀行、ニューヨークの不動産など、この資金を動かすために作られた会社に回ったのだ」

 「製薬業界についても、興味深い告発があった。自らが作成した資料をリークしてもらうという話だ。ロビー団体が世界保健機関(WHO)から機密情報を受け取っていたのだが、その情報というのは彼ら自身が作成した、業界の投資規制に影響を与えるような内部調査報告だったのだ。我々はその写しを入手した。“メタリーク”ともいうべき、優れた情報だった。比較的わずかな情報だったが非常に影響力が大きく、『ネイチャー』誌や製薬業界紙に掲載された」

 ――企業にとって、ウィキリークスはどのような意味を持つのか。ウィキリークスが存在する世界に、企業はどのように適応していくべきか。

 「ウィキリークスの存在が意味するのは、優れた企業経営をすることが容易になる一方、悪質な企業を経営するのは困難になるということだ。あらゆる企業の最高経営責任者(CEO)にとって勇気づけられる話だろう。例えば中国の粉ミルクメーカーのケースを考えてみよう。各社は化学物質メラミンを加えることによって、たんぱく質の使用量を減らし始めた。こうしたことが同時に多数の工場で起こったのだ」

 「あなたがまっとうな会社を経営したいと考えているとしよう。倫理的な職場というのは良いものだ。従業員に他の人々を欺くようなことをさせなければ、あなたが従業員に欺かれる大幅に可能性は低くなる。ところがある会社がメラミンを使って粉ミルクの品質を落とし、利益を増やしたとする。あなたもそれに倣わなければ、徐々に会社は傾き、品質を落としたメーカーに圧倒されるようになる。それは起こりうる最悪の結果だ」

 「別のシナリオとして、最初に粉ミルクの品質を落としたメーカーの行為が暴露されたとしよう。そうすればあなたが同じことをする必要はなくなる。規制強化の脅威によって、企業は自己規制をするようになる」

 「不誠実な企業が誠実な企業よりも内部告発によってマイナスの影響を受けるということは、誠実なCEOが誠実な会社を経営しやすくなることに他ならない。それが我々の基本的な考え方だ。オープンで誠実な企業と、閉鎖的で不誠実な会社とのせめぎあいの中で、我々は後者に対して社会的評価の面でとほうもない負荷をかけようとしている」

 「自分の情報を漏洩してほしいと思うような人間はいない。内部告発されるのは辛いことだ。だがどのような産業についても言えるのは、そうした内部告発は業界全体の利益、とりわけ優良な企業の利益となるのだ」

 ――市場全体の利益になるのは分かるが、内部告発は増えるという認識の下、個々の企業はどのように行動を変えなければならないのか。

 「不誠実なライバル企業からの内部告発を促すようなことをする、できるかぎりオープンかつ誠実に行動する、そして従業員をきちんと扱うよう心がけるべきだ。これは非常に好ましいことだと思っている。最終的には、質の高い製品を作る誠実な企業が、質の低い製品を作る不誠実な企業に対して競争優位に立てる状況が生まれるのだ。また従業員を大切にする企業の方が、大切にしない企業よりも有利になる」

 ――自らを自由市場主義者だと思うか。


 「もちろんだ。資本主義に対してはいろいろ思うところがあるが、市場は非常に大切だ。多くの国で生活し、働いた経験から分かるのは、例えばマレーシアの電話業界の方が、米国よりはるかに活気があるということだ。米国の電話業界ではすべてが垂直統合され、独占状態が作られているので、自由市場が機能していない。マレーシアには多様なプレーヤーが存在するため、結果として万人が恩恵を被っている」

 ――市場にとって、内部告発はどのような意味を持つのか。

 「簡単に言えば、市場が存在するためには情報が欠かせない。完全市場には完全な情報が必要なのだ。好例が中古車市場における欠陥車のケースだ。買い手には良い中古車と欠陥車を見分けるのは難しい。このため売り手は、良い車であっても高く売れない」

 「企業のどこに問題があるかを分かるようにすることで、我々は“欠陥車”を特定しているようなものだ。つまり、優れた企業に有利な市場が出現するわけだ。自由市場が実現するには、取引の相手方がどのような人物か、だれもが分かっていることが不可欠だ」

 ――あなたに対しては、反体制、反企業という評価が定着している。

 「まったくそうではない。優れた体制を創るというのは困難なことであり、個人的には組織というものが崩壊してしまっている国々にも住んだことがある。だから企業を経営することの難しさは理解している。組織というものは自然発生的に生まれるものではない」

 「私に特定の思想や経済思想の持ち主というレッテルを貼るのは誤りだ。私は様々な考え方を学んできたが、その1つが米国流のリバタリアニズム(絶対自由主義)、市場重視のリバタリアニズムだ。このため、こと市場に関してはリバタリアンの立場をとるが、政治学や歴史の知識もあるため、自由市場は自由になるよう働きかけなければ最終的に独占が生じることは理解している。ウィキリークスは資本主義をより自由で、倫理的にするためのものだ」

 ――とはいえ、ウィキリークスの暴露するスキャンダルは、明らかに多くの痛みを引き起こしている。

 「痛むのは罪を犯した者たちだ」

 ――スキャンダルを暴露したり、企業を辱めたりするのは楽しいか。

 「改革が動き出すのを目の当たりにすること、そうした改革を促すこと、またご都合主義者や法を侵害する人々が責任を取らされるのを見ることは、非常にやりがいのある仕事だ」

 ――あなたは昔ながらのハッカーだった。企業から内部告発を集めるという新しい生き方を、どうやって見つけたのか。

 「そう言われるのは少し不愉快だ。ハッカーの生き様を描いた共著があり、それを元にしたドキュメンタリーもあるため、ハッカー時代についてはよく話題にされる。情報を都合の良いように使われたりもする。だが、もう20年も前の話だ。最近の記事でハッカー呼ばわりされるのは、非常に不愉快だ」

 「ハッカーであったことを恥じてはいないし、非常に誇りに思っている。だが現在、ハッカーのように言われる理由は分かっている。そこには非常に明確な理由があるのだ」

 「私は1993年、『サバービア』の名称で知られる、オーストラリアで最も古いインターネット接続会社(ISP)を立ち上げた。それ以降はパブリッシャー(メディアの発行人)であり、ジャーナリストとして活動したこともある。我々の事業が多くの国で法的保護の対象となっている出版やジャーナリズムではなく、コンピューターのハッキングのような違法行為であると、意図的に実像をゆがめようとする動きがある。そうすることで、我々を他のメディアと区別し、法的保護から切り離そうとしているのだ。我々の対抗勢力の一部は、それを非常に意図的にしている。またニューヨーク・タイムズのようなメディアも、我々の活動を出版業やジャーナリズムに含めると自分たちが規制や捜査の対象になるのではないかという恐れから、同じことをしている」

 ――あなたが現在ハッカーなのかを議論するつもりはない。だがハッカー時代にしていたことも、今していることも、情報を入手するという意味では同じだ。だとすれば、自ら情報を取りにいくという戦略から、単に情報がほしいと呼びかける戦略に転換したのはいつか。

 「ハッカーの精神は私にとって非常に大切なものだ。だが大切な情報がどこにあるかを知っているのはインサイダーだ。インサイダーを仲間にするほうが、はるかに効率が良い。問題を理解しており、どうすれば暴露できるかを知っているのは彼らだ」

 ――内部告発に頼る戦略へは、どのように移行していったのか。


 「1993年にサバービアの事業を開始した時から、人々に情報を届けることが非常に重要であることは分かっていた。我々は多くのグループを支援した。我々のサービスを使って情報を公開しようとしていた企業や個人にとって、いわばネット上の印刷機の役割を果たしていたのだ。こうして我々に情報を持ってきた人々の中には、活動家や弁護士のグループも含まれていた。オーストラリアの通信大手テルストラのような、企業に関する情報が持ち込まれるケースもあった。我々はそうした情報を公表した。これは1990年代の話だ」

 「我々は言論の自由を守るISPだった。カリフォルニア州の新興宗教サイエントロジーに批判的なオーストラリアのウェブサイトが、ビクトリア大学のウェブサーバーから追い出されるという事件があった。サイエントロジーが訴訟を起こすと圧力をかけたからだ。他のホスティング会社などにも引き受けてもらえず、最後に我々のところにやってきた」

 「法的な圧力、それも米国のカルト集団からの法的な圧力ごときに屈するようなISPから、ユーザーは逃げ出していた。はっきり意識したわけではないが、私は早くからそうした問題に気がついていた。人々が情報を公表することを助けよう、情報の導管を作ろう、と。市場には他に頼れるパブリッシャーがいなかったため、みなが我々のところにやってきた」

 ――“マッジ”(本名ペイター・ザトコ、伝説的なハッカーで、コンピューター・セキュリティーの専門家)について教えてほしい。

 「彼なら知っている。非常に頭の切れる男だ」

 ――マッジ氏は今、国防総省高等研究計画局(DARPA)が立ち上げた、情報漏洩を防ぐための技術を研究するプロジェクトのリーダーを務めている。ウィキリークスと非常に関連がありそうだ。過去、マッジ氏とどのような関係にあったのか。

 「えーと、私は……ノーコメントだ」

 ――あなたとマッジ氏は、ハッカーとして同じグループに属していたのか。ハッカー時代はマッジ氏のことをよく知っていたはずだ。

 「我々は同じ環境に身をおいていた。私はそこに属していた人々全員と交流があった」

 ――組織内部でデジタル情報の漏洩を防ぐための「Cinder(Cyber Insider Threatの略)」プロジェクトという、マッジ氏の現在の仕事についてどう思うか。

 「そのプロジェクトについては何も知らない」

 ――情報漏洩を防ぐための技術に可能性はあると思うか。

 「ほとんどないだろう」

 ――それはどういう意味か。

 「コミュニケーションについては新たなフォーマットや方法が常に生まれている。情報漏洩を止めるのは、新たな検閲の形といえる。中国は国家的なファイアウオールの整備に膨大な資源をつぎ込んだが、ふたを開けてみれば、意欲のある者なら誰でもそれを回避できる状態になっている。ごく少数のユーザーだけではなく、本気でそれをすり抜けようとする者なら誰でもだ」

 「Tor(トーア)と呼ばれるプログラムをはじめ、検閲迂回用ツールも情報漏洩に照準を合わせている。情報漏洩をやりやすくする」

 「インターネットから完全に遮断された“エアギャップ・ネットワーク”の場合は話が別だ。情報を運び出す人間が必要になるかもしれない。だが誰かが意図的に情報を運び出さなければいけないわけではない。産業機器などを攻撃する『Stuxnet(スタックスネット)』の事例で明らかになったように、USBメモリーにウイルスを仕込んでもいい。スタックスネットの場合はまったく逆の方向に進んでしまったが。自分が“運び屋”だと気づいていない人間を通じて、情報を運び出せばいい」

 ――マッジ氏とCinderプロジェクトの話に戻ろう。マッジ氏の優秀さを思えば、情報漏洩の問題を解決することができると思うか。

 「不可能だと思うが、情報漏洩が今より困難にならないという意味ではない。これは非常に難しい問題だ。完全に解決するのが不可能と言った理由は、ほとんどの人は情報漏洩をしないためだ。既に情報漏洩には様々なリスクや罰則があるため、それでも漏洩をするのは非常に強い意志を持っている人間だ。非常に意欲のある人間たちだ。普通の人間には検閲は有効かもしれないが、意欲的な人間には効果がない。我々の仲間は非常に意欲的だ」

 「マッジ氏は頭が良く非常に倫理的だ。彼は正真正銘の違法行為を隠蔽するためのシステムを作っているのではないかという懸念を抱いていると思う」

 ――マッジ氏のプロジェクトは情報漏洩を防ぐことを目標に掲げており、対象とするコンテンツを限定していない。内部告発を防ぐのと同じように、海外のハッカーによるデータの引き出しも防ごうとしている。

 「彼は中国が米国やロシア、フランスに対して諜報(ちょうほう)活動をしていることを例に挙げるだろう。こうした国々がデータを盗み出すという懸念は本物だ。そうした試みにあらがうのは、倫理的な行為かもしれない。だが諜報活動には国際関係を安定させる効用もある。どの国もたいてい自らをとりまく情勢を、実際よりも悪く考える。何も分からないと、不安は増幅される。とりわけ政府や民間企業のご都合主義者は、存在しないかもしれない問題に対処しようとする。他の国が何をしているかが分かれば、緊張感は緩和される」

 ――かつてウィキリークスで働いていたドイツ人のダニエル・ドムシェイト・ベルク氏があなたとたもとを分かち、独自にウィキリークスのような組織を立ち上げようとしているといわれる。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は彼をウィキリークスの“競合”と表現したが、そう思うか。

 「内部告発の“供給”は非常に多い。この業界に他の人々が参入するのは、我々にとって追い風だ。我々を守ることになる」

 ――ウィキリークスの発想を模倣した組織や派生的な組織についてはどう思うか。

 「これまでいくつかそうした組織があったが、非常に危険だ。この事業をきちんとやるのは簡単なことではない。それが問題だ。最近は中国版のウィキリークスを見つけたので、協力を呼びかけた。我々ときちんと協力してくれるような、中国の告発者が増えるのは好ましいことだ。だが彼らが立ち上げたものには、きちんとしたセキュリティもない。彼らには信頼できるような社会的評価もない。この事業をやり損なうのは簡単なことで、また非常に危険なことだ」

 ――アイスランドで“アイスランド・モダン・メディア・イニシアチブ(IMMI)”と呼ばれる、世界で最も言論の自由を保証し、内部告発者を保護する国になるための法案審議が進んでいる。この法案が通過すれば、ウィキリークスのような事業で成功するのは容易になるのか。

 「最高レベルの案件については、そうはならないだろう。我々の相手は、法律の定めるルールに従わない組織だ。だから法律がどうであろうと関係ない。諜報(ちょうほう)機関が何事も秘密にしておくのは、法律や正しい行動のルールを頻繁に犯しているからだ」

 ――企業の内部告発についてはどうか。

 「企業の内部告発については、言論の自由を保証する法律によってやりやすくなるだろう。だが軍需産業についてはその限りではない。諜報組織と結託しているからだ。諜報組織が絡んでいる案件については、IMMIは役には立たない。諜報員が尻尾を捕まれれば、外交コストが多少高くなる程度だ。だからこそ我々の主要な防御策は法律ではなく、技術だ」

 ――他の内部告発サイトで、優れていると思うものは。

 「ない。他には1つもない」

 ――IMMIによって、ウィキリークスのような組織の次の世代が生まれてくることを期待するか。

 「ウィキリークスに限らず、メディア業界全体にそうした動きが広がることを期待する。我々は“炭鉱のカナリア”のような存在であり、先駆者だ。だが今はメディア全般が厳しい攻撃を受けている」

 ――この業界や政府に関する内部告発がほしい、といった希望リストはあるか。

 「あらゆる政府、あらゆる業界に関する情報を求めている。外交的、歴史的、倫理的に重要性があり、これまで公表されたことがなく、厳重に隠されている資料はすべて受け入れる。最も改革の余地が大きいのはどの業界であるかは定かではない。我々がまだ聞いたこともない業界かもしれない。次の大きなテーマが何かは、私にも分からない。一般の人々には分からないが、その内部にいる人なら知っているはずだ」

 ――とはいえ、秘密主義の強い業界というものはある。そこにまだ入手していないが、ウィキリークスの欲しがる情報があることは分かっているのだろう。

 「そのとおりだ。諜報の世界はその1つだ。彼らは秘密主義が非常に強い。銀行業界についても同じことが言える。例えば投資銀行のゴールドマン・サックスのように、報酬水準の高い業界ほど、仕事を失うまいとするインセンティブは強いだろう」

 「我々が求める情報は分かりやすい。諜報活動、戦争、そして大規模な金融不正に関する情報だ。それはこうした問題が多くの人々に深刻な影響を及ぼすからだ」

 ――こうした分野に関する内部告発を手に入れるのは難しい。

 「特に諜報機関に関しては難しい。処罰が非常に厳しいからだ。これまで捕らえられた人間はごくわずかだが、注目すべきことがある。処罰は厳しいかもしれないが、ほとんどの人がそれを免れているということだ」

 「人々を抑えておくのに必要なのは、おびえさせておくことだ。米中央情報局(CIA)は組織として、人々が情報漏洩をすることを恐れてはいない。恐れているのは、情報漏洩をした人々が処罰を免れているのが知れ渡ることだ。そうした事態になれば、上層部は組織を制御できなくなる」

 ――ウィキリークスはそれと正反対の戦略を採っているということか。

 「そのとおりだ。我々の戦略は“勇気は伝染する”という言葉に集約される。個人が内部告発をしても、その後も幸せな生活を続けることができることを証明すれば、多くの人を非常に勇気づけることになる」

(2010年11月29日Forbes.com)