なぜ大マスコミはTPPの問題点を報じないのか [慶大教授 金子勝の天下の逆襲]

(日刊ゲンダイ2011/1/25)

いまや大手メディアは「TPP(環太平洋連携協定)推進」の大合唱だ。初めにTPP参加ありきで、肝心なことは報道しない。イラク戦争開戦当時にそっくりだ。

菅首相は「平成の開国」というが、すでに日本の平均関税率は3%前後。ほとんど裸同然だ。農産物の平均関税率も約12%。韓国よりはるかに低く、20%を超えるEUと比べても低い。
なのに、次々とFTA(自由貿易協定)を結んでいる韓国に日本は後れをとっている、日本企業は韓国企業に海外市場で負けている、だからTPPを推進しろという。しかし、韓国は米国とのFTAも、EUとのFTAも締結したばかりでまだ発効もしていないぞ。日本企業は失われた20年の間に技術開発が遅れ、リストラされた技術者が韓国企業に雇われたこともあってキャッチアップされたのだ。

しかもFTAとTPPの違いが無視されている。FTAは1割程度の例外が認められ、米韓FTAでもコメは例外扱いだが、TPPは例外なしの関税ゼロが原則である。

TPP参加で農産物が打撃を受ける一方で、工業製品の輸出が伸びるかのようにいわれているが、TPPはあくまでも5年間で輸出を倍増させ雇用を200万人増やすというオバマの国家輸出計画の一環である。大手メディアの一部は、TPPに参加し中国やアジアへの輸出が伸びるというが、中国は参加していない。おまけに、TPPは「広範なパートナーシップ協定」なので、米国の対日要求を背景に24項目が交渉項目になる。

米国企業が日本市場に参入していないこと自体がおかしいという、とんでもない理屈に基づいて、郵政事業の資金運用に米国企業を参加させろとか、公共事業の入札条件を下げろ、自動車の安全基準を緩和しろといった交渉項目が並ぶ。TPPは日米経済の一体化なのだ。

もちろん、農業が大打撃を受けるのは間違いない。規制を緩和し、株式会社化すればいいという意見を聞くが、日本の平均耕作面積が1・9ヘクタールなのに対して、アメリカは180ヘクタール、オーストラリアは3400ヘクタールだ。TPPに参加したら、基地・エネルギーだけでなく食料まで米国頼みになる。日本は米国の51番目の州になりたいのだろうか?(隔週火曜掲載)


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