菅政権は「小沢のカネ」より政策実現が先決だ (日刊ゲンダイ2011/1/25)

◆国会を台なしにしているのは誰なのか

朝日新聞が今月22日の社説で、小沢問題を取り上げた。政治倫理審査会への出席を“事実上、拒否”した小沢元代表の姿勢を問題視、「国会を台なしにするのか」と息巻いていたが、相変わらずの論調にはアキれてしまう。

小沢が政倫審に出ないことで、〈通常国会は「政治とカネ」を巡る不毛な対立に終始し、その結果、予算審議や社会保障と税の一体改革、自由貿易、農業再生などの政策課題を熟議する場が台なしになる〉(要旨)というのである。
どうして、小沢が政倫審に出ないと、国会で「熟議」ができないのか。小沢がこうした議論の担当閣僚ならば、いざ知らず、ただの一兵卒なのである。
内閣はもちろん、党の役職からも外れている小沢は、今月中にも強制起訴される。疑惑は司直の場で裁かれる。わざわざ国会に呼ぶ必要はないし、出てこないからといって、国会が台なしになるわけがない。誤解を恐れずに言えば、小沢なんか、放っときゃいいのである。それなのに、与野党は国会審議の入り口で、小沢をサカナに「ああだ」「こうだ」とやり合っている。

きのうは民主党の安住、自民党の逢沢両国対委員長が協議、27日に与野党幹事長会談を開き、小沢問題を取り上げることを決めた。民主党は常任幹事会を開いたが小沢問題を巡って大モメだった。朝日を筆頭に大メディアが小沢招致をたきつけるからだが、国民はもうウンザリだ。いつまで小沢問題のバカ騒ぎを続けているのか。いい加減にマトモな政策論争を始めたらどうだ。これがマトモな国民の声である。

◆国民は大メディアのご都合主義を見抜いている

評論家の佐高信氏はこう言う。
「一兵卒の小沢氏が国会に出てこないからといって、与野党協議が始まらない理由にはなりませんよ。小沢氏の疑惑は司法の場で決着がつくわけだし、小沢氏の存在は政策論争とは無関係じゃないですか。それにこれまで明らかになっている小沢氏の疑惑は、今になって出てきた話ではない。
なぜ、今度の通常国会だけが台なしになるのか。小沢氏が追い詰められたとみて、菅首相が前のめりになり、メディアも声を大きくしているだけでしょう。それが国民には見えている。だから、いくら菅執行部が小沢切りに動こうとしても、支持率が上がらないのです。国民は彼らのご都合主義を見抜いている。もう辟(へき)易(えき)していると思います」
まして、小沢の疑惑は小沢憎しの検察が何年もかかって調べ上げたのに、起訴に持ち込めなかった案件だ。小沢に駆け上がるために元秘書の国会議員を微罪で逮捕し、ガンガン、「吐け吐け」と迫ったが、何も出なかった。その結果、検察が描いた「ゼネコンからの裏金で不動産購入」という事件の見立ては、音を立てて崩れたのである。
ド素人の検察審査会が2度も起訴相当議決をしたものだから、小沢は強制起訴されることになったが、これをもって、疑惑が深まったという理屈は成り立たない。これまでの「逮捕→起訴」と審査会による「強制起訴」は違うからだ。本当に怪しいのであれば、検察は再度、捜査し、逮捕する。それだけのことだ。
立法府が今、小沢の政治責任を求めて騒ぎ出すような“新事実”は何ひとつ出ていないのである。

◆今や違いがまったくなくなった民主党と自民党
与野党の政策論争がちっとも深まらないのは、小沢のせいでもなんでもなくて、実は別の理由がある。
与野党とも議論を戦わせるような政策がないのである。だから、小沢問題でギャーギャー空騒ぎをすることになる。小沢を巡る混乱は与野党が機能不全に陥っていることの裏返しだ。

菅はきのうの施政方針演説でこう呼びかけた。
「(社会保障と税のあり方について)問題意識と論点の多くはすでに(与野党で)共有されていると思います。各党が提案する通り、与野党間で議論を始めようではありませんか。熟議の国会を実現しましょう」
ちょっと待てよ、という演説だ。菅が言う「共有されている問題意識」とは、消費税の大増税を急がなければならないということに他ならない。

自民党は昨年12月「わが党の基本方針」を発表した。その中にはハッキリ、「社会保障の充実と財政健全化、そのために不可欠な消費税を含む税制抜本改革」が謳(うた)われている。自民党が目指すべき課題も列挙されていて、雇用創出、地域経済再生、安心できる社会保障の再構築、財政健全化などの文言が並ぶ。菅の演説と同じじゃないか。

日米同盟の深化も一緒だし、民主と自民は一体どこが違うのか。菅がマニフェストを放り投げ、増税と米国追従に舵切りしたために、両党はほとんど政策的な差異がなくなってしまったのである。そんな両党が小沢問題だけで、「招致だ」「いや喚問だ」とやりあっている。国民はドッチラケだ。

◆官僚主導で自民に熟議を呼びかけるペテン

政策研究大学院大学客員准教授の原英史氏が言う。
「民主党と自民党の政策が非常に似通ってきたことの象徴が与謝野大臣の入閣です。ちょっと前まで自民党で経済政策を担っていた人が入閣したわけですから、両党の政策が同じになるのは当たり前です。これは菅首相がスリ寄ったというより、両者の背後にいる財務官僚の振り付けでしょうね。結局、政治主導の看板を下ろした民主党は官僚主導になり、経済政策も外交政策も官僚が仕切るものだから、かつての自民党と同じになってしまったのです。民主党は国民に約束した政策は何ひとつ実行せず、いきなり目くらましのように消費税やTPPを出してきた。これも官僚主導でしょうが、いずれも、一部の国民には大変な痛みを強いる。国民の理解を得ることが大前提なのに、その手続きをすっ飛ばし、官僚の言いなりで政策転換し、自民党に熟議を呼びかけている。まともな論戦になるわけがなく、それをゴマカすために小沢問題を持ち出しているのです」

菅内閣は今さらのように「あるべき社会保障の議論」とか言い出しているが、与謝野が「安心社会実現会議」でつくったものの二番煎じになるんじゃないか。国民を愚弄した話である。
菅民主党に求められているのは、小沢問題でバカ騒ぎすることではなく、マトモな経済、景気、外交、社会保障政策を政治主導で打ち出すことだ。とはいえ、世紀の変節首相にそれを期待するのは無理だろうから、こんな亡国・変節首相は早く辞めさせた方がいい。

いずれにしても、小沢叩きに血道を上げ、増税路線にひた走る民主党を見ていると、ガックリする。民主党は次の選挙で国民から鉄槌を食らうことを覚悟すべきだ。



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