政治のプロも呆れてます(週刊現代)

民主党よ、もう君たちには頼まない

高橋洋一 × 田崎史郎

財務省の思い通りになった

田崎 菅改造内閣が1月14日に発足しましたが、まあ、これほど晴れがましさに欠ける内閣改造もないでしょう。問責決議を受けた仙谷由人官房長官(改造前)と馬淵澄夫国交相(同)を辞めさせない限り、国会の審議入りができないという状況に追い込まれての改造ですし、しかも閣僚名簿を見れば、一目で「ああ改造は失敗したな」とわかるような顔ぶれです。

高橋 変なサプライズもありましたね(笑)。よりによって、民主党政権打倒を主張してきた与謝野馨さんを経済政策の司令塔(経済財政担当相)に起用した。

田崎 ええ、新しく大臣になった4人は、全員が「○○なのに、なぜ?」と疑問符のつく人ばかりです。与謝野さんはもちろん「民主党が日本経済を破壊すると批判していたのに」、枝野幸男官房長官は「去年の参院選大敗の責任者(幹事長)なのに」、江田五月法相と中野寛成国家公安委員長に関しては「参院議長、衆院副議長として立法府で位階を極めた人なのに」。これほど酷(ひど)い改造は、ちょっと記憶にありません。

高橋 ついでに言えば、参院選の選対委員長だった安住淳防衛副大臣が国対委員長に就任したのも、無反省の表れですね。要は、手詰まりなんですよ。私は小泉内閣の竹中平蔵経済財政担当相の補佐官、安倍内閣の内閣参事官として政権を内側から見ましたが、政権末期になると、いくら大臣ポストというエサをまいても人は寄り付かない。泥船に乗るようなものですからね。唯一、いつも乗ってくるのが与謝野さん(笑)。

田崎 小泉内閣では総務相に横滑りした竹中さんの後任として経済財政担当相になり、安倍内閣では参院選惨敗後に官房長官に就任、福田改造内閣と麻生内閣でも経済財政担当相をやっていますね。麻生内閣を除けば、確かに政権の末期になると入閣しています。

高橋 小泉内閣は最後の1年だし、安倍、福田内閣は与謝野さんの入閣後1ヵ月以内に退陣表明に追い込まれた。麻生内閣なんか最初から倒れていたに等しい状態でしたしね。
田崎 与謝野さんは政権の貧乏神なんだ。

高橋 ある自民党関係者は「政権の墓掘り人」と呼んでますね(笑)。与謝野さんは、あわよくば政権を乗っ取ろうという野心があるから寄ってくるんでしょう。

田崎 確かに、そのときどきの権力者に取り入ることに長(た)けた人ですね。梶山静六さんが注目を浴びると、それまであまり親しくなかったのに誕生日に駆けつけて、祖母である与謝野晶子直筆の色紙をプレゼントしたんです。梶山さんは感動していました。

高橋 マスコミ操作も上手です。リークして記者を喜ばせて、取り込む。だから、記者たちは与謝野さんを「政策通」と呼ぶ。

田崎 テクノクラートとしては政治家でナンバー1と言われています。

高橋 確かに、役所の言葉が通じるという点では、政治家ナンバー1でしょう。しかし、小泉内閣の経済財政担当相当時の与謝野さんとは、政府系金融機関の統廃合をめぐって毎日のように大臣室で議論になりましたが、一度もまともな政策論になったことがありません。いつも二言目には「財務省の○○君は了解しているのか」。つまり、決して自分で判断しないんです。財務省の言いなりですから、いったいどこが政策通なんだか、私にはちっともわからなかった。

田崎 ほお、そんなことがありましたか。

高橋 これまでも「デフレでも増税できる」とか「埋蔵金は霞が関の伝説だ」「リーマンショックは蚊に刺されたようなもの」とか、財務省の言いなりになってトンチンカンな発言ばかり繰り返していますよ。今回も社会保障と税の一体改革をすると言っていますが、その内容は増税によって財政収支均衡を果たし、年金は現行制度を維持するということで、すべて財務省の主張そのものです。まあ、菅総理自身が財務省にすっかり洗脳されているし、大蔵省OBで財務省の守り神のような藤井裕久元財務相まで官房副長官に起用したくらいですから、増税一直線内閣であることは間違いないですね。

筋が通らないことばかり

田崎 与謝野さんに対しては、自民党が早くも問責決議案を出すべく準備しています。与謝野さんは小選挙区東京1区で民主党の海江田万里経産相(改造前の経済財政担当相)に敗れ、比例代表の自民党枠で復活当選した議員です。それが「たちあがれ日本」を経たとはいえ、あろうことか民主党政権に大臣として加わるんですから、政治家としての資質を問われるのは当然と言えば当然です。

高橋 与謝野さんは自民党時代に、母親からの資金提供を申告していなかった鳩山由紀夫総理(当時)のことを「平成の脱税王」と非難しましたが、今は自民党から「平成の議席泥棒」と呼ばれていますね。

田崎 どうしても政権入りしたいのなら、議員辞職して民間人として入閣するのが政治家としての筋ですよ。それに、与謝野さん起用については民主党内でも顰蹙(ひんしゅく)をかっているから、ことは深刻です。菅総理は新内閣を「最強の体制」と言いましたから、民主党の412人より与謝野さんのほうが優秀だと認定したようなものです。小沢一郎元代表に近い原口一博元総務相はもとより、菅総理支持の渡部恒三最高顧問でさえ、不快感を表しましたから。

高橋 渡部さんは『時事放談』(TBS)で、「卑しい」とまで言った。その後、「応援する」と発言を軌道修正しましたが、本気で腹を立てたんでしょうね。

田崎 私は江田さん、中野さんの入閣についても大いに問題があると思います。'89年にリクルート事件で政治不信を招いた責任を取って竹下登総理が退陣しましたね。その際に自民党は、学究肌でクリーンなイメージの坂田道太元衆院議長に後継を要請しましたが、坂田さんはこれを「だめだ」とはねつけたんです。「議長は国権の最高機関である国会を代表している。三権分立のなかでも立法府(国会)の議長は行政府の首相や司法府の最高裁長官よりも上位にある。議長経験者が首相になれば、議長の職をおとしめることになる。これだけは筋を通す」と言ったんです。

高橋 まさに政治家の矜持ですね。

田崎 そのとおりです。菅政権には起用するほうもされるほうも、この「筋を通す」というプライドや覚悟がない。与謝野さんにしても同様ですよ。与謝野さん72歳、中野さん70歳、江田さん69歳。そんなベテランが揃いも揃って、誰一人として筋を通そうという気概がない。がっかりしますね。

高橋 みなさん、先がない人たちだから欲が出ちゃったんでしょう。起用する側も、泥船にはなかなか乗り手がいないから、欲の見える人に声をかける。政権が末期であることの証明なんですね。ただ、菅総理自身は末期だと思っていないようですが……。

田崎 「小沢斬り」を決意した昨年暮れ以降、異常にテンションが高いですね。13日の民主党大会でも高揚して演説していましたが、菅総理は激しい言葉で話せば相手に伝わると思い込んでいる。現実は、拍手はまばらだし、後ろの席では寝ている人もいた。税制抜本改革に向けた与野党協議について「野党が参加しないなら、歴史に対する反逆行為だ」と、まるで与党に非はないかのように言い放ちましたが、ピントがずれていますね。
高橋 取ってつけたような言葉も多い。そもそも総理になって何をやりたいのかを考えていなかったんでしょう。小泉政権が郵政民営化をやったように、政権はなにか一つでも成し遂げられれば上等なんです。菅総理にはその「一つ」がないから言うことがコロコロ変わる。マニフェストもコロコロ変えたがる。

田崎 その点で言うと、民主党の目玉公約だった公務員制度改革もいよいよ怪しくなってきました。

高橋 ええ、担当大臣は欲に目がくらんだ中野さんです(笑)。労組が支持母体の中野さんに国家公務員の総人件費2割カットなんてできるわけがない。

田崎 それも心配ですが、あの人が政治家としてどんな実績があるのかと探してみても、何も思い浮かばないんですよ。記憶にあるのは、「私は中野みかんせい(未完成)です」などと、TPOを弁(わきま)えないダジャレを言うことぐらい(笑)。

高橋 安倍内閣で公務員制度改革を手がけた私から言わせてもらえば、鳩山政権が日本郵政の社長に斎藤次郎元大蔵次官を据えたことで、改革なんてなし崩しになってしまった。その後の事例を見ると、自民党時代より悪質。無茶苦茶です。中野さんの担当大臣起用は、この無茶苦茶さにお墨付きを与える意味があるんじゃないですか。「公務員のみなさん、もう心配しないでください。これからは仲良くやりましょう」というメッセージです。

仙谷も仙谷なら、岡田も岡田

田崎 改造について言えば、最大の注目は官房長官だったんですが、結局は仙谷さんの義兄弟のような枝野さんに落ち着いた。もともとこの政権は、主要な問題を菅、岡田(克也幹事長)、仙谷、枝野の4人組で決めていたのですから、今後もなんら変わりはないということでしょう。

高橋 つまり、相変わらず迷走が続く(笑)。

田崎 ただ、官房長官としての能力、責任感は仙谷さんのほうがはるかに高い。仙谷さんには「最後はオレがかぶる」という気概を感じましたが、枝野さんには今のところそれがない。

高橋 枝野さんでは心許ないから、78歳の大ベテラン、藤井さんを官房副長官としてつけたわけですね。官房長官には各省庁から秘書官がついて、そこで相互に調整が図られるのですが、枝野さんは仙谷さんの秘書軍団をそのまま引き継ぎました。この役人たちは情報を誰に上げたらいいのか、ずいぶん考えると思います。枝野官房長官に上げて、それが藤井さん、そして仙谷さんへと回っていけばいいのですが、恐らくそうはならないでしょう。役人はいま、まず最初に藤井さんに上げるべきか、それとも従来通り仙谷さんに上げるべきかで迷っていると思いますよ。彼らだって無駄な仕事をしたくないですから。

田崎 しかも、首相補佐官に就任した細野豪志元幹事長代理は、藤井さんの仕事をフォローするのが役目だそうですから、指揮命令系統がよりいっそう複雑になりましたね。

高橋 政治家をひとり増やせば内閣を強化できるというわけではない。誰が本当にパワーを持っているのか、誰が指揮命令権を握っているのかを周知徹底しておかないと、政治はうまく回っていかないんです。もし、こんな体制で尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件のようなことが起これば、たちまち大混乱に陥りますよ。

田崎 民主党内に目を向けると、こちらも代表代行になった仙谷さんと岡田幹事長のどちらが決定権限を握るのか……。

高橋 微妙ですね。

田崎 当初は、仙谷さんが代表代行と国対委員長を兼務する方向でした。しかし、野党に問責を受けた人物が野党との調整をするというのはいかがなものかということで、仙谷さんが菅総理と相談して兼務を外してもらった。実は、仙谷さんを国対委員長にしようとしていたのは岡田さんです。国対委員長は幹事長の命令に従わなければならない。つまり、岡田さんは仙谷さんを自分の下に置きたかったわけです。

高橋 なるほど。仙谷さんがそうはいくか、と。

田崎 代表代行は組織上、幹事長より上ですからね。

高橋 仙谷さんは官邸に自分の秘書官だった「チーム仙谷」を残したままですから、これからも情報は集まるでしょうね。岡田幹事長が総理と会って話す内容を、岡田さんより先に仙谷さんが知っているという事態が起こると思いますよ。目に見えるようです。

最強? 最凶? 最狂?

田崎 さて、ようやく通常国会で論戦が始まりますが、菅政権はこの国会を乗り切れるんでしょうか。昨年の臨時国会終了後は政権にとっては立て直しの期間だったのに、大連立から小連立に至るまで、すべて相手にふられてしまいました。小沢問題にケリをつけることもできなかった。内閣改造も明らかに失敗でした。こんな状態で、子ども手当の増額や赤字国債の発行を認める特例法案を3月までに成立させるのは至難の業です。

高橋 いや、そこまで政権がもちませんよ。まず、予算委員会で与謝野さんが徹底的に追及される。変節漢ぶりや政治家としての資質はもちろん、民主党の政策との不整合さを衝かれて閣内不一致が明らかになるでしょう。何しろ、与謝野さんの著書(『民主党が日本経済を破壊する』)は野党にとって格好のテキストです。各ページに攻撃のネタがある。野党は楽しくてしかたないでしょう。

田崎 菅政権には、決定的に目測力が欠けているんですよね。公明党はきっと法案に賛成してくれるだろうとか、強硬姿勢をとれば野党は折れるだろうとか、根拠の薄い「期待感」をもとに突っ走る。そしてことごとく失敗してきたのが、これまでの半年間です。今国会も、「予算案を人質にするようなことをすれば野党に批判が行く」と見ている節がある。大甘ですよ。

高橋 変な人が入った「最狂内閣」ですから、仕方ない。ただ、もしもここで人気者の蓮舫さん(消費者及び食品安全・行政刷新担当相)が泥船を見捨てて、都知事選出馬のために辞職しようものなら、弱りきった政権は一気に瓦解しますね。そうなると、今の民主党で大立ち回りができるのは小沢さんしかいないから、小沢さんの求心力が高まるかもしれない。

田崎 そうなんです。世間的には小沢さんは「終わった人」かもしれませんが、永田町的にはまだまだ終わってなんかいません。今国会中に野党から内閣不信任案が出されるということは、民主党でもほとんどの議員が確信しています。その時点で仮に小沢さんが離党していても、小沢グループが不信任案に賛成票を投じれば政権は潰れるわけです。内閣総辞職か、民主党分裂か、あるいは解散総選挙か……春先から非常に緊迫した局面になることは間違いない。

高橋 それなのに目測力のない菅総理は、あまり危機感を感じていない(笑)。菅総理に代わる人がいないから安心しているのかもしれませんが。

田崎 菅さんはインターネット動画番組で過去の総理が辞めた理由について「『これ以上やってもダメだ』と気持ちが萎(な)えるんです」と語った上で、「でも私のような変わり種がなったんですから、徹底的にやってみようと思う」、つまり、気持ちが萎えても辞めないと宣言したんですね。政権がヨレヨレになっても総理だけは辞めないとなると、民主党は「ポスト菅」どころではなくなります。もう民主党には任せられないと、民主党自体が国民から愛想をつかされるでしょう。


たざき・しろう
1950年生まれ。時事通信解説委員。著書に『梶山静六 死に顔に笑みをたたえて』『政治家失格 なぜ日本の政治はダメなのか』など

たかはし・よういち
1955年生まれ。内閣参事官などを経て嘉悦大学教授。著書に『さらば財務省!』『消費税「増税」はいらない!』など多数