菅政権「内部から崩壊」の山場は2月過ぎ「解散か総辞職か」を迫る谷垣自民党よりも怖い「敵」

長谷川幸洋「ニュースの深層」
(現代ビジネス2011年01月28日) http://p.tl/ngcH

 国会論戦が始まった。

 この国会は文字通り、菅直人政権の命運を左右する。自民党の谷垣禎一総裁がどう攻めるか注目したが、はっきり言って空回り感が強い。この調子だと、いずれ「弾切れ」にならないか。どうも先行きが心許ない。

 谷垣は税と社会保障をめぐる与野党協議について「ばらまきのための財源調達を手伝うわけにはいかない。6月に成案を得るとの約束をなし得なかった場合には辞職するか、信を問うために解散するか」と菅に迫った。

 与野党協議を拒否しただけでなく、菅に解散・総選挙か内閣総辞職を求めた格好だ。その気持ちは分からなくもない。

 だが、見ている国民の側は「さあ、いよいよ戦いが始まった」と盛り上がっていたのに、いきなりドラマの結末を見せられたようで、なんだかシラけてしまうのである。

 攻める側はもっと国民の関心を引きつけるように、脚本、演出に工夫を凝らさなければいけない。あの手この手で攻め立て、ときには予想外の幕間劇も織り込んで、最後の最後に「どうだ、まいったか!では、解散するか内閣総辞職するか!」と見栄を切ってほしいのだ。

 そうなってこそ、政局がおおいに盛り上がる。

 とまあ無責任な言い方をしたが、政治にドラマ性を期待するのも「国民の関心があってこその政治」だと思うからだ。面白くない政治は、やはり良くない。

 谷垣の攻め方がつまらないのは、政局の核となる部分を見誤っているからではないか。政権は野党の攻撃では倒れない。いまの段階で、いくら谷垣が「解散か総辞職を」なんて拳を振り上げたところで、菅は痛くもかゆくもないはずだ。

 菅には、まだ予算案修正という切り札がある。その出来上がり具合によっては、公明党が参院で賛成に転じるかも知れない。そうなれば、政権は延命できる。

 野党の攻撃によってではなく、政権が倒れるのは、いつも内部の反乱からだ。いまの政権に即して言えば、命運を左右する政局の核心は自民党をはじめとする野党の出方ではない。民主党の内紛である。そこに目を凝らす必要がある。

 具体的に言おう。

 菅政権は税と社会保障の与野党協議だけでなく、野党の要求に応じて早くから予算案の修正に応じる姿勢を示してきた。自民党や公明党がどう出るかはもちろん重要だが、それ以上に鍵を握るのは、民主党内で税と社会保障改革の具体像や予算修正案がまとまるかどうかではないか。

 両者は密接に絡んでいる。

 菅政権が「社会保障のために消費税引き上げへ与野党協議を」と言うなら、谷垣自民党は先にみたように「まず子ども手当や高速道路無料化のばらまきを止めよ」と切り返す。つまり、予算案の修正である。

 菅とすれば、先に予算案を通すほうが重要なので結局、税と社会保障問題に手を付ける前に予算案修正協議を始めなければならない。ところが、野党と話をするにはまず、身内の与党内で予算を修正するかどうか。修正するならどこを見直すのか、話をまとめなければならない。

 そこが問題なのだ。


■予算案修正に小沢グループの反発

 昨年の民主党代表選で小沢一郎元代表をかつぐグループは2009年政権公約(マニフェスト)の堅持を唱えた。もしも菅や仙谷由人代表代行が子ども手当や高速道路無料化の見直しを言い出せば、小沢グループの反発は避けられない。

 それでなくても、小沢グループは一連の小沢問題で菅や仙谷にさんざん痛めつけられてきた。ここぞとばかり、見直しに抵抗するだろう。

 仙谷たち反小沢グループは「小沢のカネ問題」でこそ攻勢をかけられたが、公約見直しとか予算案修正となると、これは政策路線の問題である。簡単にはいかない。子ども手当には「社会全体で子どもを育てる」という理念も絡んでいる。「カネがないからできない」などという単純な理屈では見直せない。高速道路も同じである。

 加えて「与謝野問題」がある。

 与謝野馨経済財政相は子ども手当など一連の民主党政策をばらまきと厳しく批判してきた。入閣したとはいえ、与謝野は民主党の政策をどう評価するのか。歳入側の消費税引き上げだけを訴えて、裏側にある歳出政策の扱いには口を閉ざすのだろうか。自民党はじめ野党には、ぜひ与謝野に問いただしてもらいたいところだ。

 もしも与謝野が持論にこだわって民主党のばらまき政策を批判するなら、党内の反与謝野感情に火がつくのは避けられない。もともと民主党の大勢は与謝野入閣を「冗談じゃない」と思っていたに違いないのだから。

 そういう事態が2月半ばにもやってきそうだ。

 衆院で可決すれば30日で自然成立するという憲法の規定から、2011年度予算案を年度内に成立させるには、3月2日が衆院通過のタイムリミットになる。すると、予算案を修正したうえ成立を目指すには、どんなに遅くても2月半ばには野党と修正協議を始めないと間に合わないからだ。

 実際には、与党内の修正協議と野党協議が同時進行のような展開になるだろう。


■脱官僚のはずがいつのまにか大増税に

 そこで菅政権が本当に困るのは、野党よりも与党内からの抵抗である。だからこそ、剛腕で乗り切ろうと仙谷を代表代行に据えたのかもしれない。

 だが、党には仙谷だけでなく岡田克也幹事長もいる。岡田と仙谷は先の内閣改造でも、さらに前の菅政権発足時の党・内閣人事でも主導権を握ろうと水面下で火花を散らした。さらに与謝野や枝野幸男官房長官らも巻き込んで、予算案修正で激しい主導権争いが繰り広げられそうだ。

 この予算案と公約修正問題が、痛め続けられてきた小沢グループが逆襲に転じる絶好のチャンスになるのは言うまでもない。

 3月の年度末、4月の統一地方選と政局のヤマ場はその後も続く。菅政権がどこまで耐えられるか。

 谷垣自民党はじめ野党は「解散か総辞職か」などと、いまから大上段に振りかぶる必要はない。民主党は予算案をどうするのか。修正するなら09年政権公約はどうするのか。与謝野はどう考えるのか。国家公務員の総人件費2割削減や国会議員の定数削減は。まずは、そうした基本政策をじっくり問い質すべきだ。

 民主党は脱官僚を唱えて政権交代を実現しながら、いまや官僚依存の大増税路線に転換した。結局のところ、国民が菅政権に一番、矛盾を感じているのも、その点にある。そういう矛盾が浮き彫りになれば、菅政権の内部崩壊プロセスもおのずと加速していく。

 (文中敬称略)