●菅首相、またも「ブーメラン現象」 国債格下げに「疎い」発言
(J-CASTニュース 2011/1/28 19:50)http://p.tl/akni

日本国債の格付けが引き下げられた問題で、菅首相が発した「そういうことに疎い」という発言が波紋を広げている。菅首相や閣僚は防戦一方だが、野党時代には、国債の格付が引き下げられたことに対して、当時の政府を「能天気な総理や財務大臣」などと猛烈に批判してきた。いわゆる「ブーメラン現象」が、またしても発生した形だ。
米格付け会社のスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は2011年1月27日夕方、日本の長期国債の格付けを「ダブルA」から「ダブルAマイナス」に1段階引き下げたと発表した。「ダブルAマイナス」は上から4番目で、サウジアラビア、中国、台湾などと同じ水準だ。S&Pの発表では、「格下げは、日本の政府債務比率がさらに悪化するとのS&Pの見方を反映している」とあり、財政赤字が減少する見通しがたたないことを格下げの背景として指摘。さらに、
「民主党率いる連立与党が参議院選挙で過半数議席を確保できなかったこともあり、民主党政権には債務問題に対する一貫した戦略が欠けているとS&Pは考えている」
として、格付けの背景には、民主党への不信感があることも指摘している。
格下げ発表は囲み取材の1時間前

菅首相のウェブサイトのコラムが「ブーメラン」だと波紋を呼んでいる
発表後に官邸で行われた囲み取材での発言が、批判を浴びることになった。記者から
「本日ですね、アメリカの格付け会社、スタンダード・アンド・プアーズが、日本国債の長期格付けを下げたんですけれど、これに対する受け止めを聞かせてもらえますか?」
と問われると、財務相経験者でもある菅首相は一瞬、沈黙した後に、
「そのニュース、今初めて聞きまして、あのー、今、本会議から出てきたばかりなんで、ちょっと、そういうことに疎いんで、ちょっと、改めてにさしてください」
と述べた。
この発言を翌1月28日の参院本会議で、公明党の山口那津男代表が「耳を疑った」と批判すると、菅首相は、
「格付けの変更について聞いていなかったということを申し上げたものでありまして、『疎い』というのは情報が入っていなかったことを申し上げたものであります」
などと釈明。
だが、格付けの引き下げが発表されたのは16時51分で、衆院本会議が終わったのが17時26分。囲み取材が行われたのは、18時2分から8分にかけての6分間だ。つまり、囲み取材の段階では、発表から1時間以上、国会が終わってからも30分以上経過している。
仮に菅首相が、囲み取材で初めて格下げのことを聞いていたとしても、官邸の情報収集能力が問われる可能性もある。なお、「広辞苑」第6版によると、「疎い」の項目の最初には、「その人(事)に関係のうすい状態をあらわす語」と定義されている。

「能天気な総理や財務大臣には分かっているのだろうか」

だが、菅首相は野党時代の02年5月に、国債の格下げをめぐって政府批判を展開したことがある。ウェブサイトのコラムでは、格下げの原因について
「景気回復が見込めず財政悪化に歯止めがかからないと見られた結果」
と指摘。現在の経済状況と同様だ。さらに、
「外国に資金が流出し始めれば一挙に国債は暴落する恐れがある。能天気な総理や財務大臣には分かっているのだろうか」
と威勢良く、当時の小泉純一郎首相らを批判している。このことから、ネット上では「9年越しのブーメラン」とやゆされるという有様だ。
なお、今回の問題で、野党側はさらに攻勢を強めたい考えで、谷垣禎一総裁は、1月28日夕方、ツイッターに
「私は本音がポロリと漏れたと理解します。市場に対する誤ったメッセージになる極めて軽率な発言であり、総理としての資質が問われます」
と書き込み、改めて菅首相への批判を展開した。



●訂正:首相の「疎い」発言に市場冷ややか、国債格下げで気迷いも
(ロイター2011年 01月 27日 21:21) http://p.tl/5WGD

 [東京 27日 ロイター] 「やはり来たか」。米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)による日本国債格下げは、昨年末から市場でにわかに取りざたされ、「疎かったのは菅直人首相だけでは」(邦銀)と冷ややかだ。しかし、今後の長期金利の推移には、不透明感が漂う。

 S&Pが格下げ対象にした日本の長期国債格付け。従来の「AA」から「AAマイナス」に1段階引き下げられたが、機械的に投資対象から外されるダブルA格ラインは死守した。

 国債相場への悪影響について、専門家は一様に限定的と読む。BNPパリバ証券東京支店の島本幸治・投資調査本部長は「日本の財政規律に対して警鐘を鳴らしたが、長期金利が跳ね上がることはないだろう」と予想する。

 日本国債をめぐっては、ムーディーズ・インベスターズ・サービスが2002年にシングルA格に引き下げたが(訂正)、長期金利はむしろ低下基調をたどった。みずほ証券の高田創チーフストラテジストは「S&Pは、財政状況の悪化を格下げ理由にしており、PIIGSで問題となっている経常収支の赤字とは趣が異なる。これで、長期金利が上昇基調に入るかどうかは懐疑的だ」と話す。

 初めて聞いた。そういう話には疎いので、ちょっと(質問は)またあらためてにさせてほしい――。27日夕、日本国債の格下げについて、記者団に問われた菅直人首相の発言をめぐり、大手銀行で市場部門を担当する関係者からは、こんな声が漏れた。「寝耳に水だったのは菅首相だけ。昨年末にうわさが出た段階でプライスイン(織り込み)されており、記者団に『今、初めて聞いた』と答えてしまう首相の見識は、にわかに信じ難い」。

 外資系金融機関の債券ディーラーは「新手の(為替)口先介入であって欲しい」と困惑する。

 とはいえ気迷いはある。キャッシュ(現物国債)の9割超を国内投資家が保有する状況だが、国債先物や金利スワップを巧みに組み合わせた売り仕掛けが、長期金利を押し上げかねない。海外の年金基金がどう動くかも、実際には読み切れない。

 「アセットマネジメントの一環として、日本国債を売却する一方、トレジャリー(米国債)やブンズ(独国債)を購入する動きが強まれば、無傷ではいられない」(前出の外資系金融機関)との声もある。

 (ロイター・ニュース 山口貴也;編集:伊賀大記)

 *訂正:4段落目の「日本国債は2002年にはシングルA格に引き下げられた」との記述を「日本国債をめぐっては、ムーディーズ・インベスターズ・サービスが2002年にシングルA格に引き下げた」に訂正します。