「新・4人組」早くも内部抗争!小沢の次に消されるのは岡田だ
民主党政権、そして誰もいなくなる

永田町ディープスロート 週刊現代
(現代ビジネス2011年01月31日) http://p.tl/bhiN


菅・岡田と仙谷・枝野、4人は「反小沢」以外、同床異夢

 小沢を葬り、ひと段落かと思いきや、そうではない。マフィアの抗争と同じ。共通の敵がいなくなれば、銃口は仲間に向けられる。そのことに気づいている男がいる。撃たれる前に撃て。仙谷は動き出した。

政権たらい回しを宣言

< だが、こうして脅し文句を並べているかぎり、相手はびくともせぬ。言葉というやつは、実行の熱をさますだけだ。さ、行け、それで、終りだ。鐘がおれを呼んでいる。聴くのではないぞ、ダンカン、あれこそ、貴様を迎える鐘の音、天国へか、それとも地獄へか >

 これは、シェイクスピア四大悲劇の一つとして名高い『マクベス』中の一節だ(訳:福田恆存)。荒れ地の魔女の囁きによって王殺しを決意したマクベスは、血塗られた道に踏み出すことに恐れ慄く自分を、こう言って無理矢理に鼓舞し、ついに王を暗殺する。


 この「ダンカン」という王の名を、「小沢一郎」としてみると、何やらそれは、菅直人首相の心の叫びのようでもある。

 小沢氏の失脚により、これまで「トロイカ+α」(菅、小沢、鳩山由紀夫、輿石東各氏)で運営されていた民主党政権の実権は、「新・4人組」と呼ばれる勢力に移行した。

 「4人」とは、菅首相と岡田克也幹事長、そして仙谷由人党代表代行と枝野幸男官房長官のことだ。

 かつて自民党政権にも、「4人組」が存在した。'00年に小渕恵三元首相が倒れた際、密室で談合し、次の首相を森喜朗氏に決めた、森、野中広務、亀井静香、村上正邦各氏らのことである(青木幹雄氏を含めた「5人組」とも言われる)。

 国民に信を問うことなく、幹部のみで事を決め、政権をほしいままにする。森=菅、野中=仙谷といった具合に、民主党政権も"いつか来た道"を辿り始めた。


 ただ、自民党の旧4人組と、現在の民主の新4人組が異なるのは、その4幹部の目指すところに、大きな隔たりがあるということ。

 自分の保身が第一の菅首相。内心、それを見限っている仙谷氏。"次"を窺う岡田氏、枝野氏。そこではすでに、分裂の火種が燻り始めている---。

■第1幕 王殺し

 1月14日に内閣改造に踏み切った菅首相だったが、その評価は極めて低い。

 新たに入閣したのはたった4人。しかも、そのうち3人は与謝野馨経財相や江田五月法相、中野寛成国家公安委員長といった"ロートル"だ。そして、残る一人の枝野幸男官房長官も、昨年7月の参院選大敗の戦犯だという、まさに「廃材内閣」である。

 ただ、そうした中で、なぜか妙に機嫌が良い人物がいる。官房長官を更迭されたはずの、仙谷由人・民主党代表代行だ。

 組閣翌日の1月15日は、仙谷氏の65歳の誕生日。これに先立ち、組閣真っ最中の14日午後、仙谷氏は議員会館内の自室で、親しい記者たちからマグカップなどの誕生祝いを受け取り、相好を崩していた。

「枝野が会見で緊張してた? 僕だって最初の時は緊張したよ。人間もライトも数が凄いしさ。長官は普段の会見から大変なんだ。どんな質問に対しても準備しておいて、すぐ答えなきゃいけないし。でも、そんな全部知っているわけないだろ」

 ねじれ国会の運営に苦しむ菅首相は、「小沢切り」と同時に「仙谷切り」にも踏み込んだ。仙谷氏本人は、直前まで官房長官続投を希望していたと言われる。だが、西岡武夫参院議長が烈火のごとく怒って仙谷続投を批判したこともあり、保身第一の首相は、仙谷氏を更迭した。

 しかし、仙谷氏の表情は明るい。

「大政局を起こさないと、日本の政治は変わらない。日本の政治は漸進主義というか、弥縫策の繰り返し、その場しのぎの政治が続いて来た。だから僕は、ドーンと行って、ごちゃごちゃ言ってる奴らを正面突破したいと思っていた。でもまあ、"ちょっと変わった議長"とかもいらっしゃるし、難しいね(笑)」

「解散なんて絶対にしないよ。300議席も持ってたら、世論がどんなに非難しようが解散なんてするわけない。結局、権力を持っているほうが強いんだ。もし追い込まれたら、"政権のたらい回し"をするだけだ」

 溢れ出る傲慢と自信。これが、官房長官をクビにされ失脚したはずの政治家の言とはとても思えない。

 しかし、それはそうだ。仙谷氏の後任は、"子飼い"と言ってもいい枝野氏。首相官邸は事実上、いまでも仙谷氏の完全コントロール下にある。さらには党の代表代行として、逆に自由に動き、発言し、裏工作ができるポジションを得た。

 そして何より、仙谷氏が身を引くことで、その最大の政敵・小沢氏はいよいよ進退窮まった。仙谷氏が表向き政府を去ることで、野党の攻撃の焦点は強制起訴を待つ小沢氏の動向に移った。離党か、除籍か。小沢氏は最大の政治生命の危機を迎えている。


 『マクベス』の荒れ地の魔女のように、"王(小沢)殺し"を菅首相に使嗾し、それを実行せしめた仙谷氏にしてみれば、官房長官の肩書と引き換えに、大きな果実を得たのである。

岡田は仙谷の下である

 権力を掌握した民主党の新4人組が、真っ先に着手したのは「小沢一派の完全排除」である。

「ふつう、通常国会の常任委員会・特別委員会のメンバーは、前年の臨時国会での所属が継続されます。ところが現執行部は、今度の通常国会で、これを変えると言い出しました。しかもそれに先立ち、各議員に希望する委員会を申告するよう用紙が配られましたが、そこに予算委員会と政治倫理審査会の項がないんです。つまり、小沢氏の国会招致に絡む委員会は、執行部の一存で決めるということです」(民主党若手代議士)

 これまでは、予算委員会や政倫審のメンバーに少なからず小沢派の議員がおり、小沢氏を政倫審に呼んだり、国会に証人喚問するための障害になっていた。

「それを徹底的に排除するということです。外された議員の中には、別に小沢派でもない、中間派の人もいます。そういう議員まで執行部は排除し始めた。反小沢派だけで、政権を牛耳ろうというんですよ」(同)

 党名を変更したほうがいいような、非民主的方向に走る執行部の強硬姿勢の背後には、もちろん、「小沢切り」に猪突猛進する菅首相の強い意向がある。

 最近、菅首相は周囲に、

「ジンギスカンは、馬を下りて(政治をするようになって)からが大変だった」

 などと、自分をモンゴルの英雄「蒼き狼」に見立てているという。さらに、

「これからは権力を握る」

 と、事実上の"独裁宣言"までしてみせた。これではやはり、何か妄執に囚われているとしか思えない。

「見かねた首相の側近議員の一人が、『やはり挙党一致と言った以上、小沢派の切り捨てはよくない。もう少し配慮はできないのか』と苦言を呈した際も、『小沢を切れば支持率は上がる。小沢を切れないようでは、俺の立場がもっと悪くなる』と、まったく聴く耳を持たなかったそうです。『ここまで話がこじれたら、もう小沢を切るしかない。挙党一致なんてムリなんだ』と」(民主党中堅代議士)

< 一太刀あびせただけで、蝮はまだ生きている。傷口が癒えて生きかえりでもしてみろ。手を出したこっちは、いつまたその毒牙にかかるかしれたものではない。いっそ秩序の枠もこわれ、天地も滅んでしまうがいい。安んじて三度の食事もとれず、夜ごとの眠りも悪夢にさいなまれるくらいなら >

 王を暗殺したマクベスは、その秘密と手に入れた王の座を守るため、同僚まで殺してしまう。一度その手を血で染めた者は、罪悪感と恐怖から自制心を失い、暴走を始めるのだ。シェイクスピアが『マクベス』を書いた400年前から、権力の妄執に憑かれた政治家の行動パターンは、どうやらそれほど変わらない。


「外交でせっせと点数稼ぎに励む前原"次期候補"」

■第2幕 次の犠牲者

 マクベスが悲惨な結末を迎えるのと同様、菅首相の前途にも、すでに暗雲が漂い始めている。「新4人組」で政権を押さえたはいいが、その4者の間に、早くも分裂の兆しが見えている。

 この4人の中で、完全に浮いた存在になりつつあるのが、岡田幹事長だ。民主党ベテラン代議士の一人がこう語る。

「仙谷氏が代表代行になるにあたり、岡田氏は党本部の幹事長室を仙谷氏に明け渡すことになり、幹事長代理の部屋に引っ越しました。本人は『こっち(旧幹事長代理室)のほうが広いし、職員からも近い』と強がっていますが、"降格"と受け取れないこともない。実際、引っ越し作業をする岡田氏は無言のまま、憮然とした表情で荷物を箱に投げ込んでいて、誰も声をかけることができませんでした」(民主党本部スタッフ)

 前出の仙谷氏の放言を思い出して欲しい。仙谷氏は、「大政局を起こさねばならない」と語り、「菅首相がダメなら政権のたらい回しをする」と宣言した。

 仙谷氏の狙いは、明らかに「小沢を排除した上での政界再編」だ。小沢氏を消し、自分たちが主導の上で自民党や公明党に働きかけ、連立の組み替え、再編を行う。その際、菅首相が邪魔なら、これも排除して、総選挙を経ずに新たな民主党代表を選出し、引き続き実権を握る。そして、その際に仙谷氏が担ぎ出すのは、決して岡田氏ではない。

「仙谷氏の狙いは、次期首相に秘蔵っ子である前原誠司外相を据えることです。そのために、江田法相が就任するとも言われた官房長官に、同じ凌雲会(仙谷氏が実質的な領袖の前原・枝野グループ)の枝野氏を押し込んだ。自分は代表代行として党務を総覧し、官邸は枝野氏を使ってコントロールする。まさに"仙谷支配"です」(民主党閣僚経験者)

 自分の子飼いである前原氏や枝野氏に実権を握らせようと図る仙谷氏にとって、代表経験者でもある岡田氏は、小沢"亡き"後、はっきり言って邪魔な存在だ。それを岡田氏も察知しており、今度の組閣でも、そこはかとない抵抗を試みたという。しかし、原理主義者で柔軟性がないと言われる岡田氏は、融通無碍の仙谷氏の敵ではなかった。

「党内を自由に動き回られると困るので、岡田氏は仙谷氏を国対委員長にして動きを封じようとしましたが、仙谷氏が受けなかった。さらに岡田氏と玄葉光一郎政調会長は、党で消費税論議を仕切る『税と社会保障の抜本改革調査会』の会長に仙谷氏が就任するのを牽制するため、記者団に情報をリークしたりしましたが、結局は仙谷氏本人の意向に押し切られ、税と社会保障も仙谷氏が統轄することになってしまった」(全国紙政治部記者)

 このまま行けば、民主党は4月の統一地方選で、壊滅的な惨敗を喫すると予想されている。落選する地方議員たちのごうごうたる非難の矛先は、菅首相と、幹事長の岡田氏に向かうことになる。「小沢殺し」に続く、「岡田殺し」---。すでに仙谷氏の中では、そこまでシナリオが出来上がっているのだ。

党内の抗争が第一。

■第3幕 そして誰もいなくなる

 仙谷氏が構想する"大政局"にそぐわない者は、次々と消されていく。前段で仙谷氏を『マクベス』の魔女に喩えたが、同氏の政敵から見れば、その冷徹な策略家ぶりは、魔女より遥かに上位の冥界の王・プルートウのようだ。

 小沢氏を消し、岡田氏を除いた後、仙谷氏とその一派にとって、最後に邪魔になるのは、当然、菅首相その人ということになる。

 組閣に"失敗"し、与謝野氏や藤井裕久官房副長官ら、財政再建・増税色が強い内閣を作った菅首相に、民主党内からは異論・反論が続出する。

「『国民の生活が第一。』という、政権交代時のスローガンは、どこかに吹っ飛んでしまった。そもそもの公約だった行政改革などを置き去りにして、消費税アップ路線に突き進む菅政権は、もはや『民主党』とは言えない存在です。これでますます、国民から見放される」(山田正彦前農水相)

 身内の大半が菅首相を見限っていることは、1月13日の党大会で発表された民主党の新ポスターにも表れている。民主党関係者がこう語る。

「新ポスターは6種類ありますが、どれも『地域のことは、地域で決める。』などと文字が書かれただけの、地味極まりないもの。実は、地方から『菅首相では選挙を戦えない』と悲鳴が上がり、首相の顔をポスターに使えなくなったのです」

 つまり菅首相は、世論より先に身内の党員たちから、一足早い"退陣勧告"を突きつけられたわけだ。政権の崩壊は、もはや秒読み段階に入ったと言える。

 それでも菅首相は、
「行けるところまで、闇雲に突っ走る。なんでも思いついたことをやっていく。支持率は気にしない。そうやって仕事をすれば、何か光明が見えてくる」

 などと側近らに話し、強がって見せているという。

 そしてファーストレディの伸子夫人も、そんな夫をけしかけ、妄進に拍車をかけているようだ。1月12日に東京・有楽町の外国特派員協会で会見した伸子夫人は、「できうることをやって玉砕するならいいが、支持率が悪いと批判されて辞めることはあって欲しくないし、あり得ない」と、夫を強烈に叱咤激励した。

 ただ、大罪を犯すことを躊躇うマクベスに対し、< 『やってのけるぞ』と言った口の下から『やっぱり、だめだ』の腰くだけ、そうして一生をだらだらとお過ごしになるおつもり? >と、尻を叩いてけしかけたのもまた、夫人だった。恐妻家は妻の一言によって、道を誤ることもある・・・。

歴史に汚名を残す

 少なくとも菅首相が、次期政権を睨む仙谷氏や枝野氏らから、いまや完全に舐められているのは確かだ。

 枝野官房長官は、就任にあたって内閣官房で行った挨拶で、「自分はせっかち」と言い訳しながら、「皆さん(官僚)から説明を受ける時、"誰か"ほどではありませんが、じゃっかん、イラつくこともあるかもしれない」など、「イラ菅」の異名を取る首相を揶揄した。

「枝野氏は官房長官就任後、官邸のスタッフに対し、『自分と菅首相の意見が分かれた際、どうするかよく配慮して』と、職員からすれば"踏み絵"とも取れるような発言をしたそうです。枝野氏が官邸を仕切り、仙谷氏が代表代行として党を牛耳れば、莫大な官房機密費と政党交付金も、凌雲会の思うがまま。『ポスト菅』に向けた態勢作りは、着々と進んでいます」(官邸関係者)

 菅政権の「終幕」について、政治アナリストの伊藤惇夫氏は、「キーワードは『3』『4』『6』です」として、こう語る。

「菅首相は消費税問題とTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)問題の結論を、6月までに出すと期限を区切ってしまいました。これは両方とも、本来なら内閣が吹き飛びかねない大問題で、2つとも方向性を出すなど至難の業です。

 そのため、まずは予算が成立するかどうかの山場となる3月、そして統一地方選が行われる4月が菅政権の大きな関門であり、それを乗り越えたとしても、6月には前述の両問題で、政権は大きな危機を迎えるでしょう」

 小沢氏を切ると同時に、自分も死に体に陥った菅首相に唯一、残される手段は、破れかぶれの衆院解散だ。

 仙谷氏は、「解散なんてするわけない」と、一笑に付した。だが、政権崩壊に瀕している菅首相にしてみれば、「伝家の宝刀」を抜いて一か八かの勝負をし、奇跡の勝利を収めて求心力を取り戻す以外に、道がないというのも確かなのだ。

 ここまで幾度か触れてきた『マクベス』も、「女の生み落とした者に倒されることはない」という魔女の託宣にすがり、復讐にやってきた先王の息子たちの軍を相手に破れかぶれの決戦に踏み切る。

 しかし、マクベスと対峙した武将マクダフは、帝王切開によって生まれた、「女の生み落とした者」ではない存在だった。マクベスは、ここでようやく魔女に誑かされていたことに気付いて逃げようとするが、そのまま無残に、討ち取られてしまうのである---。

 菅首相に救いがあるとしたら、実在したスコットランドのマクベス王は、実は名君だったと言われること。シェイクスピアは、時のイングランド王がマクベスによって殺された貴族の子孫だったため、それを慮って、あえてマクベスを悪辣な王として描いたという。

「社会保障と財政の問題を解決して歴史に名を残す」と力んでいる菅首相にしてみれば、史実のマクベス王を知れば、大いに勇気付けられるかもしれない。

 しかし、日本国民が望んでいるのは、首相の独りよがりな名誉を後世に伝えることではない。まずは"現在"の国民の暮らしを立て直し、不安を取り除いた上で、なお国家百年の計を立てる。その難題を克服する覚悟と能力がないのに総理大臣の座に居座られては、結局「悲劇」に見舞われるのは国民になる。