前原外相が気味が悪いくらい歓迎、評価されるのはワケがある

[とんでもないことになっている日米関係 ~在米ジャーナリスト 平安名純代~]

(日刊ゲンダイ2011/1/31)

米国が喜びそうなリップサービスの数々
─沖縄県の米軍普天間飛行場の移設問題が一向に前進しないにもかかわらず、大手紙は連日、「日米関係が大きく改善」と報じている。「改善」とは一体、何を意味するのか。それは日本にとっての「改善」なのか。新聞が報じない日米関係の裏側をリポート。
「テレビ映りがよく、いずれ日本の首相になるかもしれない。日本との同盟関係を修復するのは米国にとって得策かもしれない」
前原誠司外相が1月の訪米で「揺るぎない日米同盟の重要性」を訴え、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への参加を日本政府に促すと説いたのを受け保守系の米大手紙ワシントン・ポストの論説委員長はこう言って、期待感を表した。
同紙は米国との対等な関係を訴えた鳩山前首相の在任中は辛辣だった。「日本は衰退していく同盟国」と切り捨てた。それが前原外相就任後は一転、「歓迎ムード」を漂わせている。
夫人を同伴した1月の訪米で前原は、クリントン国務長官をはじめ、ドニロン大統領補佐官やスタインバーグ国務副長官、グレグソン国防次官補といった米政府要人らと会談した。注目を集めたのはホワイトハウスでのバイデン副大統領との会談である。予定外の会談実現に日本メディアはこぞって「米副大統領が日本の外相と会談したのはブッシュ政権の2007年4月以来。米が同盟深化に前向きな外相の姿勢を評価した」と伝えた。

米側は前原の存在をどう捉えているのだろう。

それを読み解くうえで、振り返ってみたいのが、前原がワシントンのシンクタンク「米戦略国際問題研究所」で行った講演だ。
「英語は得意ではありません」と苦笑を交えながら45分間にわたって英語の原稿を棒読みした前原は、まず普天間移設問題の混乱を素直に認め、沖縄県民への理解を求めながら、移設先を県内に定めた日米合意を順守すると訴え、菅政権が思いやり予算を全額計上したと強調し、中国関連の紛争では米国とともに断固とした態度を貫く決意だと呼びかけた。

貿易政策では、初夏までにTPPへの方針を決断するという菅政権の約束を改めて表明。英語は「聞きづらかった」ようだが、菅政権の目標を明示した姿勢が評価された。ある高官は「TPPの成功は、日本が交渉に全面的に参加するかどうかが鍵を握っている。前原氏の主張は米国の期待に応えるものだ」と称えていたし、別の高官は「多くの民主党議員が中国や北朝鮮への脅威の高まりを受けて目を覚まし、日米同盟の重要性を再認識した。前原氏は講演で、『米国は正しい』というメッセージを発信した」とほおを緩めた。
中国やロシアという大国を相手に苦戦する米国にとって、日本は「盾」となる存在だ。前原は「全面支援」を約束したのである。なるほど、日米関係は米国にとって、「改善」するわけだ。

私は「(前原は)テレビ映りがよく、いずれ日本の首相になるかもしれない」という米大手紙記者の言葉は意味深だと思う。

「日本はテレビ政治の国だから」と話す高官に、米国の理想の首相を聞いたことがある。彼は米国と強固な同盟関係を築いたテレビ映りのよい元首相の名前を挙げた。財政赤字にあえぐ米国が前原外相に寄せる期待とは果たして何か。米国の言いなりで格差を助長した元首相と前原の顔がダブってくる。(つづく)


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