危うい集団的自衛権に踏み込もうとする前原外相の言動
[とんでもないことになっている日米関係 ~在米ジャーナリスト 平安名純代~]

(日刊ゲンダイ2011/2/1)

「日本には『アー、ソーデスカ』とうなずくだけの政治家が多いが、前原氏は『日本は米国との価値観の共有を重視する同盟国だ』という明確なメッセージを発した。われわれが求めていたのはそういう相手だ」 9月の就任以来、米国に何度も足を運んだ前原外相は、どうやらそんな評価をワシントン界隈で手にしたようだ。それでは、米国が日本と共有したい「価値観」とは何なのか。

対中関係における“共闘”相手ということになるかもしれない。
オバマ政権は中国との関係強化を目指しながらも、同国の北朝鮮やイランに対する政策に不満を抱き続けている。人民元問題でも、なかなか腰を上げようとしない中国にイラついている。そんな折も折、領有権を声高に主張する中国に対するアジア諸国の警戒感が高まった。

1月にワシントンで開かれた日米外相会談では、クリントン国務長官が名指しを避けながら中国の覇権主義を批判したのに対し、前原はすぐに反応した。「潜在的な共通の敵」に対する「戦略的環境」を整えるため、「日米が共同で防衛体制を強化するべきだ」と踏み込んだのである。これは広義の集団的自衛権の行使と表裏一体の発言だ。

前原は北朝鮮と話す意思まで見せて、米国の関心を日本に手繰り寄せることに成功した。日米関係の改善とは、こうしたことを指すのである。
首相がめまぐるしく代わる日本で、菅政権がいつまで続くのかはわからない。米国もその辺は、慎重に見ている。

しかし、少なくともはっきりしているのは、米国との対等な関係を目指し、アジア隣国との関係強化の姿勢を打ち出した鳩山前政権とは違うということだ。前原は米国を支援することをあからさまに言明し、菅政権の各閣僚も米国追随で動いている。ウィキリークスが昨年11月に暴露した外交公電で、キャンベル国務次官補が韓国に対し、「話をするなら、岡田か菅だ」とそっと耳打ちしていた事実が示すように、こうした政権の誕生を望んだのは米国なのである。

◆米国の意に沿う姿勢が国益か

ある米政府筋はこう話す。
「党内で岡田氏より支援者数が多かった菅氏が首相になったが、カリスマ性が足りない。その点、見栄えのする前原氏はテレビを通じて国民に愛される指導者となる要素を備えている」
手放しの褒めようではないか。

米国は対中政策で何度も暗礁に乗り上げた。米韓FTA交渉ではソウルで開かれたG20で最終合意を目指したにもかかわらず、牛肉問題が壁となった。こうして煮え湯を何度となく飲まされている米国にとって、前原は頼もしく見えるのだろう。夏までに環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への参加方針を決断すると表明し、それを受けて菅首相がダボス会議で参加の意欲を表明する段取りまで整えてくれたからだ。米国務省筋はわかりやすい言い方をした。
「前原は米国の意に沿って動き、政治的な行き詰まりを打破してくれる。そういう期待に応える存在だ」

もっとも、こうした米国追随で日本がどれだけのメリットを得られるのかというと別問題だ。オバマ大統領は先の一般教書演説で中国と韓国の名を挙げ、関係改善における取り組みへの意欲を示した。しかし、ついに最後まで日本の名前を口にすることはなかった。これが日米関係の現実である。(つづく)



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