エジプト大統領が9月の辞任表明:識者はこうみる
(ロイター2011年 02月 2日 09:46) http://p.tl/MDzw


[1日 ロイター] エジプトのムバラク大統領は1日、テレビを通じ演説し、再選を目指さない方針を表明し、任期終了までの数カ月は権力の継承に取り組むと言明した。大統領選は9月に実施が予定されている。

 ムバラク大統領のテレビ演説に関する識者の見方は以下の通り。

●今回の演説で問題が収まるとは思えない

<ルイス・キャピタル・マーケッツ(ニューヨーク)のグローバル・リサーチ担当責任者、ロバート・バン・バーテンバーグ氏>

 過去8日間の抗議活動の広がりを見る限り、デモ隊は大統領の演説に満足しない可能性がある。ただ株式市場は、事態の安定につながるとして、好感するかもしれない。 もっとも、一部の人は、エジプト市民がどれほど改革を望んでいるか十分に理解していない可能性がある。今回の演説で問題が収まるとは思えない。

 たとえエジプト情勢が悪化しても、ドルが買われる展開になるとは思わない。エジプト情勢のリスクを把握するには、原油価格がよい指標になるだろう。 債券市場は、極度のスティープ化が進んでおり、この流れが大きく変わることはないとみている。 

●軍の動向に注目、行方を知るのはまだ先

<ワシントン近東政策研究所(WINEP)の中東アナリスト、デービッド・マコフスキー氏>

権力の移譲に軍がどう対処するかに注目が集まる。軍は約束どおり、関係各方面を取り込んだ対話を行うだろうか。米国はエジプト軍と数十年にわたって良好な関係を築いていることから、支援できる立場にある。 今後の展開を予想するのは時期尚早だ。イランやレバノンなど中東では、革命が当初と大きく異なる形で終わるのを見てきた。どのような結果になるかは恐らく長い間分からないだろう。

●今後数日は危険な状態に、軍の権限や結束が損なわれる可能性

 <ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの中東政治学教授、FAWAZ GERGES氏>

ムバラク大統領の演説は、同大統領の最も大胆な瞬間だったと言える。今後数日、エジプトは非常に危険な状態になるだろう。  エジプトは深刻な危機に直面し、軍は非常に危険な状態に置かれるだろう。軍の権限や結束が損なわれる可能性がある。軍は大統領を選ぶか、あるいは国民を選ぶかを問われる。 ムバラク大統領は現実から切り離されている。演説ではこれまでの失態や過ちには一切言及しておらず、国民の要望に耳を傾けることを忘れている。代わりに侵入者や反体制派がいかに操られているかについて述べている。 大統領は自身を、チュニジアのベンアリ前大統領やイランの元国王のように亡命することはない、強力な権力者と考えている。

●デモはさらに拡大する、新たな選挙を行うべき

<元駐エジプト・イスラエル米国大使 エドワード・ウォーカー氏>

 即時退陣の要求は続くだろう。民衆が、ムバラク大統領が抱く優美な政権移譲への願望に共感するとは思わない。

 彼らがこれまで募らせてきた怒りはそうすぐには消えないだろう。デモはさらに拡大すると思う。今週4日はさらに重要な日となると聞いている。デモ隊はモスクから出て、大統領邸を襲撃する予定だという。いま大統領邸の周囲に有刺鉄線が設置されてるのはこのためだ。

憲法は改正される必要がある。議会は解散すべきで、新議会に向けて新たな選挙を行うべきだ。

 ムバラク氏はプライドの高い、かなり頑固な人物だ。それこそが国民が大統領の退陣を求めている理由で、彼らは大統領を信じておらず、信じる理由もない。

 わたしは、大統領が(9月の大統領選挙まで)8カ月政権を維持できるとは思わない。

 まず最初に、ムバラク氏のまさに象徴である非常事態法を廃止する必要がある。

●さらなる怒りを買う可能性

<国際戦略研究所(IISS)の中東問題専門家、エミール・ホカイム氏>

 多くのエジプト人にとって、十分ではないだろう。テレビ演説は人々のさらなる怒りを買う可能性もある。受け入れられない要素がいくつもある一方、多少の自画自賛がある。もしこれが1月25日の時点で行わていたら、別の展開もあっただろう。

 語られた内容は、軍が引き受けることになるのではないか。同時に「秩序ある移行が必要だ」というPR作戦にもなるだろう。しかし、軍はムバラク大統領を守ってきたと見られている可能性がある。民衆に売り込むのは難しいだろう。

●任期全うは受け入れられない

<米ブッシュ政権時の国家安全保障問題担当上級顧問エリオット・アブラムス氏>

 うまく行かないだろう。カイロのタハリール広場に集まった人の中には、ムバラク氏が任期を全うするまで、あと8カ月大統領に居座ることを受け入れる人はいない。

●この状態が続くのは極めて危険

<エクスクルーシブ・アナリシスの中東・北アフリカ問題専門家、ファイサル・イタニ氏>

 十分ではない。ムバラク氏は非常に頑固だ。しがみつくことに躍起になっている。この状態が長く続けば続くほど、人々は軍幹部をムバラク氏と結びて考えるだろう。それは極めて危険だ。

●地域に衝撃を与える構造的転換

<政治コンサルタント会社ストラトフォーの中東アナリスト、カムラン・ボクハリ氏>

周辺地域に衝撃を与えるだろう。ドミノ効果が起こるとは言わないが、デモは増え、各国政府は確実に不安を感じるだろう。構造的転換だ。

 デモ参加者がこれで満足するとは思わない。もうひと押しで完全に失脚させられると考えるだろう。ムバラク大統領が9月まで居座るなら政権再編の機会を与えることになり、デモ参加者はそれを望んでいない。明日にでもまたデモに戻ってくるだろう。

 最も考えられるシナリオは、軍がムバラク大統領を退陣させざるを得なくなることだ。そうなれば暫定政権が必要となり、収拾がつかなくなる。選挙になれば、ムスリム同胞団が善戦する可能性が高いが、軍も役割を担いたがるだろう。

●エジプトや周辺地域にとってポジティブ

<バンク・オブ・ニューヨーク・メロンのシニア為替ストラテジスト、 マイケル・ウールフォーク氏>

 ポジティブだ。市場は予想していた。ムバラク大統領は任期終了前に退陣する可能性がある。市場は今回のテレビ演説を、エジプトや周辺地域にとってポジティブ、リスク選好にポジティブと解釈するだろう。