【コラム】エジプトで新時代の幕開け:中東は第4の局面へ


Capital Journal ―政治コラム
(WSJ 2011年 2月 1日 20:16) http://p.tl/PuqO


 過去60年の中東の歴史は、3つの局面にはっきり分かれる。まず、1952年のガマール・アブドゥル・ナセルによるエジプト革命で始まり、1967年のイスラエルとの戦争でアラブ世界として屈辱の敗北を喫した第2の局面、そして1979年にイランで起きたイスラム革命の第3の局面だ。

 第4の局面は、先週末にエジプトで始まった可能性が高い。しかし、カイロの町で起きている政治的な「改革」機運がこの地域と米国にとって吉と出るか凶と出るかは、ホスニ・ムバラク大統領、ムハンマド・エルバラダイ氏、そして多少なりともバラク・オバマ大統領によるところが大きい。歴史を参考にするならば、正確な答えを知るには、数年とまで言わなくとも数カ月はかかるだろう。

 ムバラク氏がすんなりと退陣し、実質的に開かれた選挙がこのアラブ世界の中心で実施され、後継者が選出されてエジプトの騒乱の幕引きとなれば、現在の混乱の後に、米国に恩恵をもたらす節制的な安定という新たな局面を迎えるだけなのかもしれない。しかし、これ以外の結末を迎えた場合、親米とは言い難い時代の幕開けを意味する。

 エジプトの騒乱は、チュニジアの似たような混乱の後に起きたものだが、冒頭で述べた歴史的な局面と共通点を持つ。それぞれの局面の歴史的事件は、一国に影響を及ぼしただけでなく、地域全体の視点をも変えた、という点だ。これらの歴史的事件が中東の西側アラブの盟主であるエジプト、または中東の東側ペルシャの盟主であるイランを中心に起きたことは偶然ではない。

 エジプト、イランの出来事は、中東全体に及ぼす影響が常に大きく、米外交政策がこの二国に強い関心を払っているのもこのためだ。

 ナセル革命の重要性は、伝統的なアラブの君主ではなく軍事評議会に権力を与えただけではなく、ナセル氏が大統領就任後、アラブのナショナリズムを推し進めたことでもある。

 ナセル氏は1952年の革命の立役者だったものの、権力基盤を固めるのに4年近くの歳月を要した。大統領就任後、彼はエジプトの指導者のみならず、イスラエル国家創設にまだ抗議する「偉大なアラブ国」の事実上のリーダーとして君臨した。多種多様なアラブ諸国をひとつにまとめることにより、「偉大なアラブ国」が世界の超大国と並んで正当な権利を主張できる、とナセルは説いた。

 1967年のアラブ対イスラエルの戦争で、エジプト軍とアラブ諸国が敗北したことは、この理念を揺るがした。アラブの知識層と一般市民は、ナサルのアラブ・ナショナリズムのビジョンに疑いを持ち始めた。これにより、自己反省と自己批判の時期が始まり、人々はアラブ・ナショナリズムが失敗に終わるのではないかと考えた。

 この十数年後、イラン革命が起きた。それはアラブ国家ではなく、隣のペルシャの大国での出来事だったが、このことで、イスラム統治がアラブ・ナショナリズムに代わる有望な選択肢との考えが脚光を浴びるようになった。この二つの理念は競合するもので、ムバラク氏を含め、伝統的で世俗のアラブの指導者は、新たな理念に直面し、権力を維持しようと無視した。

 今、エジプトは、もうひとつの転換の可能性を提示している。ただ、それは、まったく新たな道への転換――民衆の要求に応えて、民主的な統治を構築する――あるいは、イランで始まったプロセスの仕上げともいうべき反西側勢力の台頭に道を開くものなのかどうかはわからない。

 極めて重要なことに、こうした節目の結果がどうなるかは定められていない。当事国および国際的な力によって変えることができる。

 今は忘れられていることが多いが、イラン革命の道筋は当初、明白ではなかった。初めは、革命後の政府は宗教とは無関係の左派が主導していた。イランのイスラム共和国への移行を決定づけるには、数カ月と国民投票が必要で、イスラム憲法の起草にはさらに長い時間を要した。結局、1981年にアボルハサン・バニーサドル大統領が弾劾され、初めて、国政全般に聖職者が関与するイランの体制が明確になった。

 これが、エジプト騒乱の扱い方が重要な理由である。ムバラク氏が公開選挙への秩序だった移行を決め、エルバラダイ氏が聖職者と関係のない市民政府への効果的な橋渡し役となり、オバマ大統領がエジプトの最重要後援者としてすべての当事者をこのような結果に促すことができれば――新たな局面は、米政府にとって歓迎すべきものになるだろう。

 もしあなたが前向きな考えを持ちたいなら、ナサルの親友で有名なエジプト史作家、モハメド・ヘイカル氏が3年以上前に英紙のインタビューで語った暗示的な言葉について考えるべきだ。ヘイカル氏はこう言った。「携帯電話やコンピューター、衛星の影響――従来のやり方ではコントロールできない時代が来ている。時代は繰り返されるものだ。しかし、今、何か別のことが起きている」

 その「何か」は、吉ともなるし、凶ともなる。我々にはまだわからないだけだ。

記者: GERALD F. SEIB