鳩山辞任、小沢強制起訴は米国の謀略なのか


[とんでもないことになっている日米関係 ~在米ジャーナリスト 平安名純代~]

(日刊ゲンダイ2011/2/2)

日本中を揺るがした「小沢氏、強制起訴」のニュースは、日本では各大手紙が号外まで発行する展開となったが、意外なことにワシントン界(かい)隈(わい)では「予想していた範囲内」と静かに受け止められている。
日米関係に詳しいある米国務省筋に反応を求めると、小沢氏が若い頃に師事した田中角栄元首相と金丸信元副総理が、ロッキード事件での収賄容疑、脱税容疑などで逮捕された例を引き合いにして、「小沢氏が逮捕されるかどうかはあまり重要でない」と前置きし、「それよりも焦点は小沢氏の政治家としての影響力がどう変化するかだ。小沢氏起訴が民主党内の支持基盤にどう影響し、党の将来にどう影響していくのか。我々が関心があるのは、日本政界の勢力図がどう変化するかだ」と力を込めた。

その一方で、ある元高官は「小沢氏は世界に通用する稀(け)有(う)な政治家。小沢氏は政権交代の立役者。いわば民主党のゴッドファーザーだ」と語り、こう続けた。
「起訴は、対米追従という従来の構図を維持したいと願う層の厚さを表しているのだろう」
小沢氏が起訴された裏には政治的背景がある。対米追随派による小沢追い落としではないか。そうした層がいかに厚いか。それが浮き彫りになったということだ。この元高官は「日本に真の改革がもたらされるのは当分先だ」とため息をついた。さらに、「これが鳩山前政権時のニュースなら喜ぶ米政府関係者は多かったかもしれないが、米国の対中政策が変化した現在では微妙だな」と語った。
政権交代時、「対等な日米同盟」を目指した鳩山・小沢コンビ。米国を最も警戒させたのは、両氏が掲げた「対中関係の改善」だ。米国の参加を想定しない東アジア共同体構想は、日本が米国を切り捨て、中国と手を結ぶ新体制をつくろうとしているのではないか。こうした危機感を米国側にもたらした。あの米国が「蚊帳の外」となるのを恐れたのである。


◆元高官が背景をズバリ指摘
「世界のパワーバランスが明確に変化するなか、我々が中国にどう食い込めばいいのか思案している間に、小沢氏は総勢600人を引き連れて北京を訪問し、天皇と中国共産党幹部の会談までセットアップした。驚異的な出来事だった。小沢氏と友好関係が構築できれば中国も手中にできると主張する者もいたが、米国防総省筋の小沢氏への不信感は根強かった」
米保守派はこうした小沢氏の姿勢を敵視した。だから、メディアを通じて、民主党の信頼性に疑問を呈する「鳩山・小沢叩き」を展開したのである。
その結果、鳩山前首相は辞任した。しかし、中国と日本をアジアの政策課題に掲げる米の悩みは依然として深い。菅政権が誕生したものの、民主党政権と根本的な重要問題について議論するには時間がかかる。それを米国はようやく理解しつつある。
2期目に向けてオバマ大統領は現在、スタッフ刷新作業を進めているところだが、中には「日本抜きでは米国がアジアで成功するのは困難。日本をもっと重視せよ」と唱える高官も現れたそうだ。しかし、それ以前に米国自身の問題がある。
「米国は民主主義や法の支配、人権の重要性を説きながら、同時に独裁者を支援している。日増しに信頼を失っているのは米国だ」と鋭い米国批判を展開したのは、エジプトの反政府運動に加わっているエルバラダイ前国際原子力機関事務局長だ。
いまや世界の米国観が変わりつつある。ぐるぐる変化する米国の都合に日本は翻弄されている。(つづく)



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